【3-4】 兵農未分離 下

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 帝国暦384年も12月の中旬にさしかかろうとしている。ブレギア軍に、牧畜と農業の繁忙期が3カ月後に迫っていた。


 このリューズニルからブレギア国へはおよそ180キロ。そこから国内各地へはさらなる道のりが続く。


 復路の時間も含めると、多く見積もったとしても帰国のタイミングまで、あと2カ月余りしかなかった。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 今回の出兵は、慌ただしいものだった。晩秋にブレギア軍は一時帰国したとはいえ、兵卒たちはほとんど故郷に滞在出来ていない。


 次の春先には引き揚げねば、国内の産業は衰退するだろう。


 時間がない。


 若き主君とその補佐官たちが、宿将たちの作戦案――迂遠うえんな兵糧攻めに難色を示していた理由である。


【3-2】 馬糞の剣舞

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330662302056478



「リューズニル城塞攻略に2カ月も要してしまうと、残りの城塞にかける時間がなくなります」


 額に手を当てるユーハを勇気づけるように、ブリアンが口を開く。


「この際、リューズニルなど後回しにして、周辺の小都市をまとめて攻略してはいかがでしょう」


「我らが引き揚げた後、それらをリューズニルのヤツらが取り戻してみろ」


「『リューズニル国』の誕生だ」


 ブリアンの提案は、ハーヴァとトゥレムによる叱責の連携で報われる。


 畜産と農業がひと段落したブレギア軍が、旧ヴァナヘイム国に再度兵を向けた時には、態勢を整えた帝国も援軍を送ってくる可能性が出て来よう。


 その時には小都市ですら簡単に手出しができなくなることは、ブリアンもすぐに理解したようだ。



「……」

 金色の髪の新国主は、深い息を吐いた。


 レオンとその取り巻きたちは、内心焦っていた。


 ヴァーガル河で帝国軍を打ち破ったとはいえ、そのがいつまでも続かないことを彼らは知っている。



 先代国主は、敵対勢力に対して徹底した武断政治によってねじ伏せ、己の地位を築き上げていった。


 畏よりも畏の色合いの方が強かった「小覇王」の呼び名は、一朝一夕に浸透するものではない。


 しかし、五大陸七大海に染み渡ったその呼び名は、内政・外交・軍事あらゆる面で有効であった。それが例え、フォラ本人の実像とかけ離れたものであったとしても。


【1-3】 小覇王――虚像と実像と

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 一方、息子・レオンの武名は、まだ一朝に名が挙がった程度に過ぎない。その名が五大陸七大海まで浸透するには、戦場での多くの実績が必要とされた。


 ヴァーガル河で、帝国の後詰を追い払ったことによる無風状態……このような機会はそうそうあるものではない。駆け出しのレオンにとって、千載一遇のチャンスなのであった。


 馬の出産や麦の種きまでという限られた期間に、1つでも多くの城塞を落とし、先代のように、その名を大陸中に響かせなければならない。


 さもなければ、レオンは新国主として認められず、御親類衆はいつまでも彼を「レオン殿」と呼び続け、宿老たちが心から伏して戦場に赴くことはないだろう。


 国境の豪族たちはいつまでも旗幟きし不鮮明な態度を取り続けるであろうし、国内における反帝国移民派に蠢動しゅんどうさせることになる。


 先代以降、ブレギアの為政者たちは帝国からの移民――現体制を快く思わない者たちは山といるのだ。




 何より、隣国・シイナをはじめ周辺諸国は、いつまでも侵略の爪を引っ込めぬであろう。


【1-11】 東の大国、動く 下

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330668421619281





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ヴァーガル河での華々しい勝利――その栄光も時間制限付きなのだな、と理解いただけた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「ブレギア軍 つまずきと焦り」お楽しみに。


ダーナタイムス――2月3日夕刊『ブレギア軍 撃退される』


まったくの偶発的なものであった。ごく小部隊同士がぶつかっただけの小規模戦闘であった。


しかし、地味な兵糧攻めのため連日進展がなく、筆をもてあそんでいた記者たちによって、それは大々的に報道された。

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