第2話 メール

ラジオを聞き始めて半年が経った。

もう、生活の一部になっていて、家ではラジオが流れていないと落ち着かないくらいだ。


そんなある日、気に入っている芸人さんのラジオのよく読まれるハガキ職人が、8人くらいで固まっていることに気づいた。


ハガキ職人とは、ラジオ内のコーナーのルールに沿って、面白いハガキを送る人達のことを言う。

今では、基本的にメールやTwitterで送るのだが、ハガキで送っていた古き良き時代の名残で、今でも「ハガキ職人」と呼ばれている。


しかし、大喜利に近いもので、我々一般人が挑戦するのは敷居が高い。

要するに、ひよっていた。


自分なんかのメールが読まれるわけがないと思って、聞くだけで満足していた、そんなある日。


「え!桐島さんもあのラジオ聞いてるんですか?」

「はい。学生時代から聞いていて、もう5年になりますかね」

「おー。先輩だ」


職場の同期の桐島胡桃さん。

丁寧な仕事ぶりに評価が高い、我々の世代のエースだ。


「実はですね、メールとかも読まれてるんですよ」

「え?」

「ほら、最後の方のあのコーナーに、『サビ』っていうラジオネームで送ってるんです。

サビ・・・。

耳馴染みがある2文字だ。


おそらく、結構な頻度で聞いている2文字。


「先週も読んでもらったよ」

\



「ラジオネーム、サビ。『コンビニに置いて欲しい新商品』‥‥‥『吸水カップ』。はは」

「吸水カップってなんだ」

「ほら、トイレが詰まったら使うあれ」

「あれ、名前あったの!?」


おぉ。

すごい。

軽く笑いを取った上に、新しい話題まで提供している。


俺にとって原点にして頂点であるお笑いコンビによる深夜番組で、知り合いのメールが読まれていた。


桐島さんに仕事で上を行かれることは別に悔しくなかったが、ラジオでメールを読まれていることに関しては嫉妬に似た感情を抱いた。


でも、そうか。

芸能人でなくてもラジオに参加できるのか。

そんな当たり前のことを、今更実感する。


スマホで桐島さんがメールを読まれた番組のホームページにアクセスする。


よし。

ちょっと送ってみようかな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラジオのある生活 ガビ @adatitosimamura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ