【3-2】 馬糞の剣舞
【第3章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575
【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407
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リューズニル城塞を前に、はじめてブレギア軍の進軍速度が鈍った。
【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249
リューズニルは、これまでの城塞都市とは明らかに様子が異なった。占領されるのを待っているような、いたいけな様子は少なくとも見受けられない。
城主・ヘェル=フングは、配下のスルト=ガングラティ将軍に命じ、城壁はもちろん周辺の支城の補強も整えていた。
そればかりではなく、領民たちは老人・婦人に加えて、幼子までが銃を手に取り、徹底抗戦の構えを示しているという。
「繰り返されてきた我が国との闘争に、多くの肉親を失ってきたからでしょう……」
「……」
ブレギア軍 宿将筆頭・アーマフ=バンブライが、天をやや仰ぎながらつぶやくと、若君・レオン=カーヴァルは唇を少しだけ引き結んだ。
リューズニル城塞の攻略作戦は、宿将たちが主導することになった。彼らは10年前の同城塞制圧の折、現地を
「支城を落としましたら、我らはそこを拠点とし、本城の糧道を断ちましょう」
総司令部中央に置かれた大きな地形図をの上を、クェルグ=ブイクの節くれだった指が動く。
城塞は領民を抱え込んでいる。そのウィークポイントを
「食糧に窮すれば、2カ月程度で城兵たちも行き詰ることでしょう」
ベリック=ナトフランタルが、年齢を感じさせぬ丸太のような腕を組み、作戦概要の説明を締めた。
老将軍同士、息の合った連携である。
宿将たちの方針は「力攻めは避け、包囲して城塞が衰弱するのを待つ」というものだった。
決を待つ一同が、若君・レオンを見つめていく。
臣下たちの視線を集めた金髪の若者は、一言だけ発する。
「2カ月か……」
主君をはじめ、その補佐官たち――上座を占める若者たちは、不満を隠しきれない様子であった。
だが、長い沈黙の後、宿将等による作戦案を了とした。
ブレギア総司令部の大天幕の外では、地を
その周囲では、レオンが厳粛な足運びとともにサーベルを左右に振り、祈文を読み上げている。
補佐官・ユーハによって、火元には乾燥馬糞がくべられていく。彼の絶妙な火加減によって、ささやかな炎と一筋の煙が維持されていた。
刃が厳かに空を切り、その度に雫が舞う。
左右にゆったりと旋回する二振りの剣には、補佐官・ハーヴァの
白酒に清められし剣が、邪念を払う。
酒雫は、祈願とともに地中へと染み入る。
酒雫は、
地下界神へ祈念せし願文が、煙とともに天上界神へと伝えられていく。
必勝を祈願するブレギア伝統の儀式「
先代・フォラ=カーヴァルは、作戦の
ブレギアの旧国名・ヘールタラ――その土着の古典的な儀式であったが、悲願達成のために誓約したことは絶対とされた。
例えば、勝利を得るために「万難に臆することなく前進する」と誓った後のことである。戦場で後退を余儀なくされたとある将軍の部隊は、国主直属の御本軍によって、敵もろとも圧殺されたことすらある。
神々とのやり取りは、小覇王・フォラの覚悟そのものでもあったのだ。
祈願成就の暁には、地下天上両界への
金属音の響きが残るなか、レオンが振り返ると一同がフラーと3度唱和した。
ただ1人、その輪へ加わらない小男がいた。
御親類衆筆頭・ウテカ=ホーンスキンだけは、その大きな眼球を隠すように目蓋を閉じていた。彼は、口端に皮肉な笑みを浮かべたまま、席を立とうとすらしなかった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
レオンたちがブレギア軍を差配できるようになって良かったと思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「兵農未分離 上」お楽しみに。
ブレギアの産業がそうした事情でありながら、軍制は兵牧・兵農未分離――兵士イコール領民なのである。その構成員の大部分は、帰郷するやたちまち兵卒から牧畜家や麦作農夫へと姿を変える。
兵卒の本業である畜産や麦作のために、ブレギア軍は無期限に出兵を重ねることはできない。
牧場の出産や種付け、麦の種蒔きシーズンである春先と、麦の刈り入れシーズンである晩秋は、一度帰国せねばならないのだ。
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