【3-8】 少女の亡骸

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 血と硝煙の臭いがうっそうと滞留する城門を、黒毛の馬にまたがった金髪の青年一行がくぐる。


 周囲には、胸や腹を撃ち抜かれた者、腕がもげた者、頭の一部が崩れた者……リューズニル城内では、将兵領民の屍が凍てついた地面や階段に折り重なっていた。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 これまでも、凄惨な戦場にレオン=カーヴァルは臨んできた。


 それなのに、この現場に限っては、頭がのぼせてしまい、胃酸が逆流するような不快感を抑えることができない。愛馬のたてがみに顔を押し付けたくなる気分を必死にこらえるばかりだ。



「城主・ヘェル=フング以下、主だった者はすべて討ち果たしております」

 珍しいことに、筆頭補佐官・ドーク=トゥレムの声が心なしか上ずっていた。


 彼の考案した「食糧に紛れての騎兵の一斉突入」は、新聞各紙を驚嘆させ、五大陸を震撼させた。電撃的攻勢によって、もぎとった戦果はあまりにも大きかったといえる。


「……ご苦労」

 レオンは、下腹部に無理やり力を込め、泰然とした立ち居振る舞いに努めた。



「帰国の前に、1つでも多く城を落としましょうぞッ」

 輸送隊とともに城塞内へ乱入したムネイ=ブリアンだったが、まだ暴れ足りないようだ。鮮血を浴びた外套を胸元まで開けていた。


 過日の偶発的小戦闘で、彼の麾下が失策を犯していただけに、名誉挽回にかける意気込みがひときわ大きかったといえる。


【3-5】 ブレギア軍 つまずきと焦り

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330662302655627



「……もちろんだ」

 金髪の若者は、武闘派補佐官に向けて言葉をひねり出す。胃に片手を添えながら。



 配下の者たちは意気軒昂けんこう、天を衝くばかりだ。しかし、彼等を束ねる最高指揮官レオン自身は、虚勢を張ることにも難儀する有様だった。


 受け答えに快活さを欠くばかりか、冴えない顔色も隠し切れていないだろうとの自覚すらある。




 すでに2月も半ばを過ぎている。


 移動時間を考えれば、そろそろブレギア本国に向けて兵馬の足を反転させねばならない。畜産と麦作着手までの持ち時間は無くなったのだ。


 ところが、残り時間をあれほど気にかけていたレオンが、ここに来て上の空になっていた。


 それは本人が自覚を持ったところで、手の施しようがなかった。さらなる進軍を提案されても生返事を口にするのみで、黒煙昇るなかとろとろと駒の足を進めるばかりである。


 

 城塞内を奥へと進むにつれ、非戦闘民と思われる屍骸が増えていった。



「……ッ!!」

 返事ともつかない声を返すばかりだった金髪の若者が、ここに来て突如動きを止めたのである。



 目の前に横たわる黒髪の少女の亡骸を、じっと見つめたまま。



***



 いたるところに、賊兵だけでなく、逃げ遅れた村人の死体が転がっていた。


 背中から銃弾を受けた者、頭を割られた者が往来のそこかしこに倒れている。焼け崩れた家屋から足や腕が延びているのが視界に入った。


 凄惨せいさんさを伝えてくるのは視覚だけではなかった。焼け焦げた家屋の臭いが辺り一面に充満していた。そこに、血の生臭さと焼けた遺体が発する脂臭さが混ざっている。


 この言語に絶する臭気も、この場がつい先刻まで殺戮さつりくの場であったことを如実に表していた。



「……起きろ」

 金髪の少年が黒髪の少女に声をかける。


「おい、起きろよ」

 少年は両膝をついて、さらに声をかける。



 だが、黒髪の少女は問いかけに応じることはなかった。


「こんなところで寝ている場合じゃないだろう……」






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


少年レオンが出くわした凄惨な現場が気になる方、ヴァナヘイム軍は帰国しなくて大丈夫なのか心配な方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「水道橋」お楽しみに。


占領したリューズニル城塞の広間において、ブレギア軍首脳部による対ウルズ城塞攻略軍議が開かれている。


複数の石炭ストーブのおかげで、凍てつくような外気も室内では緩和されていた。


若き補佐官たちが露骨に嫌な顔をするなか、宿将3人は再び正面攻撃の無理を説いていく。

「若君、この城の弱点は水の手です」


「水……」

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