【12-4】草原の御曹司 4

【第12章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558

【世界地図】航跡の舞台※第12章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330648632991690

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「こんな時間に輜重しちょう隊だと?」

「首都のホーンスキン様によるご命令なんだとか」


 ヴァナヘイム国領西端のアリアク城塞では、御曹司・レオン=カーヴァルの深夜の来訪に騒然となっている。



「若君、こんなお時間に、何故お越しになられたのか」

 御曹司ご一行のために、城塞司令官・ダグダ=ドネガルが急ぎしつらえた部屋へ、ブレギア国宰相・キアン=ラヴァーダは急ぎ参上した。


 室内では、入浴を終えたレオンとその補佐官4名が、山葡萄をすり潰した飲料を片手に一息ついているところだった。


 夜の更けた刻限、宰相はさすがに簡易な夜着のままであったが、純白の外套がいとうをその上に羽織っている。


 それにしても、この土地の先住民が連綿と紡ぎ羽織ってきた白い衣装は、数百年後にこの銀髪の宰相が身にまとうことを予期してつくられたのようだった。


 それほど、この民族衣装を身につけたラヴァーダは様になっており、御曹司の若き取り巻きたち――ムネイ=ブリアン・マセイ=ユーハ・ダン=ハーヴァ等は、思わず見入ってしまう。


 しかし、レオンの目には、先住民懐柔かいじゅうのため、これ見よがしに着こなしているようにしか映らず、不愉快さの象徴にすぎなかった。


「……叔父上に、アリアク城の食糧がひっ迫していると早馬を立てたのは、あんたじゃなかったの」


「私は、そのようなことを御舎弟ごしゃていに申し出ておりませんが……」


 白い額に困惑の色を浮かべる宰相へ、御曹司は鬱陶うっとうしそうに応じる。

「そうだよね。城内を見た感じだと、食べ物に困っているような様子は見られなかった」

 何でもお見通しの宰相様が、用兵学の初歩にもとるような補給計画を立てているわけないもんね、と。


「若君……」


「もういいよ。今日は疲れたから、部屋から出て行ってくれないかな」


「はい……夜分にお騒がせし、失礼いたしました」

 宰相はうつむきながら後ずさり、扉の手前で身をひるがえした。


 そうした何でもない挙措きょそですら、無駄なく優美である。若君の取り巻きのうち先の3名は、再び吐息をこらえ見つめてしまう。


 すると、そのやや悄然しょうぜんとした白衣の背に、レオンが短く問いかけた。まるで、忘れていたとでも言わんばかりに、さりげなさを装って。

「……ルフは、息災か」


 ラヴァーダは振り返った。


 少し驚いた表情を浮かべながら、御曹司からの不意の問いかけに応える。

「帝都で学問に励んでいると、先日愚息から手紙が届きました」


「そうか」

 レオンの口元に、わずかばかりほころびが生じる。


「……」

 御曹司と宰相のやり取りの間、筆頭補佐官・トゥレムだけは、主人はもちろん、他の補佐官たちとも一線を画していた。癖毛くせげの下にある三白眼をいっそう鋭くして、果実の飲料に口を付けるのだった。



 宰相が退室し静かに扉が閉まるのを見届けると、レオンの腹心たちは会話を再開した。

「……ホーンスキン様たち御親族の皆様は、若君と宰相を王都から遠ざけようと必死ですな」


「国主のお加減が思わしくないなか、おおかた御親族衆は国政の掌握しょうあくに努めたいのでしょう」


 トゥレムとユーハの見解に同調するかのように、レオンは鼻を鳴らしつつ口を開く。

「王位第一継承権を持つ俺と、この城にいる黴臭かびくさい連中が、邪魔なわけだな」


 草原の国の御曹司は、そう言い捨てると力強くコップをあおった。葡萄のかすが喉に絡み、若者は顔をしかめた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ブレギアの「貴婦人」はやはり美しいと思われた方、

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ラヴァーダたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「一羽の白い鳥 1」お楽しみに。


「国主の喪に服さねばならんいま、ヴァナヘイム国からの撤退を決めたいと思う」


ブレギア先王の義弟ウテカ=ホーンスキンは、王座より立ち上がると、自らの言葉の念を押すようにして周囲をにらみまわした。

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