【3-5】 ブレギア軍 つまずきと焦り
【第3章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575
【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407
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ブレギア日報――帝国暦385年2月1日朝刊『リューズニル城塞落ちず』
同報――2月2日朝刊『リューズニル 徹底抗戦の姿勢崩さず』
ブレギア軍がリューズニルを包囲してから2カ月が経過しようとしている。当初、宿将たちが落城の目安としていた頃合いに至っても、城塞は持ちこたえていた。
【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249
「将軍、まもなく2カ月となりますが、開城の気配も見えませんな」
「兵糧攻めにおいて、寄せ手の最大の敵は『辛抱』です」
ヒステリックな響きをもつトゥレムの問いかけに、バンブライは静かに応じた。
領民を抱えての籠城である。城塞内の食糧はとうに食べつくし、雑草はもちろん、ネズミまで食い潰しているようだ。
それでも、各国の記者たちが驚嘆するほどに、リューズニル城内の者たちの徹底抗戦の気概は衰えていなかった。ブレギア軍に対して、一弾でも多く発砲しようと息巻いている。
それだけ、ブレギアに対して抱く憎悪――10年前、家財を焼き払われ、息子を父を孫を殺され、娘を母を孫を犯さた恨み――が、
【3-1】 新生ブレギア軍の始動
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661408359633
将兵の士気という点では、ブレギア軍の方が深刻であった。
リューズニルの地は、ブレギアの草原に比べ緯度こそ低いものの、標高は600メートルほど高い。時期は2月という真冬にさしかかり、連日、明け方の冷え込みはマイナス30度近くに達した。
出征先のため、利用できる燃料にも限りがあった。朝食に用意されたスープはまたたく間に凍りつき、パンは石のように硬くかじれたものではなかった。寒さに慣れているブレギア兵たちも、これには閉口した。
ダーナタイムス――2月3日夕刊『ブレギア軍 撃退される』
まったくの偶発的なものであった。ごく小部隊同士がぶつかっただけの小規模戦闘であった。
しかし、地味な兵糧攻めのため連日進展がなく、筆をもてあそんでいた記者たちによって、それは大々的に報道された。
ブレギア軍の偵察隊が定時視察のため、リューズニル城塞の北東側の支城付近を通過した際、銃撃を受けたのである。
同偵察隊の所属先であるブリアン隊・中級指揮官が、ただちに麾下の一部をそちらに回した時だった。城塞本城の北東の門が突如として開いたのだった。
ブリアン麾下の支隊は、城内からの敵兵出現までは予期していなかった。たちまち撃ち
わずか1時間程度の衝突であり、ブレギアの総司令部に報告がもたらされたのは、すべてが終わった後であった。城塞はこれまでどおり、ピシャリと門を閉じてしまっている。
報告と謝罪に訪れた中級指揮官たちに対して、若き上官・ムネイ=ブリアンの怒声が発せられる。
「どうして、すぐに応援要請を出さなかったッ!?」
それは大天幕の外にまで空しく響いた。
同支隊は、引き揚げ方も悪かった。
銃を打ち捨て、軍旗を放り投げてほうほうの体で逃げ戻るブレギア軍と、粛然と足並みを揃えて城塞内に兵を収めたリューズニル軍――駆け付けた各国の記者たちが、飛雪の先に目撃したのは、対照的な両軍の姿であった。
その様子を各紙が大袈裟に報道したことも事実だが、「神速の騎翔隊」で鳴らすブレギア軍が、この小戦闘において新聞各社よりも動きが遅かったことは、
リューズニル城主・ヘェル=フングは、スルト=ガングラティ将軍を信頼し、兵馬の権をすべて任せているという。そして、ガングラティは、ブレギアの緩みを見逃さなかったわけだ。
その後も、彼による「ヒットアンドアウェイ戦法」は不規則に続けられ、ブレギア軍の士気を
帝国御用新聞ターラ――2月4日社説『ブレギア軍のつまずき』
リューズニルの空は風雪が覆い、相変わらず強い寒気に包まれている。
レオンは己の天幕内で1人舌打ちをすると、新聞をストーブのなかに放り込んだ。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
極寒の気候にしぶとい城塞……ブレギア軍の苦戦が心配な方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「凄み」お楽しみに。
「将軍、このような手前勝手な要求を、『はい、そうですか』と承って来られたのか!?」
「血気にはやっては、これまで待ち続けたことが無駄になります。それに、追い詰められた彼らと正面から戦った場合、我が軍の損害も無視できぬものとなりましょう」
だから、城塞内の将兵領民が腹を満たし、傷を癒し、体力が回復するまで、指をくわえて見ていろと!?――青年補佐官は犬歯を剥き出しにする。
いやいや、それどころか、彼らが安全な帝国領に逃げ込むまで、手を出すなと――老将軍は訂正する。
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