【1-12】 会議後――御親類衆

【第1章 登場人物】

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【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277

【席次】ブレギア国 国政の間

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668319578286

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 東の隣国・シイナより侵攻の気配あり――急報に接し、ブレギアの国政会議は一時散会となった。


 国政の間を退出した御親類衆は、その筆頭・ウテカの執務室に青ざめた顔を並べていた。


 豪壮なシャンデリアに色調強い巨大な油彩、それに獰猛どうもうな海獣の剥製など、内装・調度品をもってしても、末弟・スコローンの顔色は冴えない。

「い、急ぎ、ご子息・ケルトハ様やバンブライ将軍にお戻りいただきましょう」


「い、いまさらそんなことはできん。帝国側も我らの動きに呼応して、兵を動かしはじめている」

 末弟の提案は、袖を汚したままの次兄・ブランによって即座に却下された。



 下手をすれば、旧ヴァナヘイム領より帝国軍の侵攻を招きかねなかった。


 ブレギアは、これまで東西から一斉に攻め寄せられたことがない。


 宰相・ラヴァーダは、

 西のヴァナヘイムと銃弾を交換する際には、東のシイナと手を結び、

 東のシイナと剣を斬り結ぶ際には、西のヴァナヘイムをなだめ、

 そのうえで自軍を動かした。


 50以上の民族が広大な国土にひしめくシイナに対しては、民族同士の対立をあおることで足止めした時には、各国の軍事・外交関係者をうならせた。


 軍事とは、そうした外交や調略の機微きびも含めての駆け引きであることを、この部屋に集った者たちは心得ているはずだった。


 だが、実践することの難しさは別次元の話である。



「ラヴァーダにシイナを迎撃させるしかあるまい」

 動揺する御親類衆を鎮めたのは、この部屋の主であった。その声は落ち着きを取り戻していた。


「あの目障りな宰相を、追いやる良い機会だ……」

 宰相殿なくして、帝国相手に戦果をあげることこそ肝要ということだ。ウテカの痘痕あばた頬の上にある両目には、脂っこい光沢が宿っていた。


「なるほど」

「さすがは、ジャルグチ様」

 幾分かの冷静さを取り戻した御親類衆は、一斉に首肯した。血の気を取り戻しきれない顔色のまま。


 ブレギアのなくして対帝国戦で勝利を得る――それが、国内外からの権威と名声、一挙両得の効果があることについて、この部屋に疑う者はいなかった。


 また、程度の差こそあれ、誰しも心のどこかにを抱えているものである。


 昨年まで行われたヴァナヘイム支援に際して、ラヴァーダは各地の領主たちに戦費負担に応じた救済措置を講じてきた。戦傷を負った者、戦死した者の遺族には、国庫から補償も施している。


 ところが、同制度を良いように利用し、私腹を肥やしてきたのは、他ならぬこの部屋の者たちなのだ。


第1部【12-8】君臣師弟

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428118427093



 宰相殿は、先の先までいつもお見通しであった。そうした存在に、御親類衆はみな、腹の底を常に見透かされているような、ある種の薄気味悪さすら感じていた。


 だから、宰相殿には、少しでも……出来れば可能な限り距離を置いてほしいものなのだ。



 目前に迫った危機への確実な対処に加え、権威と名声、さらには精神的安寧私腹肥やしの隠蔽を一度に得ることができる――。


 キアン=ラヴァーダをトゥメン城塞に差し向けることは、一石鳥ともいえる。


 ウテカの提案について、御親類衆は歓迎したのであった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


結局、宰相殿に頼るのか、と呆れてしまった方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


ブレギア家臣団が乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部」お楽しみに。


第2部のすべてが詰まった地図が広がります。

お見逃しなく🗺

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