第4話夢の語り手とあけぼのの旅立ち

「あ、こうしちゃいられない! 早くアクセルを助けないと! 確か、あいつの家はこの丘の上にあるって言ってたよな」


大きく広がる草原を見渡す。アクセルの情報通り、少し登った所に小屋があるのが見えた。


「まだ息はある。急ぐぞ!」


「おう!」


アクセルを背負い、俺たちは全速力で小屋へと向かった。


――


「ん……ここは?」


「よかった! 目が覚めたんだな!」


小屋にあった布などで応急手当をしてから早数時間、アクセルがようやく目を覚ました。脈や呼吸に異常はなかったものの、少し心配だった。だから、これで一安心だ。


「……あの後、結局どうなったんだ?」


アクセルは少し心配そうな顔をして言った。こいつのことだから、迷惑かけてないか心配してるんだろうな。俺たちはここに至るまでの経緯を話した。


「そうか……それは、申し訳ないことをしたな……」


想像通り、アクセルは顔を曇らせた。


「なに、これも恩返しだよ。アクセルに助けてもらったから、そのお返し。これでトントンだな!」


「ふふ、ああ。そうだな。そういうことにさせてもらうぜ」


アクセルは笑いながら言った。助けた命が見せるその笑顔は格別だった。


「ま、今日は泊まっていきなよ。これからどこに行くにしても、こんな状態じゃあいけないでしょ。ベッドも食料もあるから、好きに使って」


確かに。この状態で下町まで向かうのは至難の業だ。ここはお言葉に甘えて、泊まっていくとしよう。


「じゃ、おやすみ。ゆっくり休めよ」


「ああ、おやすみ。ユーヤ。」


俺は自分のベッドへと向かった。


――


ちゅんちゅん


「――ん、朝か」


小鳥のさえずりで目を覚ます。外はまだ多少暗いようだ。でも、窓からは、ほのかな赤い光が差し込んできている。ある程度の時刻を確認するため、俺は外へと出た。


「やぁ、おはよう雄弥。よく眠れたか?」


ドアの先にいたのはジークだった。俺より早く起きたのだろう。鱗が朝焼けに照らされて、少し幻想的だった。


「まぁまぁだな」


俺は軽口を叩きながら、ジークの隣に腰を下ろした。そして、登り始めの太陽をじっと見る。この世界でも、太陽は美しい。特に、標高の高い場所から見るそれは。


「なぁ雄弥。我は1つ、お前に頼みたいことがある」


突然、ジークが前置きも無しに語り出した。


「ほぉ? 頼み事か。言ってみ」


「うむ。お前には我と共に『勇気の欠片』を集める旅をしてほしいのだ」


「勇気の欠片を集める旅?」


あまりピンとこない話だった。勇気の欠片なんて初めて聞いたぞ。


「そうだよな。順番に解説しよう」


ジークは語り出した。


「200年前、この世界『オルタナティブ』に混沌をもたらそうとした悪のモンスター『邪神ダンテ』という奴がいた。我はここに住む人々やモンスターを助けるため、ダンテと精一杯戦ったのだ。だが、結果は相打ち。我の力の源である『勇気の欠片』は各所に散らばり、我とダンテは深い眠りについた。」


「ほうほう、それで?」


「ちょうど1年前、我は目覚め、回収に向けて動き出した。しかし、回収しようにもこの身体じゃ無理だ。だから急遽『勇気の欠片の代わりとなる存在』を探す必要があった。それがお前だ。」


「お、俺が勇気の欠片の代わりなのか!?」


初耳だぞ。そんな目的で俺を異世界に呼び寄せていたのか!


「ああ。お前は我の期待を遥かに超える力を見せてくれた。本来、勇気の欠片とは深紅の心と夢幻の希望を持った者が何年もかけて養うもの。それを一時的とはいえ、瞬時にお前は作り出してしまった。こんな逸材、逃しておく訳には行かない! だから頼む。我と一緒に、来てくれないか!」


「ふむ……」


俺はうーんと悩み込む。本当なら、1発返事でOKしたい案件だ。勇気の欠片を巡る争い。邪神。数々のモンスター。それだけで心躍る。でも、俺が1番心配なのは『学校と家族のこと』だ。こっちの世界に居すぎたら家族は心配するだろうし、学校の卒業だって危うい。それは困る。


「今、お前は元の世界のことについて心配したな? 大丈夫。ここでの時の流れはお前らの世界にカウントされてない。だから、大丈夫」


「お、本当か! なら心配はいらないな!」


それを聞いて俺は安心した。それなら、手伝うしか選択肢は無い。


「ありがたい。でもいいのか? これからお前にはたくさんの災難が降りかかる。モンスターだけじゃない。人からも嫌なことをされるかもしれない。それでも、大丈夫か?」


ジークが弱い声でオレに尋ねる。これは、ジークなりの優しさだろう。あくまで、俺の同意なしに連れて行きはしない、ってことか。


でもな、俺はもう回答を決めてんだ。一歩踏み出した、あの時から。


「俺は、勇気を欲しているんだ。ピンチやチャンスでも臆せぬ勇気。しかもそれをいつでもどこでも出せるようにしたい。だからこの旅は、チャンスだと思ってる。勇気を手に入れる、チャンスだとな」


「お、おぉ……おぉ!」


ジークは感激したような顔でこちらを見てくる。やめろって、照れるだろ。


「だから、これからもよろしくな。相棒!」


「ああ!」


俺たちは熱い握手を交わした。有村さん、待っててくれよ。俺はこの旅で勇気を掴んで、帰ってくるからな! 生まれ変わった俺を、あなたに見せるからな!






「おーい、まってくれよぉー!」


小屋の方から、聞き覚えのある声がした。この声はもしや……


「アクセル! どうした急に」


「へへ……お前らの話聞いてたらよ、いてもいられたくなっちまって……」


「まさか……お前も勇気の欠片集めの旅に同行したいと……?」


「その通り! 俺も強くなりたいんだ! 誰にも迷惑をかけず、敵を殲滅できるような戦士に、なりたいんだ!」


アクセルはニカッと笑って言った。その笑顔に屈託はない。マジで純粋な顔だ。めちゃくちゃ断りずらい。


「俺は別にいいんだが……ジーク、どうする?」


ジークに意見を求める。あいにく、俺は異世界のこともモンスターのことも全く知らないんでね。ここはジークに判断を任せるのがいいだろう。


「いいんじゃないか? 我も長い眠りについていたせいで、最近のことについては追いきれていない。知識としても役にやつだろう」


「やったぁ! じゃ、よろしくな! ジーク、ユーヤ!」


アクセルはピカピカ光る顔をより一層輝かせて喜んだ。このパーティの元気印として、いい活躍をしてくれそうだ。俺たち2人だけだと、どうしても堅苦しくなりがちだしな。


「よっしゃ! 急いで準備してくるー!」


アクセルはそう言って、全速力で小屋へと戻っていった。ガタイはいいが、子供みたいなやつだ。


「やっぱりいいな、人間は。愉快で、熱いものを持っていて、とんでもない可能性を秘めている――」


ジークはそうひとりでに呟いた。


――


「よーし、全員揃ったな!」


数分後、俺たちは足並みを揃えて丘の上へと立っていた。アクセルが持ってきたのは、それなりのお金とそれなりの食料。それに、例の大剣『スピリットカイザー』を加えて。


「これから、苦しい旅路が続くことになるだろう。それを承知で来てくれた2人には本当に感謝してる。ありがとう」


「いいってことよ! それより、1個やりたいことがあって!」


アクセルが持ち前の笑顔で言った。


「ん? なんだ?」


「あのさ、旅の第一歩は、みんなで息を合わせて踏みたいんだ。壮大な冒険の1ページを心に残るものにしておきたくて」


「俺は賛成」


「我もいいぞ」


2人の賛成を得られたアクセルは、再び嬉しそうな顔を向けた。


「おっしゃ! じゃ、せーのでいくぞ! せーの……」


俺たちは曙の大地に、大きな大きな一歩を踏み出した――


「これが、旅の始まり……絶対に、生きて帰ってくるぞ! そして、勇気をつけた暁には、有村さんに話しかけるんだ! 待ってろよ、勇気の欠片! そして、有村さん!」


この先、どんな困難が待ち受けているか。俺にはまだ分からない。でも、どんなことでも、乗り越えられる気がする。仲間たちと一緒なら!


天にさんさんと輝く太陽が、俺たちの門出を祝う。彼は俺らに、こう言ったに違いない。


「Enjoy your youth《青春を彩れ》」と。

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勇気の龍と夢幻の少年〜勇気を求め続けた異世界冒険譚〜 大城時雨 @okishigure

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