【12-6】一羽の白い鳥 2

【第12章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558

【世界地図】航跡の舞台※第12章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330648632991690

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 宰相・キアン=ラヴァーダが、先王遺子・レオン=カーヴァルを連れて、ブレギア国政の間に入室した。


 遺子を取り巻く4人の若者が、先王の義弟を取り巻く親族衆を押しのけ、道をつくっていく――広間の中央奥に設置された玉座まで。


 レオンは、立ちすくむウテカ=ホーンスキンの前を進んだ。律動的に揺れる頭髪が、金色の軌跡を描いていく。


 そして、中央壇上に置かれた無骨な椅子へ、腰を下ろした。


 ここに御曹司は、国主となったのであった。



「構わない。議論を続けてくれ」


 新国主の煥発かんぱつたる言葉を合図に、ウテカは、玉座に未練がましく視線を送ることをやめた。若造など、後でどうにでも出来るのだ。



 彼はラヴァーダと対峙たいじする姿勢をとった。


 国政の間・北側テーブルの両端で、前国主義弟と宰相はにらみ合った。


 ――相も変わらず、邪魔ばかりしおって。

 西の田舎城塞に追い払った先代の遺子を、よくもまあこの国政の間に連れ戻してくれたものだ。目の前に立つ好男子へ、ウテカは忌々いまいまし気に焦点を合わせる。


 急ぎ駆けつけてきたのだろう、ラヴァーダのうなじに垂れる銀髪は、汗で光沢を増していた。


 先王義弟の視線に気が付いたのか、彼はその形の良い口を皮肉っぽく開く。


「道中、我らの進行を妨げるが出没しましてな。ブイク将軍、ボルハン将軍とともにひと汗かいて参りました」

 宰相はそう言いながら、鋭い視線をこちらに送り返してきた。


 ――足止めも失敗したか。

 ウテカは小さく舌打ちする。あんな野獣のような将軍どもに迎撃されたのでは、ひとたまりもあるまい。


 彼らの道中に襲撃を企てたは、念には念をと親族衆が備えていた一手だっただけに、中途半端なものになってしまった。


 露骨すぎるやり口に、この白皙はくせきの男は、こちらの差し金だと簡単に見抜いていることだろう。すみれ色の眼光は、いつになく鋭い。



 彼の視線を避けつつ呼吸を整えると、ウテカも反撃に出る。

「さ、宰相、アリアク城はどうした」


「ドネガル城塞司令以下、バンブライ、ナトフランタル、ブルカンの四将軍に任せて参りました」


「この国家存亡の折に、国境の最重要拠点を脱け出してくるとは、けいは事態の深刻さを理解していないようだな」


「恐れながら、ヴァナヘイム国からの撤兵こそ、国家存亡の一大事と考えた次第であります」


 痘痕頬あばたほほをゆがめた先王義弟を前に、陶磁器のような頬を動かしラヴァーダは自説を展開する。


 ヴァナヘイム国が滅ぼされるようなことがあれば、次に帝国から牙を向けられるのは我が国になる、と。


「何を憂慮しておるのか。卿らしくもない」

 ウテカは眉をしかめて、宰相の整った顔をのぞき込む。不思議なもので、前者の身長は後者よりも30センチは低いものの、顔のサイズは前者の方が後者よりも一回り大きい。


「宰相よ、夏以降ヴァナヘイム軍は、帝国軍相手に優勢に戦いを進めていると聞いておるぞ」


「それは、一時的に盛り返しただけのこと。我らが兵を引き揚げ、帝国が息を吹き返せば、三月みつきと経たず、戦況をひっくり返してしまうことでしょう」






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


宰相の予測に驚かれた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ラヴァーダたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「一羽の白い鳥 3」お楽しみに。


広間の雰囲気を掴み、ウテカは仕掛ける。見よ、とばかりに彼はラヴァーダに紙の束を差し出す。それはまるで投げつけられるような勢いで、白手袋をはめた宰相の両手に収まった。


「我が国のあちこちから、度重なる出兵に対する怨嗟えんさの声が上がっておる」


「嘆願書……ですか」

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