【12-5】一羽の白い鳥 1

【第12章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558

【世界地図】航跡の舞台※第12章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330648632991690

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「国主の喪に服さねばならんいま、ヴァナヘイム国からの撤退を決めたいと思う」


 帝国歴383年9月25日、ブレギア先王の義弟・ウテカ=ホーンスキンは、王座より立ち上がると、自らの言葉の念を押すようにして周囲をにらみまわした。


 先帝のむくろも冷めきらぬなか、御曹司・レオン=カーヴァルと宰相・キアン=ラヴァーダが不在をいいことに、彼は、首都・ダーナは国政の間をつかさどっている。


「……」

「……」

「……」

 集った臣下たちは、眼をつむり、腕を組み、下を向いていた。



 騎翔隊による帝国軍の後方攪乱かくらん――先の国主が御在世の折、宰相・キアン=ラヴァーダの鶴の一声で決まった方針だ。


 だが、彼に心酔するエタル=アニュヴァルやロディ=メイヴといった武官たちですら、その方針追従について、自らを納得させるのに困惑してきた。


 ――小規模とはいえ、隣国のためにどうして出兵を重ねなければならないのか。


 戦費負担は日増しに重くなっていくばかりであった。


 この広間に集まった者たちは、隣国・ヴァナヘイムとの戦いにより、親兄弟に息子、それに友人を失ってきたのだ。


 「親族親友のかたきなど、戦費を負担してまで助けたくはない」というのが、彼らにおいて一致した見解であった。



 助けるどころか――。


 ――帝国の手によって、隣国の命運は風前の灯火ともしびではないか。


 ――ならば、我らもそこへ押し入り、少しでも多くの領土を奪い取るべし。


 先王義弟の提案は、広間に集った者たちの思いの代弁であった。



「……おのおのがた、異存はあるまいな」


「……」

「……」

「……」

 反論の声は上がらなかった。


 この数日、議論は尽くしていた。


 アニュヴァルやメイヴだけではなく、オーグそれにミレシアン兄弟といった武官たちも、ウテカの意向に慎重論を唱えてきた。


 しかし、その根拠は、「先々のことを見通すことのできる宰相が決定したことを、軽々にくつがえしてよいものなのか分からぬ」という薄弱なものであった。


 その点、ホーンスキン一族の提案――助けるくらいなら奪ってしまえ――の方が、彼ら5人……否、この場に集まった者たち全員の心にかなうものがある。


 若君でも宰相でもなく、前国主義弟が国政をさばき始めていることへの疑問は、日に日に大きくなっている。しかし、「ヴァナヘイム領遠征の継続是非」という議題とは、直接関係はない。



 方針は決まったようだ。


 ウテカは玉座から立ち上がると、ロの字に組まれたデスクの際まで下りる。


 そこで、彼がその大きな眼を細め、満足そうにうなずいた時だった。



御舎弟ごしゃてい、それはなりません」

 国政の間に、透き通るような声が響いた。



 臣下のなかには、広間に一羽の白い鳥が舞い降りたものと錯覚した者もいた。



「おお、ラヴァーダ宰相」


「宰相閣下」


「それに、若君まで」


 重臣たちは――先王義弟とその親族を除いて――乾季の終わりに雨滴を浴びた草木のごとく、一様に活気を取り戻した。


 宰相・ラヴァーダが、白き民族衣装をひるがえし、先王の遺子・レオンを連れて入室したのだった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


次回、国主義弟と宰相の論戦が気になる方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ラヴァーダたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「一羽の白い鳥 下」お楽しみに。


宰相・キアン=ラヴァーダが、先王の遺子・レオン=カーヴァルを連れて、ブレギア国政の間に入室した。


先王の遺子を取り巻く4人の若者が、先王の義弟を取り巻く親族衆を押しのけ、広間の中央奥に設置された玉座まで道をつくっていく。

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