【1-11】 東の大国、動く 下

【第1章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801

【席次】ブレギア国 国政の間

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668319578286

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 トゥメンは、ブレギアの東端にある城塞であり、ヘールタラ語で軍事・行政の単位「万」を意味する。


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277



 古くからこの地は、「万単位の軍勢を繰り出すことのできる城塞」として認識されていた。現在においても、シイナ国に隣接する東の国境の防衛上、重要拠点である。


 そのトゥメンから、「隣国がこちらに攻め込もうとしている」との急報がもたらされたのである。


 だが、援軍を東へ向けようにも、ブレギア軍は主力を西の方角に向けつつある。ヴァナヘイム国の一部を火事場泥棒――もとい、かすめ取らんがため。



 御親類衆ホーンスキン一族の立てた軍事方針の根幹が、あっさりと崩れた瞬間であった。



「馬鹿な、何年も動かなかったシイナ国が、いまさらどうして」

 ブランは、手元の資料を繰ろうとして、珈琲の入ったカップを倒した。


「兄上、火傷は!?」

 弟のスコローンほか数名の一族が、慌ててカップの処理に群がるが、本人はそれに気付いていないようだ。


「な、何故だ……」

 ブランは、袖口に茶色い染みをつくったまま、呆けたようにその大きな体の動きを止める。



「うちの軍事行動が筒抜けだったからだろうて」

 宿老・ナトフランタルは頬杖ほおづえをつきながら、東側の席へ一瞥いちべつをくれた。


「シイナの連中と不可侵条約を取り交わしたわけでもないからのぅ」

 宿老・ブイクが合いの手を打つ。


 ブレギア・シイナは同盟関係にはない。シイナ国が、手薄になった隣国へ攻め入ることに、国際法――帝国法――にもとることはない。


 一方で、ブレギア・ヴァナヘイムは、対帝国の利害が一致し、昨年から相互扶助の関係にあった。


 ブレギアが隣国から援兵を退いたからといって、その約定は生きている。ホーンスキン一派が主導するヴァナヘイム国でのの方が、帝国法に抵触する要素が多いだろう。



 混乱を様相が収まらない東側の席にあって、一族の長たるウテカは、泰然とした態度を演じるのに疲れたようだ。彼はとした両目を怒らせ、国政会議の散会を強制的に提唱した。


「……」

 宰相・ラヴァーダだけは国政広間・西側の末席に座したまま、騒動のうずにも、野次の輪にも加わらなかった。


 淡いすみれ色の瞳は、カップのなか――琥珀色の液体を静かに見つめていた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


西へ攻め入ろうとしていたら東から攻め込まれるなんて、と焦った方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


ブレギア家臣団が乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「会議後――御親類衆」お楽しみに。


「あの目障りな宰相を、追いやる良い機会だ……」

ウテカの痘痕あばた頬の上にある両目には、脂っこい光沢が宿っている。

「……『宰相殿なくして、帝国相手に戦果をあげることこそ肝要』ということだ」


「なるほど」

「さすがは、ジャルグチ様」

幾分かの冷静さを取り戻した御親類衆は、一斉に首肯した。顔色はいくぶんか青ざめさせたまま。

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