【3-1】 新生ブレギア軍の始動

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

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 ブレギア日報・12月4日朝刊一面『ハウグスポリ城 攻略す』


 ダーナタイムス・12月8日朝刊一面『スキルヴィル城をたちどころに攻略!ブレギア軍の勢い とどまるところを知らず』


 帝国御用新聞ターラ・12月11日号外『帝国外相異例の声明発表――フレーヴァング城 失陥を受けて』



 帝国暦384年も暮れようとしていた時分でありながら、新聞各紙の紙面はにぎやかだった。新生ブレギア国軍の躍動が、連日報道されている。


 ヴァーガル河会戦にて勝利を収めた後、一旦ブレギア勢はアリアク城に戻った。そこで、若返った主脳部のもと補給を終えるや、部隊再編もどかしく11月29日、再び打って出たのである。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 ディック=ハウグスポリやエッペ=スキルヴィル、それにグンナル=フレーヴァングなど、先の会戦で続々と降伏した帝国将校――元々、ヴァナヘイム国に従属していた国境付近の領主たち――を傘下におさめたブレギア軍は、全軍で8万にまで膨れ上がっていた。



 先の会戦を経て軍の実権を掌握したのは、勝利の原動力となった若君・レオン=カーヴァルと、彼を支えるドーク=トゥレム、ムネイ=ブリアン、マセイ=ユーハ、ダン=ハーヴァら補佐官たちである。


【1-37】 無事で何よりッ 《第1章 終》

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661202519893



 若者等は「自分たちこそが新たなブレギア軍を創っていく」という気概に満ちあふれていた。従前からの軍事研究の成果を余すことなく発揮していく。



 一方、帝国軍はヴァーガル河の潰走後、旧ヴァナヘイム国首都・ノーアトゥーンから東方へ派兵できないでいる。


 この年の初夏にアルベルト=ミーミルの反旗を鎮圧するも、滅ぼしたばかりのヴァ国は安定統治に程遠かった。


 雪だるま式に増えていく戦費負担にたまりかねて、帝国東都・ダンダアクでは、東部方面征討軍を既に解散している。


 その一方で、帝国は武威を示すため、旧都ほか、イエリン、エレン、グラシル、ヴァーラスと、主要都市へまとまった戦力を逗留とうりゅうさせねばならず、ブレギア国境にばかり構っている余裕はなかったのだ。


【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407



 いまや、旧ヴァナヘイム東方の地に点在する大小の城塞都市が、力なくその身を横たえるだけとなっている。


 ミーミル麾下として帝国との戦争に疲弊してきた上に、ヴァーガル河では帝国軍の手先となってブレギア軍に痛めつけられたいま、これら諸都市に組織だった反撃をする余力はなかった。


 こうした好機を逃すことなく、レオン等はそれらを併合する動きに入った。もちろん、各都市から散発的な抵抗は予想されるものの、帝国からの援軍がない以上、力ずくで押し通せばよいのだ。


 こうして、ブレギア新主脳部は慢心することなく指揮命令をよく統御し、各城塞によるの反抗を潰していった。




 ヴァーガル河沿いの3つの都市――ハウグスポリ、スキルヴィル、フレーヴァングを立てつづけに攻略したブレギア軍は、帝国暦384年12月初旬、さらに西へ駒を進めた。


 次に彼らが目を付けたのは、城塞都市・リューズニルであった。


再掲:【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



「ここを、正面から抜くのは骨が折れますな……」

 自ら視察してきた敵情と、偵騎たちからの報告を総合し、ブレギア軍総司令部では、宿将筆頭・アーマフ=バンブライが溜息をついていた。


 リューズニル――その地名を耳にして、愉悦ゆえつな気分になる者は、ブレギアの将兵には少なかった。10年前、この都市は、ブレギア軍によって大規模な略奪が行われた記憶は薄らいでいない。



 当時、ブレギア軍は2手に分かれて進軍していた。先代国主・フォラ=カーヴァル率いる本軍と国主義弟・ウテカ=ホーンスキン率いる別働隊であった。


 そして、リューズニル城塞攻略を担当したのは後者であった――。


 もっとも、国主義弟にも言い分はあった。度重なる戦役とそれに伴う莫大な戦費負担により、彼の配下たちの不平不満はもはや制御できない状況にあったのだ。


 帝国軍人の間では、占領した土地から戦費分を賄うことは黙殺されていた。さらに、古来、草原の民の間では、乗っ取った街から人品をかすめ取ることは当然の権利とされてきた。


 大多数が元前者の将軍たちと、純然たる後者の兵士たち――そうした組織上、無理な出兵を重ねていけば、いつかは大がかりな略奪が避けられない事態に至ったと言えよう。


 もっとも、略奪が横行するさなか、ブレギア国主義弟とその一族も、嬉々として強姦に加わっていた事実は伏せられている。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レオンたちがブレギア軍を差配できるようになって良かったと思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「馬糞の剣舞」お楽しみに。


ブレギア総司令部の大天幕の外では、地を穿うがった小さな穴に、焚火が起こされていた。


その周囲では、レオンが厳粛な足運びとともにサーベルを左右に振り、祈文を読み上げている。


補佐官・ユーハによって、火元には乾燥馬糞がくべられていく。彼の絶妙な火加減によって、ささやかな炎と一筋の煙が維持されていた。

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