【3-6】 凄み

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 ブレギア軍が、リューズニル城塞を前に足踏みを余儀なくされていた帝国暦385年2月18日――。


 城塞側との交渉窓口であったアーマフ=バンブライの陣営に、城将・スルト=ガングラティが使者として訪れた。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 包囲を開始してから2ヵ月半が経過していた。城方は空腹に耐え、ブレギア首脳陣の予想をはるかに上回る期間、戦い抜いたといえよう。



「リューズニル城主・ヘェル=フングからの書状です」

 宿将筆頭・バンブライは、使者が持参した通信筒を差し出す。


 それを不機嫌そうに受け取るは、ブレギア国主補佐官・ムネイ=ブリアンである。


 補佐官一のファイターは、銀製の筒蓋つつぶたを開け書面を取り出すと、若君・レオン=カーヴァルの前に一礼し、内容を読み上げていく。



 しかし、そこに記されていたのは、城塞の無条件降伏ではなかった。



「開城する代わりに食糧と医薬品、3万人分の無償提供――」

 ブリアンの言葉に、苛立ちの要素が強まっていくのが分かる。


「さらには、領民、次いで城兵が領外に撤退するまで、このまま動くなだとッ!?」

 ブリアンはその筋骨隆々のかいなを絞り、通信筒もろとも書類をひねり上げた。


 ガングラティがバンブライに預けていった手紙である。天幕の隙間風が揺らす紙片には、城主・フングのサインらしきものが見える。


「将軍、このような手前勝手な要求を、『はい、そうですか』と承って来られたのか!?」


「血気にはやっては、これまで待ち続けたことが無駄になります。それに、追い詰められた彼らと正面から戦った場合、我が軍の損害も無視できぬものとなりましょう」


 だから、城塞内の将兵領民が腹を満たし、傷を癒し、体力が回復するまで、指をくわえて見ていろ、と!?――青年補佐官は犬歯を剥き出しにする。


 いやいや、それどころか、彼らが安全な帝国領に逃げ込むまで、手を出しませぬよう、と――老将軍は訂正する。


「生ぬるいことを、いつまでおっしゃるつもりかッ」


「城方は、やっと対話に応じる姿勢を示したわけです。これは間違いなく、講和への端緒になることでしょう」


 鼻息噴射し、奥歯きしむ武闘派補佐官を前に、微塵も臆することなく宿将筆頭は応じた。



 バンブライは、獣の毛皮を不格好にあしらったチョッキを着こんでいた。


 この防寒着のためだろうか、小柄なはずの老将軍の姿はひと回り大きく見えた。野性味あふれる獣毛が、着た者をひときわぎょしがたく感じさせる。


 それは、大柄なブリアンを圧倒するほどのすごみを伴った。




 ブレギア新国主の天幕には、カンテラは灯されていない。羊糞ようふんの燃える光だけがストーブから漏れるなか、主人とその筆頭補佐官がたたずんでいた。


「やはり、城塞のヤツらにも、春には我らが引き揚げねばならぬことは読まれているのでしょう」

 ドーク=トゥレムは冷徹な言い回しのなかに、忌々いまいましさを内包している。


 草原では、牧畜と麦作の繁忙期がすぐ先に迫っている。帝国軍も遠からず来援するのではあるまいか。


 レオンは、力なく焦慮の色さえ帯びた声を漏らす。

「俺たちには時間がない……」


 そんな主人に、筆頭補佐官は三白眼を鋭くし、小声で耳打ちする。


 耳穴へ献策を流し込まれたレオンは、金色の前髪の奥で水色の両目を見開く。

「……しかし、それではバン将軍のご苦労に、非礼をもって応えることになる」


 トゥレムは、鼻をひとつ鳴らす。


「老人への礼節か、新たなブレギア国での地位確保か……はかりにかける以前の話でしょう」

 筆頭補佐官の言葉は、突き放すような音色を帯びていた。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


バンブライ将軍の存在感にシビレた方、筆頭補佐官の企みが気になる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「落城と代償」お楽しみに。


「呆気ないものでしたなぁ」

「たしかに。しかし、これで時間の短縮になりましたわ」


「……月日を無駄に費やした。すぐに次の作戦行動に移れ」


ブレギア軍総司令部の天幕に「リューズニル城塞陥落」の報が伝わると、筆頭補佐官は周囲に指示を出した。三白眼さんぱくがん怜悧れいりな光を浮かべて。

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