【3-7】 落城と代償

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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「呆気ないものでしたなぁ」

「たしかに。しかし、これで時間の短縮になりましたわ」


「……月日を無駄に費やした。すぐに次の作戦行動に移れ」


 ブレギア軍総司令部の天幕に「リューズニル城塞陥落」の報が伝わると、筆頭補佐官は周囲に指示を出した。三白眼さんぱくがん怜悧れいりな光を浮かべて。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 帝国暦385年2月21日、ブレギア軍は城塞側の要請に従い、用意できた一部の食糧・医薬品を運び込んだ――騎翔隊とともに。


 一部とはいえ、城内の将兵領民5,000人分を数日間まかなう糧食――パンを作るための小麦粉や粉乳、砂糖である。それだけの物資を運び込むのに、城塞は、東、南、北東と3つの門を開放した。


 そこに、ブレギア軍屈指の銃騎兵が突入したのであった。



 リューズニル城塞は将兵だけでなく、老人女子供を多数抱えていた。


 有事の際は、帝国勢力圏内である西方の諸都市に非戦闘民を避難させる算段だった。しかし、ブレギア軍の進軍が予想以上に速く、それを果たせなかったのである。


 おまけに、城主・ヘェル=フング以下将兵たちは、自ら飢えを我慢し、蓄えていた糧食を非戦闘民に分け与えてしまっていたのである。そのため、半年分はもつとされた食糧庫も、1カ月ともたなかった。


 城内にブレギアの馬蹄が響いても、ひと月以上ろくな食事をとっていなかった城兵や領民は、まともに動けなかった。


 城内の者たちは、妙にぎらついた両目を怒らせ、恨みごとと思われる奇声を発したまま死んでいった。



 糧食医薬品とともに敵城内になだれ込む――。


 数日前、ブレギア軍総司令部では、主君の若い補佐官たちによって姑息な作戦が提示されるや、宿将たちが一斉に反発した。


 ブレギア主脳部は帝国亡命者たちの寄り合いでもある。自然じねん、宿将筆頭・バンブライはと訴える。


 それに対し、筆頭補佐官・トゥレムは冷厳に言い放つ。

「将軍、


 老将軍はたまらず金色の髪の若者――剣術の弟子へつぶらな瞳を向ける。

「若君、このような作戦を採ってはなりません」

 このイーストコノート大陸で我が国は信を失いますぞ、との忠告を言外ににじませながら。


【1-24】 寂しさと嫉妬と

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661506019011



 レオンは椅子に深く座っており、金色こんじきの前髪の先――水色の瞳はうかがえない。


 トゥレムが若君と老将――師弟の間に立ち、苛立たし気に口を開く。

「将軍、まだ敵の言葉を信じておいでか」


 城塞の者たちは、我らが間もなく草原に戻らねばならないことを知っているのだ。


 そんなところに食糧を運びこんでみよ、彼らは息を吹き返し、最後まで城塞を守り抜くだろう。我らが撤退する際に、追撃をしかけてこないとも限らない。



 大儀そうに説明を重ねる筆頭補佐官に対してではなく、老将は必死に先代の遺児に向けて懇願した。ご再考ください――と。



 悲し気な音を立てて、天幕内に冷たい風が吹き込んでくる。



「バン将軍……」

「ハッ」

 隙間風をきっかけにして、ようやくレオンが口を開く。バンブライは、一言も聴き漏らさじとにじり寄る。



「……城壁突破のきっかけをつくってくれたこと、感謝する」

 レオンは力なく、しかも一言応じただけだった。ばつが悪そうに、頬を歪ませながら。



 バンブライの淡い期待は、にわかに裏切られた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


若君・レオンの本当の気持ちは、宿将・バンブライと近いはずなのに……と気が付かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「少女の亡骸」お楽しみに。


「城主・ヘェル=フング以下、主だった者はすべて討ち果たしております」

珍しいことに、筆頭補佐官・ドーク=トゥレムの声が心なしか上ずっていた。


「……ご苦労」

レオンは、下腹部に無理やり力を込め、泰然とした立ち居振る舞いに努めた。


「帰国の前に、1つでも多く城を落としましょうぞッ」

輸送隊とともに城塞内へ乱入したムネイ=ブリアンだったが、まだ暴れ足りないようだ。鮮血を浴びた外套を胸元まで開けていた。


「……もちろんだ」

金髪の若者は、武闘派補佐官に向けて言葉をひねり出す。胃に片手を添えながら。

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