最終話 そして伝説へ……
「………………!」
はじめの持つ拳銃の銃口が俺の頭に向けられていた。
「アルカディアは……私たちの約束を破ったわ。あんたもアイツみたいになりたくなかったら、私の言うことを聞いたほうがいいわ。日本中をブラック企業にすることを願うのよ。さぁ!」
俺は剣を抜いてはじめの元へと歩いていった。
「あんた、命が惜しくないの?」
拳銃から銃弾が放たれるのが見えた。俺はそれを容易く剣で弾き、はじめの拳銃を奪い取った。
「……殺せるもんなら、殺してみなさいよ!」
俺は拳銃の引き金を弾が無くなるまで引いた。
「………………」
「死ぬ覚悟も出来てないくせに、殺せとか二度と
弾丸ははじめの至近距離を通り過ぎただけだった。彼女は失禁していた。
俺は祭壇に戻って、王者の印を手に取った。
「……女神様、俺の願いを叶えてくれ。タケを蘇らせてくれ」
俺が言うと、女神はしばらくして、
「それは出来ません」
「はあ? どうしてだよ!?」
「私はすでにあなたの願いを叶えました」
「願いって何を願ったんだ? いつ願ったんだよ?」
「あなたが小学生の頃、あなたの書いたノートが現実に起こるようにと願いました」
女神は言って、俺に過去の記憶を見せた。
――
小学校の頃の夏休みは退屈だった。ちょうど、タケもすみれも帰省中で遊び相手がいなかった。
そんな時は、ノートに落書きをしていた。自分の妄想を書き込んで楽しんでいたが。完成させると、虚しくなった。
(……俺の妄想が全部本当になればいいのに)
そう思いながら、秘密基地を拡張するために、穴を掘っていると、金色の塊が出てきた。
(なんだこれ?)
見てみると、判子のような形をしていた。「親魏倭王」と彫られていた。
(……たけかすーちゃんのものかな? 奥の倉庫に置いといて、今度あった時に聞いてみよう)
結局、タケとすみれのふたりに金印のことを訊ねることも、その存在自体も忘れていた。
――
「あっ、あの時か……じゃあ、あの日から倉庫の奥はダンジョンになっていたってことかよ」
「ええ」
「……じゃあ、じゃあタケはどうすればいいんだよ? タケはこんなところで死ぬのかよ」
女神は答えなかった。彼女の微笑みが残酷に見えた。
俺は絶望した。それも今までに経験したことのないぐらい深い絶望。視界がぐにゃりと歪んで、時間が止まった。
「ワン!」
扉の方から鳴き声がした。見ると、ハチがいた。
(……こんな時に、犬なんて、何の役にもたたないだろ)
ハチは尻尾を振りながら、俺の方へ近づいてきた。
(……いや、これしかない!)
「ナイスタイミングだ! ハチ!」
俺はハチの口に無理やり金印を押し込むと、ハチは金印に変化した。それは輝き始めて、頭に犬耳をつけた女神が映し出された。
「私はあなたの願いを一つだけ叶えるワン。その願い事を私に教えてくれワン」
「お前が居てくれて助かったよ!! タケを生き返らせてくれ」
「わかったワン」
すると、タケの身体に一筋の光が射した。タケの傷口は塞がり、呼吸をはじめて、目を開いた。
「……うわっ!! なんだ!? 三途の川ツアー中だったのに!?」
タケは飛び起きて、キョロキョロあたりを見回した。
「タケぇ!!」
俺はタケを強く抱きしめた。
「うわっ!! なんでお前に抱きしめられなきゃいけないんだよ!!」
タケは俺から離れようとするが、俺は離さなかった。
「……おわっ、なんだこのむさ苦しい状況は?」
すみれとあざみが無限廻廊から解放されて、へとへとになりながら俺たちのもとへやってきた。
「BL?」
「アホか! 感動の再会だよ!」
俺はすみれに事の顛末を説明した。
「なんだ、そういうことだったのか」
「そうだ、すみれ。ハチにkeidanrenを潰してくれって願ってくれないか?」
「もちろん」
すみれは女神に願うと、その願いは叶えられた。
「これで……全部終わった」
俺は達成感で胸が熱くなった。
「たーちゃん。よくやったよ」
すみれは言った。
「だろう? 我を
俺は両手を広げると、すみれはわーっと拍手した。
「でも、私の方がもっと偉いもんね」
「どうして?」
「私はkeidanren潰したもんねー!!」
すみれはそう言って、ガッツポーズをした。
俺は指笛を吹いて、すみれを応援した。
「いや、僕の方がもっと偉いぞ」
タケのその言葉を聞くのは久しぶりだった。
「僕はkeidanrenに入ってたからな!!」
「「全然偉くないじゃん!!」」
そういうと、3人は爆笑した。
(こういう内輪ノリ久しぶりだ……)
◆
「今なら本物がまだ残ってるから願い事を叶えられるぜ? 声優になるのがお前の夢だったんじゃないのか?」
俺はすみれに言って、金印を指差した。
「えっ、マジ?」
すみれは慌てて金印を取り上げた。
「私はあなたの願いを一つだけ叶えましょう」
女神はすみれに向かって言った。
「じゃあ……」
すみれは悩みながらだんだんとテンションが下がってきた。
「……やっぱ、いいや」
そう言って金印を俺の方に放り投げた。
「なんでだよ? せっかく夢を叶えるチャンスだぜ?」
俺はすみれに言った。
「だって、努力なしに叶えた夢に何の意味もないし、私の夢は誰かに叶えてもらうものじゃなくて、自分で叶えるものだからね」
そういうと、そこにいた全員が胸を打たれていた。
「……すみれのくせにかっこいいじゃん」
俺は言った。
「あざみは? 何か叶えたい願い事あるか?」
そういうと、あざみは笑った。
「すみれさんがああ言った後だと、何にも言えないですよ。私も、すみれさんの言う通り、自分の願いは自分で叶えます」
「タケは?」
俺が訊くと、彼も首を振った。
「君たちは偉いワン」
女神(ハチ)が言った。
「君たちに神のご加護がありますように。そんな未来を信じる君たちへこの言葉を送るワン」
女神は少しだけもったいぶった。
「人生はワンダフル……」
ハチが言いかけたところで、無理やり柴犬に戻した。
「それじゃあ、一旦地上に出ようぜ」
俺が言うと、みんな頷いて、扉の方へ歩き始めた。
俺は手に持っていた金印を湖へ投げ捨てた。
(あんなもん人の人生を狂わせるだけだ。見つからない方がいい)
◆
扉を出ると、日本考古学研究所の職員が動画撮影をしていた。彼らもまた無限回廊でヘトヘトになっていた。
「この先がダンジョンの最下層ですか?」
撮影スタッフの一人が俺に訊ねてきた。
「さあな。自分たちで確かめてきなよ」
完。
「そういえば、あの時、もし勇次郎の願いが叶うなら、何を願っていたの?」
「ん? 俺の願い事は……すみれとずっと一緒にいる事だ」
「えっ?」
「俺の願い事、叶えてくれる?」
「……ふふっ。あははは」
すみれは笑った。
「いいよ。勇次郎の願い事、叶えてあげるよ」
小学校時代に作った秘密基地が古代遺跡扱いされている件 乱狂 麩羅怒(ランクル プラド) @Saitoh_nagisa
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