【12-3】草原の御曹司 3

【第12章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558

【世界地図】航跡の舞台※第12章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330648632991690

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「なに、こんな時刻に輸送部隊とな」


 帝国暦383年9月6日23時――この日、アリアク城塞の夜番を務めていた宿将筆頭・アーマフ=バンブライは、輜重しちょう隊到来の報を突如受けたのだった。


 バンブライは、急ぎ司令官室の扉を叩く。


 城塞司令官・ダグダ=ドネガルは、この日も深夜まで執務を続けていた。カンテラの光に照らされた顔は、血色が優れない。


「今宵、首都から到着するような部隊はないですなぁ……」

 来城者情報の記された帳簿を繰りながら、ドネガルは首をひねった。 



 そうこうしているうちに、別の従卒が飛び込んでくる。当該輜重隊は、城塞側の許可を得ずして東門から入城したという。


 老将軍と城塞司令官は、東門に最も近い第3広場に速足で向かう。そして、そこでの光景を前に、バンブライは下がり白眉のもとにある瞳を、わずかばかり大きく見開いた。


 広場では、輸送兵たちが複数の荷駄を馬車ごと城兵たちに押し付けている。そして、やれやれ任務完了とばかりに、指揮官と思しき若者たちが、めいめい馬から降り始めた。


 その輪の中心にいた人物に、バンブライは声をかける。


「こ、これは若君、いかがなされました」


「……叔父上に補給物資の運搬を頼まれた」


 バンブライは、城塞司令官を振り返る。国主義弟から物資運搬の申し送りなど、もちろんない――ドネガルはゆっくりとかぶりを振った。


 まして、その指揮官が御曹司・レオン=カーヴァル自らとは――老将軍と城塞司令官は、完全にきょかれたような形になった。



「お、御自おんみずから輸送をになわれたのですか」


「うん」

 老将軍の問いかけになど興味がなさそうに、レオンは若き一行を従え、足早に広場から抜けていく。父王方の遺伝ではない金色の髪が、律動りつどう的に揺れている。


 バンブライは、御曹司の剣術指南役でもある。しかし、弟子は師匠との久々の邂逅かいこうに、何らの感慨も抱いていないようだ。


「まずはお部屋をご用意いたします。宰相にもお伝えして参りますので、そちらでおくつろぎください」


「部屋だけでいいよ。夜更けにラヴァーダの説教なんて聞きたくないから」

 ドネガルには振り返りもせず、レオンは城内へと進んでいく。


 その後を追いかけようとする城塞司令官の前に、取り巻きのなかから線の細い若者が1人進み出た。彼は大儀そうに声をかける。

「さっさと部屋の準備をしていただけませんかね。若君はお疲れですよ」


 御曹司筆頭補佐官・ドーク=トゥレムである。くせのある黒髪が松明に照らされていた。


「……かしこまりました」

 ドネガルは若君一行に一礼すると、その脇を先行して進んでいった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


御曹司・レオンは感じが悪いなぁ、と思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ラヴァーダたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「草原の御曹司 4」お楽しみに。

ブレギアの「貴婦人」が再登場します!


「若君、こんなお時間に、何故お越しになられたのか」

夜の更けた刻限、宰相はさすがに簡易な夜着のままであったが、純白の外套がいとうをその上に羽織っている。


それにしても、この土地の先住民が連綿と紡ぎ羽織ってきた白い衣装は、数百年後にこの銀髪の宰相が身にまとうことを予期してつくられたのようだった。

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