【3-3】 兵農未分離 上

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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「牧畜と麦畑の繁忙期まで、あとどのくらいか」


 剣舞の儀式が終わり、将軍たちが各々の部署に戻った後も、レオンとその直属の配下たちは、大天幕に残っていた。


「あと3カ月ほどかと」

「やはりな……」

 若君と筆頭補佐官の問答は短い。



 子どもでも知っているとおり、ブレギアは畜産――馬の名産国である。


 フォラ=カーヴァルが帝国から独立を勝ち取るまでは、帝族所有の御牧みまきも領内のそこかしこに置かれていた。各国の有力者たちのなかでも、ブレギア産の馬は高値で取引されて久しい。


第1部 序

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816452221247529836



 馬は3月から5月にかけて繁殖期に入り、11カ月から12カ月で出産期を迎える。すなわち、牧場では翌年2月から4月頃、仔馬が次々と誕生するのである。


 また、厳寒季を乗り越えるため、厩舎の修繕、干し草積み作業、それに輓馬ばんば蹄鉄ていてつ付け替え等、冬支度も重労働だ。


 ブレギア領民の大半は、代々畜産に従事しており、春先と晩秋は1年で多忙を極める時期となる。とりわけ、当年の出産対応と翌年の出産準備とが重複する3月から4月にかけては、牧場では一族総出で家業に専念しなければならない。



 さらに、ブレギアはこの十数年、宰相ラヴァーダの主導のもと土壌改良が進み、灌漑かんがい設備が整えられていった。国土のほとんどを草原が占める畜産国家の各所で、いまや麦作りも盛んに行われている。


第1部【4-5】産を殖やし業を興す 上

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 近年、その生産量は飛躍的に増し、これまで交易でしか得られなかった穀物の自給に成功しつつある。足元を見られたような分の悪い取引を経ることもなく、自前で穀物を所有しうるようになったのだ。


 これは、厳しい冬季における飢餓から人々を救うこととなり、ブレギアにおける領民の平均寿命を延ばすにとどまらず、人口増にも寄与した。


 冬には気温がマイナス25度にまで下がるブレギアでは、冬小麦の栽培には適した地がほとんどなく、彼らが育てるのは専ら春小麦である。


 すなわち、種まきの春4月と刈入れの秋10月は、国内の各農村とも繁忙期を迎えるのである。



 ブレギアの産業がそうした事情でありながら、軍制は兵牧・兵農未分離――兵士イコール領民なのである。その構成員の大部分は、帰郷するやたちまち兵卒から牧畜家や麦作農夫へと姿を変える。


 兵卒の本業である畜産や麦作のために、ブレギア軍は無期限に出兵を重ねることはできない。


 牧場の出産や種付け、麦の種蒔きシーズンである春先と、牧場の冬支度・麦の刈り入れシーズンである晩秋は、一度帰国せねばならないのだ。


 もっとも、領主たちが各自戦費を負担しなければならない軍構造からして、無期限出兵など事実上不可能だったが。


 牧場で仔馬を取り上げることや、種蒔きとそれから1カ月後の麦踏みぐらいは、年寄りや女手で何とかしのぐことができよう。


 しかし、発情した牡馬を制御することや、収穫・乾燥・脱穀には、働き盛りの男手が不可欠なのである。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レオンたちがブレギア軍を差配できるようになって良かったと思われた方、

剽悍な騎馬民族も、行軍に時間制約があることに驚かれた方、

🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「兵農未分離 下」お楽しみに。


「リューズニル城塞攻略に2カ月も要してしまうと、残りの城塞にかける時間がなくなります」


額に手を当てるユーハを勇気づけるように、ブリアンが口を開く。

「この際、リューズニルなど後回しにして、周辺の小都市をまとめて攻略してはいかがでしょう」


「我らが引き揚げた後、それらをリューズニルのヤツらが取り戻してみろ」

「『リューズニル国』の誕生だ」

ブリアンの提案は、ハーヴァとトゥレムによる叱責の連携で報われる。

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