第6話 魔王と勇者
「ねえ、ハル。このプリンってやつ、おいしいわね」
「でしょ。フェニックスの卵から作るプリンが一番おいしいんだよ」
魔王討伐と帝国が騒いでいる時、ぼくとマールはプリンに舌つづみを打っていた。
魔物たちは、マールたちが攻め込んできた来た時に壊れてしまった場所を修復する作業に励んでいる。もちろん、みんな頑張っているのだから、ぼくはこのプリンをみんなにも振舞うつもりだ。
ダンジョンのほとんどの修繕が終わり、みんなでプリンを食べていると、上空の偵察を行っていた大鷲が血相を変えて飛び込んできた。
「魔王様、また帝国が攻めてくるつもりです」
「えー、またなの」
「どうやら、魔王様を退治する討伐軍のようなものを募っているようです」
そういって大鷲が一枚の紙きれをぼくに渡してくる。
紙にはこんな言葉が書かれていた。
『勇者求む! 魔王を討伐して、さらわれたマール姫を助け出せ。帝国は伝説の装備を用意して待っている。もし、魔王を倒した――――』
ぼくは途中まで読むのをやめて、その紙をくしゃくしゃに丸めて投げ捨てた。
「なに、これ。帝国って馬鹿なの? こんなので勇者が来てくれると思っているのかな。伝説の装備って、何なの。だったら、前回攻めてきた時に使えばよかったじゃん」
機嫌の悪くなったぼくは、苛立ちを隠さずに独り言を大声でいう。
周りにいた魔物たちは、魔王様がお怒りだと怯えた表情を浮かべる。
「ねえ、なんて書いてあったの」
ぼくがくしゃくしゃにして捨てた紙をマールが拾って読む。
「え……わたし結婚なんかしないし」
「ん? どうかしたの、マール」
「ほら、ここ」
マールがくしゃくしゃになった紙を広げて、ぼくに見せる。
『――――もし、魔王を倒したあかつきには、魔王にさらわれたマール姫との結婚を認める』
「え?」
マールって帝国のお姫様だったのか。知らなかった。やばいな、ずっとタメ口で話していたよ。やばい、どうしよう。
ぼくは誤魔化すかのように、頭を搔いてみせた。
「勝手に結婚なんて決めないでほしいわ。ねえハル、勇者が来たら絶対倒してよね」
「あ、ああ……」
なんか調子狂うな。そんなことを思いながら、ぼくは帝国の勇者とやらが来るのを待つことにした。
しかし、待てど暮らせど勇者はやってこなかった。
風の噂では、勇者一行はここに来る前にある山賊のアジトでやられてしまったらしい。
おいおい、それでも勇者なのかよ。
ぼくはその報告を聞きながら、心の中でツッコミを入れていた。
※
――――ぼくが魔王と呼ばれるようになって300年の月日が流れた。
しかし、帝国からの勇者は未だにやってこない。
それどころか、帝国では内乱が発生して皇帝が暗殺されたり、次の皇帝を巡って第一皇子派と第二皇子派で国が二つに割れたり、北方から別民族が攻め込んで来たりといったことが繰り返され、いつの間にか帝国は滅んでしまっていた。
いまは、別の王国があの場所には建っているらしい。
不思議なことに、ぼくは300年経っても歳を取っていなかった。いや、ぼくだけではない。一緒にこのダンジョンに住んでいるマールも、まったく同じ見た目のままだ。
ぼくたちは相変わらず、プリンを作ったり、冒険者が侵入して壊していったダンジョンの修理をしたりして暮らしている。
どうして、ぼくはこの世界に転移させられたのか。その理由も未だにわかってはいない。
ぼくはこの世界で魔王と呼ばれ、ぼくをやっつけにくる勇者をずっと待っている。
はやく来ないかな、勇者。
完
ユニークスキル「飼育係」で、ぼくが魔王と呼ばれるようになるまで 大隅 スミヲ @smee
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