【4-4】 宣伝効果

【第4章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023213408306965

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 帝国暦385年8月末、エルドフリーム城塞が落ちた。


 城は、敵味方のようになり――「煤けた鍋あだ名」どおりの最期を迎えたが、3,000人以上のブレギア兵の命を道連れにした。



 同城塞陥落の一報は、大陸中を駆け巡った。


 ブレギア初代・ファラ=カーヴァルすら攻略を諦めた要害堅固な城である。それを二代目がやってのけた訳であった。


「小覇王の再来」

「猛将の遺志を受け継ぐ若き国主」

「草原を駆け抜けし金髪の勇者」


 新聞各紙は、持てる語彙ごい力をフル活用して、レオンをこれでもかと賛美した。本陣前で、サーベルを振り上げる金髪の青年の雄姿は、連日新聞の紙面を飾っている。



 エルドフリーム城攻略のは、とにかく大きかった。


 フレーヴァングの北隣――セスル・ルームニル・フォール・クヴァング等、ブレギア・旧ヴァナヘイム国境付近の領主たちが、従属する姿勢を続々と示しはじめたのである。


【地図】ヴァナヘイム ブレギア国境 航跡 第2部 第4章

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16818023214098219345



 セスル氏以下は、ヴァナヘイム国のいまわのきわから、その旗幟きしを不鮮明にしていた。そんな彼らが、ここにきてブレギア国に対し、租税納入や河川堤防工事などへ積極的に取り組み出したのであった。


 さらに、「次の攻城戦でお使いください」とばかりに、彼らはブレギア軍傘下に将兵を次々と送り込んでいるらしい。


 そうして増員した兵卒を、リューズニル城塞の守りに据えるなど、ブレギア軍総司令部の若者たちは、占領した大小城塞の備えに余念がなかった。



 エルドフリーム城攻略の余波は、それだけにとどまらなかった。ブレギアの東側国境付近をうかがっていたシイナ国軍が、完全に撤退したのである。


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277


【1-10】 東の大国、動く 上

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661499737175



 ラヴァーダと彼の命に忠実な将兵が籠るトゥメン城塞に、付け入る隙がなかったことは事実である。


 ブレギアの生きる兵法書・キアン=ラヴァーダをしてをさせた場合、それを打ち破ることが可能な将軍など、大陸中を探しても見つけ出すことはできないだろう。


 また、シイナ国において稲の収穫時期が近付いたことも撤退の理由と推測された。


 ブレギアと同じく、シイナも兵農分離はほとんど進んでいない。同国の南方を多く占める稲田において、刈入れ時期の到来は撤退の機運を高めたともいえる。


 このように、シイナ国がブレギア侵攻を諦めた理由として、ラヴァーダによる防戦の妙や、米の収穫時期の到来といった理由が挙げられた。



 しかし、シイナがブレギア侵攻を企てるようになって1年が経とうとしているなか、それらの理由もが否めない。


 宰相ラヴァーダは、早い段階でトゥメン城塞にて指揮を執っており、春先の田植えの時期も、シイナ軍は兵馬をやり繰りをやってのけているからだ。


 すなわち、両事情ともシイナ国撤兵の決定的な理由たりえない。



 シイナ国へ最も大きく影響したのは、タイミングからして、ブレギア軍によるエルドフリーム城攻略と見て間違いないだろう。


 小覇王・フォラ=カーヴァルすら攻略を諦めさせた「煤けた鍋」を落としたのである。しかも、宰相・ラヴァーダを伴わずして。


 ――ブレギア新国主はまだ若い。先代ほど全軍を統制することはできないことだろう。


 こうした思惑がシイナ国出兵の最大動機であった。


 しかし、イーストコノート大陸で最高水準の防御力を誇った城塞――エルドフリームの陥落は、そうした目論見を完全否定することになったのである。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


シイナ国の撤退により東からの圧力が無くなってほっとされた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


ラヴァーダたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「宰相の帰還」お楽しみに。

美男子宰相が、首都ダーナに帰還します。


「お帰りなさいませ」

アニュヴァル、メイヴ、アルレル、クーウル等 留守居の臣下たちが、城門前にて威儀を正して出迎える。


それにしても城内が静かである。


「若君はどうなされた」

ラヴァーダは形の良い眉をひそめながら、周辺を見渡す。よもや、また郊外――沼畔の丸太小屋に隠棲されたわけではあるまい。

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