【1-10】 東の大国、動く 上

【第1章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801

【席次】ブレギア国 国政の間

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668319578286

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 ヴァナヘイム領侵攻の支度が整っていく。


「御令息・ケルトハ様および、バンブライ、ボルハン各将軍率いる先発隊歩兵2万、騎兵5,000が、5日前にアリアク城塞に向けて出立しております」


 この日もブレギア国政の間では、東の面・席次筆頭のウテカ=ホーンスキンが、満足そうにうなずき、報告の続きを促していた。


 ウテカの自称する旧官途名ジャルグチとやらは、国政審議の進行役も兼ねるらしい。


 南の面・席次筆頭の御曹司――レオン=カーヴァルも、

 西の面・末席の宰相――キアン=ラヴァーダも、

 そこに居ないかのような振る舞いである。


 もはや、この巨眼の痘痕面あばたづらが、新国主に就任したかのごとき態度であった。



 帝国暦384年10月、草原も実りの季節にさしかかりつつある。


 宰相・ラヴァーダが取り組んできた富国強兵策の一環により、ブレギア国内では、春小麦の生産が盛んに行われていた。今年も収穫の時期が迫っている。


 収穫を終えれば、長く厳しい冬が訪れる。連日、零下20度の日々が続くなど、この大草原に舞い降りる冬の峻烈しゅんれつさは、筆舌に尽くしがたい。


 麦作が盛んになったとはいえ、ブレギアは畜産国家である。そうした厳寒期を前に、牧場の移動、飼料の準備、さらに輓馬ばんば蹄鉄ていてつ付け替えなどの冬支度は、一族総出で行う重労働であった。


 昨年、「領民の負担過多」を大義名分に掲げ、帝国軍後方攪乱かくらんの作戦中止を提唱したウテカだったが、その舌の根が乾かぬうちに、このような時期に兵馬を動かしている。


第1部【12-7】一羽の白い鳥 3

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330648711382561



「ジャルグチ様以下、御親類衆様が率いられる中軍におかれましても、来週半ばには御出立いただけ……」


「申し上げますッ!」


 補佐官たちが奏でる報告という名の小気味良い旋律は、無粋な情報官の1人が国政の間に飛び込んできたことによって中断された。


「……何ごとだ」

 ウテカが不機嫌さを隠そうともせず、闖入者ちんにゅうしゃをにらみつける。あくまでも鷹揚おうように振る舞おうとしているが、その甲高い声は威厳に欠けた。


「トゥメン城塞より至急電!シ、シイナ国が、我が国へ侵攻せんと、出兵の兆しありとの由」


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277



「な、何だと!?」

「シ、シイナ国が……」

 御親類衆およびレオンの補佐官衆は、みな椅子から飛び上がった。


「……」

 宰相はティーカップに伸ばした白い手を止めた。


 眠たそうだった宿老衆は、わずかに目を開いた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


西(ヴァナヘイム国)へ攻め入ろうとしていたら東(シイナ国)から攻め込まれるなんて、と焦った方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


ブレギア家臣団が乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「 東の大国、動く 下」お楽しみに。


「うちの軍事行動が筒抜けだったからだろうて」

宿老・ナトフランタルは頬杖ほおづえをつきながら、東側の席へ一瞥いちべつをくれた。


「シイナの連中と不可侵条約を取り交わしたわけでもないからのぅ」

宿老・ブイクが合いの手を打つ。

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