彼女がうちに来た

西しまこ

第1話

 僕の彼女は彩香という。


 僕たちの学年ではかなりの有名人で、彼女のことを知らない人はいないんじゃないかな? 何しろ、僕たちの学校は進学校で、その入学式で答辞を読んだのだから。つまり、一番の成績で合格したってこと。

 しかも彩香はちっちゃくてかわいくて、賢いくせにぜんぜん気取っていなくて、むしろ天然ぽいところがあって、男子には人気があった。僕は密かに憧れていたから、告白されてほんとうにびっくりしたんだ。「弘樹くんの顔が好き」とか「なんでも言うこと聞いてくれそう」とか言われて、ちょっと微妙な気持ちになったけれど、つきあってからの彩香を見ていると、ちゃんと僕のことが好きなんだって分かって、僕はとても嬉しかった。


 さて。

 彩香はうちに来ることになった。僕しかいない家に。

 僕は、いちおう、あの、家の人がいるときの方がいいかなって思ったんだけど(だって、ねえ?)、彩香は「弘樹くんがいるならいいじゃない!」とか言うので。

 ……僕たちはまだ、手を繋ぐところまで。

 キス、も、まだしていなかった。

 僕はほんのり期待してしまっていた。だって、家の人がいないところに遊びに来たいって言うんだよ? えーと、それって、いいのかな? て思っても仕方がないよね?


 当日、彩香を駅まで迎えに行った。

 彩香はミニスカートをはいていて、僕は彩香が動くたびにどきどきしてしまった。

 ごはんを食べ終わり、ソファに並んで座ってサブスクで映画を見る。

 脚! 脚がくっつくんですけど! しかも、生足。うう。


 彩香はいろいろコメントをはさみながら映画を見ていて、僕の方を見たりしていた。ああ、この無邪気さが怖い。彩香が動くたびに、身体のあちこちがくっついて、えーと、僕は全然映画に集中出来ないんだけど! ええい!

「ねえねえ、あれおもしろいね」と彩香が言って、僕の肩を叩いた。僕は彩香の手を取って、――キスをしようとした。いいよね?


 そうしたら、ちょうどそのとき玄関で鍵を開ける音がして、「ただいまー!」っていう母さんの声がした。ちょっと! 何このタイミング! せめてキスしてからにして欲しかった。しかも、帰って来るの、早い。絶対に早い。急いで帰ってきたな、さては。

 彩香は緊張しながら挨拶をして、それからみんなでケーキを食べた。父さんが意味ありげな視線を送ってきたけれど、無視した。とりあえず、平和で楽しい時間だった。


 彩香を駅まで送って、帰ってきたら母さんが言った。

「いい子じゃない! 一番の子だって言うから、どんな子かと思ったけど」

「うん」そうなんだ、とってもいい子なんだよね。……天然だけど。

「だいじにしなさいね」

「うん、してるよ」しているけど、でも。


 キス、したかったなあ。

 でも、駅でぎゅってしたから、まあいいかな? 

 僕は、抱きしめたあと、赤くなった彩香を思い出して、こころがあったかいもので満たされるのを感じていた。……ほんとうにかわいい。




   了



一話完結です。

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☆これまでのショートショート☆

◎ショートショート(1)

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000

◎ショートショート(2)

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330655210643549


☆関連したお話のコレクション☆

「彩香と弘樹の物語」

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330656720918064

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