第18話 ラスボスを倒す件



 王者の印を守るラスボスの名は『終末龍ワールドエンドドラゴン』。


 顔が13個ある巨大な翼竜だ。コイツを倒せば、王者の証を手に入れることができて、願い事を一つ叶えることができる。


「ウオオオ゛オ゛オ゛」


 ダンジョンの最下層、仰々しい扉の向こうから、終末龍の咆哮が聴こえてきて、息を飲んだ。


 わかっているはずなのに、これまでの敵とは性質が全く異なっていると、直感がそう告げている。


「タケ、準備はできたか?」


「大丈夫だよ。たーちゃん」


 聖騎士と死刑執行人は剣を取り出し、部屋へ入ると、終末龍の姿が見えた。その奥に祭壇と地底湖があるのが見えた。

 終末龍は俺たちが入ってきても反応はなく、13本の首をくねらせて、思うままの方向を向いていた。

 終末龍は最強の名を欲しいままにしているので、自分より格下の種族の人間には、興味すら湧かないのである。


 俺は終末龍に向かって、ダガーナイフを投げつけた。しかし龍は硬い鱗に覆われているために、刺さらなかったが、13の顔がギョッっと俺の方を向いた。


 俺は思わず鳥肌が立った。顔はそれぞれ違っていた。虎、ライオン、美女、美男、しゃちさめたか、カラス、鹿、バッファロー、カエル、蛇が俺を睨め付けた。


「……いい顔してんじゃねぇか」


 俺はアドレナリンがドバドバ出ていた。恐怖心が無くなり、脳がスッキリした状態なのに、心臓の鼓動だけは速い。


「タケ! 準備は出来たか?」


「ああ、さっきの戦いで充分にウォーミングアップができたよ!」


「言ってくれるじゃねぇか」


 タケは終末龍に踊りかかっていった。敏捷な足で、飛び上がり、鮮やかに虎の頭を切り落とした。


「見た目のわりに大した事なさそうだ」


 タケは手応えを感じなかったようで、俺に言うが、終末龍は傷口からすぐに頭を生やして、自己再生した。


「「………………………………」」


 タケと俺は顔を見合わせた。


(……こりゃ本格的にヤバいぞ)


 俺はエクスキューショナーズ・ソードを強く握り直し、別のライオンの頭に切り掛かると、ソイツは避けようともせずに、俺の攻撃を受けた。


 ライオンの頭はあっさりと切り落とされるが、再び生えてきた。ソイツは大きく口を開けて、俺の頭を喰いちぎろうとした。俺はそれを寸のところでかわして、距離をとった。


 俺は頭を必死に回して、少年時代の妄想を思い返していた。


(自己再生する敵なんて、一体どうすれば……)


 俺は龍の体を見渡し、体のコアっぽいところを探すが、そんな都合のいいものは見当たらない。


 俺が考えている間に、カエル頭が何か吐き出したのが見えて、避けるとそれは猛毒で地面を溶かしていた。次に鮫頭が水を吐き出し、カラス頭が業風を発生させて、俺を吹き飛ばそうとする。


(……いろいろ思い出してきた。たしか水とか風とか操る顔があって……火を吐くのが本体の顔だ。ソイツを倒せば、全部解決だ)


「タケ! ど真ん中のドラゴン頭が本体だ! アレを切れば、コイツは倒せる!」


「はいよ!」


 タケはザッと力強い一歩を踏み出して、ドラゴン頭に向かっていく。その間に俺は他の頭を注意を惹かなくては……


「オラオラァ!」


 俺は、次々と顔を剣で切り刻み、注目を集めた。

 

(タケは本体を狙う間に、他の敵を俺が惹きつけている。最強の2番手感が出ていて、最高の気分だぜ……)


 俺は早く動けて攻撃を簡単に躱せるので、一瞬タケが本体の頭を攻撃できているか、チラ見してしまった。その油断が命取りだった。


「グエッ!!」


 カラス頭にマントをついばまれてしまった。俺は慌ててカラス頭を切り落とそうとするが、真正面に、美女の顔がヌッと現れた。美女は優しく微笑んだ後、瞳を赤く光らせた。


(あっ……ヤバい……)


 俺は美女の瞳に囚われて幻覚を見させられそうになったところを、タケが助けてくれた。


「なにしてんだよ!?」


「すまん、助かった!」


 俺は剣を握り直し、終末竜に挑み掛かるが、体がさっきのようにうまく動かせない。


 体を見ると、装備していたマントがカラスに食い破られて、ボロボロになっていた。


 こんな状態だと、俺は素早く動けない。


「たーちゃん!! 後ろ!!」


「えっ?」


 タケの声で振り向くと、今度はサメの頭が大きく口を開けていた。


 サメ頭は俺の足に噛みついて、動きを封じた。そして、本体のドラゴン頭が動きを止めて、俺を焼き尽くすために、空気を体内に溜め込み、どデカいファイアブレスを吐き出す準備をしていた。全てを焼き尽くす焔が、噴火直前の火山のように口から溢れそうになっているのが見えた。


 俺は逃れようとして必死になってサメ頭に剣をぶっ刺すが、サメは負けじと足を離さない。


 タケも俺の元に寄ってきて、サメ頭を必死に攻撃するが、無駄だった。


(こんな時……こんな時はどうすれば……)


 視界がだんだんと歪んで、白黒になってゆく……


 俺は今までの人生で自慢できることなんて、何一つ無かった。漫画好きで、オタクで、凡人で、ただの中二病だ。


 ……だけど、そんな俺でもちょっとは誇れることぐらいある。


 毎晩寝る前はくだらない妄想をしまくっていることだ。ある日はプロ野球選手のキャッチャー、ある日はサッカー日本代表のボランチ、ある日は裏社会を操る影の支配者……


 なぜ、最高の2番手の妄想をするのかって?


 なぜ、最高の2番手をかっこいいと思っているかって?


 答えは簡単だ。俺にカリスマ性がないからだ。それに、ナンバーワンは根性のある明るい太陽みたいなヤツじゃないと務まらない。

 俺に根性はないし、性格も人生も陰だらけ。だから2番手が務まるんだ。最高の2番手は最期の瞬間に最高の引導を主人公に渡して、散ってゆくのが美学なんだ……だから俺は……


「今がチャンスだタケ! 俺はもう動けない! 構わずドラゴン頭を狙え!」


「でも!!!」


「でもじゃねぇ!!! 今がチャンスだ!!! はやくしないと俺たち二人とも焼き殺される!!!」


「しゃーない、親友のピンチだ、もうちょっと本気出すか!!!」


 タケは一瞬力を抜いて、


『カナンの地を司る精霊たちよ、我に速さを与えたまえ!』


 そう呟くと、タケはすでにドラゴン頭を切り落としていた。


「†断罪終了、彼をカナンに導きたまえ†」


 彼はそう言って、剣を鞘に収めた。


「……おまえ、そんなチートスキル持っていたのかよ」


「へへっ、いざって時の保険さ」


 俺はそっとして、地面に座り込んだ。


「ああ、やっと終わった」


 座り込むと、立ち上がれないほどの疲労感を感じた。


「それで、王者の印はいったいどこにあるんだ?」


「終末龍の後ろにある祭壇の中だ。そこに金印が置いてあるんだ。『親魏倭王』って彫られてる。それが王者の印だ」


 俺が説明すると、タケは頷いて、祭壇へと足を進めた。


 タケが王者の印を手に取ると、それはしばらくしてから輝きを帯びて、女神の幻を壁に映し出した。それはこの世に二人といない美女だった。年齢は20歳と言われれば、そう見えるし、40歳と言われても納得できる。


 俺は彼女の姿を見て、少年時代の記憶の片隅に引っかかった。何かしらの記憶が、喉元まで出そうになっているが、それがなんなのかわからない。


 タケは女神の姿を見て、圧倒されていた。


「私はあなたの願いを一つだけ叶えます。その願い事を私に教えてください」


 タケは神妙な面持ちで、女神を見つめた。


「俺の願いはkeidanrenを……」


 パンと乾いた破裂音が聞こえた。


 その音がしてから、しばらくして、タケは倒れた。


「タケぇ!!」


 俺はタケの近くに寄って身体を抱き上げたが、頭を撃ち抜かれて、即死していた。


 銃声のした方を見ると、はじめが拳銃を構えていた。


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