【12-7】一羽の白い鳥 3

【第12章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558

【世界地図】航跡の舞台※第12章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330648632991690

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 ブレギアが各地に派遣している騎翔隊を引き揚げれば、帝国軍はたちまち息を吹き返す。さすれば、ヴァナヘイム軍優勢の戦況など、三月みつきと経たず、帝国軍はひっくり返してしまうだろう――。


 キアン=ラヴァーダの透き通るような声――その残響が消えぬうちに、広間はたちまちどよめきに包まれる。


 これまで数々の戦況予測を的中させてきた宰相の断言に、先王義弟の方針になびきかけていたブレギアの重臣たちは、思わずひるんだ。


 ウテカも凹凸のある片頬をつり上げ、聞き入っていたが、自らを奮い立たそうと腹に力を込めて切り返す。


「片道1,000キロにもおよぶ遠征を続けること3カ月。しかも日に日に派兵部隊の数は増しておる。それらの戦費負担が、ここにいる各領主、さらには彼らの抱える領民たちにのしかかっていることを、卿は忘れておるようだな」


 この先王義弟の言葉には、取り巻きのブランやスコローン等ホーンスキン一族衆のみならず、アルレルやクーウル等この場に集ういくつかの臣下たちも小さくうなずいていた。


 繰り返すが、彼等は親族・親友の仇たる隣国を救うことについて、割り切れないものがあるのだ。


 広間の雰囲気をつかみ、ウテカは仕掛ける。見よ、とばかりに彼はラヴァーダに紙の束を差し出す。それはまるで投げつけられるような勢いで、白手袋をはめた宰相の両手に収まった。


「我が国のあちこちから、度重なる出兵に対する怨嗟えんさの声が上がっておる」

 怨嗟の二文字を中心に、国主義弟は敢えておどろおどろしい声を絞り出した。


「嘆願書……ですか」

 相手の演技じみた言葉に、ラヴァーダはさして感じ入った様子を示さなかった。彼は右手袋を外すと、細く長い指で紙片を繰り、素早く眼を通していく。


「一部の領民の声だけをもって、ブレギア全土の声と差し替えてはなりません」

 署名欄に連なる領民たちの住まいは、どれもウテカとそれを取り巻くホーンスキン一族衆の領土ばかりであることに、宰相は気が付いたようだ。


 たちまち頭のなかを整理したのだろう、ラヴァーダがさらに舌鋒ぜっぽう鋭く反撃しようとし、ウテカが身構えたときだった。



 「もう、いいんじゃないかな」



 若く通る声が、国政の間の奥から発せられた。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


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【予 告】

次回、「君臣師弟」お楽しみに。

先王義弟VS宰相から、先王遺子VS宰相に、論戦はシフトします。


宰相は若い主君に向けて続ける。

「我が国としては、これまでどおり帝国軍の体力を削ぐことに専念し、帝国の脅威を隣国までにとどめておくことこそ、肝要かと」


「この国は大丈夫だよ。これまでだって、宰相は帝国軍を撃退してきたじゃない」


広間に集った者たちは、固唾かたずを飲んで若君と宰相のやり取りを見守っていた。

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