【1-37】 無事で何よりッ 《第1章 終》
【第1章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801
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帝国暦384年11月14日夕刻、戦闘が収束すると、激戦地となったヴァーガル河東岸にて、御親類衆各隊と国主直轄軍の下にブレギア軍最左翼の生き残りが合流した。
からくも生き延びたクェルグ=ブイク、ベリック=ナトフランタル両宿将は、総司令部に顔を出した。司令部といっても、この民族特有の可動式天幕すら張る間もなく、周囲を柵と陣幕で覆っただけの仮本営であった。
周囲のあちこちで帝国軍の遺棄した荷車や野砲が、帝国兵の亡骸とともに打ち捨てられている。持ち主の分からぬ小銃やサーベルに交じって、腕や足も散乱していた。
風が落ち着いたためか、硝煙や血潮、臓物の臭いは立ち込めたままであった。数時間前まで、ここが戦闘の中心であったという証左である。
「おう、おう、両将軍よ、大儀であった」
「……」
「……」
作り笑いを顔中に浮かべ、大仰に腕を拡げて迎え入れようとしたウテカ=ホーンスキンなどに目もくれず、ブイクおよびナトフランタルはまっすぐに進んでいく。
胸元から首回りそして指先まで勲章と銀細工と宝石によって飾られたホーンスキン家当主と、頭髪から略装軍服そして軍靴まで、血と泥と汗にまみれた老将軍は、対照的であった。
御親類衆の前を素通りした両将軍は、若き主君の前に進み、その場で
青空の下、レオン=カーヴァルは、若者たちとともに簡素な食事を摂っていた。
両将軍の姿を認めるや、傍らの皿に盛られていたチャツァルガンの実を
「無事で何よりッ」
そう言うレオンも、血と泥と汗に汚れていた。
両将軍がはにかんだまま果物を受け取るや、前国主遺児は両の手で2人を覆うようにして、それぞれの肩を叩いた。
淡い金髪越しに戸惑う老将たちの表情――それらを御親類衆は苦々し気に見つめている。
「自らの立場も忘れ、直轄軍どころか、その身まで最前線にさらすとは」
「戦場に飛び込んだというではないか」
「なんという浅はかな」
それらの非難する声は虚しく響いて消えた。
火器が進歩し小銃装備が行きわたったこの時代、大昔の刀槍弓矢の時代のように指揮官が前線に姿をさらすことはほとんどなくなった。
ところが今会戦では、御曹司という立場も忘れて、レオンはそれをやってのけたのである。
しかし、無謀とも言える力技とはいえ、前国主遺児は、前国主義弟の反対を押し切って自軍を前進させ、絶望的な状況にあった宿老たちを救い出した。
そればかりか、帝国軍を全面的に打ち破ったのである。
帝国暦384年11月14日までの帝国・ブレギア間の一連の戦いは、後者の勝利によって終結した。
各国の新聞記者たちによって、戦闘を通じて存在感が際立った河川の名が、この戦いの名称に採用された。すなわち、「ヴァーガル河の戦い」の結果、草原の国内外の力関係に大きな変化が見られるようになる。
ブレギア・旧ヴァナヘイム国境付近において、前者の力が勝るようになった。
【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249
そして、ブレギア国内においても、変化が見られるようになる――権力構造の流れが変わったのである。
【席次】ブレギア国 国政の間
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668319578286
ウテカ=ホーンスキンと彼の一族衆は、多くの将兵を維持しながらも、求心力を失った。
一方で、レオン=カーヴァルと彼を支える若き一派は、多くの将兵を傷つけながらも、発言力を急速に増したのであった。
【作者からのお願い】
長らく第1勝にお付き合いくださり、ありがとうございました。
この先も「航跡」は続いていきます。
レオンの命を賭した戦い方は、ブイク・ナトフランタルたちの戦い方そのもの。若君は、宿老衆の心を掴んだな、と気か付かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
レオンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回から、第2章「少女指揮官とぐーたら参謀」が始まります。
まずは、恒例の「第2章 主な登場人物」から。
第1部で活躍した、紅髪の彼が戻ってきます。
新キャラの少女・コナリイも宜しくお願い致します。
お楽しみに!
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