第3話 転校初日の波乱

 二週間前。

 転校初日も、相変わらず目覚めの悪い朝だった。

 

 教室に入る日差しは、春というより初夏に近い。


「転校生の南条さやかさんだ。早く学園になれてもらえるように、みんなも協力してくれ」 


 担任の瀬名せな先生は、筋肉ムキムキで、いかにも体育教師って感じ。

 

 クラスのみんなの視線が集まる中、小さく手を振るのはルームメイトの朋子ともこちゃん。


 席も朋子ちゃんの後ろみたいで少しほっとした。


「…南条さやかです。よろしく」


 そう言って、窓際の一番後ろの席につこうとしたら、一番前に座る男の子が、わたしの前にすって足を出した。


 つまずいて転びそうになる。


 反射神経はいい方なんだけど、緊張してたから避けきれなかった。


「うわっ」


(ぶつかる!!)


 目の前に迫った机のかど…、わたしは反射的に両手をついていた。


 手首で身体を持ち上げ…、跳ね上げた反動を利用してキレイな弧をえがく。

 あとは、両足そろえて床に下ろせば…。


 タン。

 静まりかえった教室にひびく余韻。


(うん。きまったかな?)


 正式名称は「前方倒立回転とび」っていうんだけど。


(って! 今、足ひっかけたよね!)


「わ――!! すごーい!」

 

(えっ?) 


 朋子ちゃんが、大きな目を見開いて立ち上がった。とたん「わっ!」と、みんなからも歓声があがる。


 パチパチパチパチ……


 拍手までおきちゃって、けっきょく足を出した男の子には何も言えなかった。


 あとから「さやかちゃん、見せパンはいてて良かったね」って、朋子ちゃんにこっそり言われて、あわててスカートの中を確認しちゃったんだけど…。


 四時間目が体育だった。この学園はスポーツが得意な子が多いから、上級生とやる事もある。


「今日はグランドで三年二組との合同体育だぞ! 遅れるな」

 

 瀬名先生とグランドにでると、三年生がすでに準備を始めていた。


 助走をつけて片足で踏み切り、飛んだ高さを競う、走り高跳たかとびだ。 


 星谷先輩とはこの時はじめて会った。


 三年生の中にいてもすぐわかる上品な顔立ちは、本当に王子様みたいだった。


「剣道部主将の星谷ほしや 凛久りく先輩だよ」

 

 朋子ちゃんがキラキラした目で、教えてくれる。

 よく見たら、まわりの女の子達も星谷先輩をうっとり見ていた。


 わたしは、よく知らないからみんなほど熱心にはなれない。


 でも、平均的な高さで飛んでいるけど、明らかに星谷先輩だけ余裕がある。


 きれいな背面跳び。

 どうして陸上部じゃなくて、剣道部なんだろう…って単純に思った。


「次! 一年生!」


 先生から声がかかり、わたしたちも順番にバーを超えた。

 ほとんどの生徒がバーを落とさないあたり、さすが聖レグルス学園の生徒だなぁって感心しちゃう。


 わたしがジャンプした時、どよめきみたいのがあがったけど、気のせいだよね。


 バーの高さをあげはじめると、引っかかる子も出始めたけど、わたしは最後まで飛び越えることができたんだ。


 もうすぐ授業終わりかな…って時、三年生から「どこまでバーを上げれるか、やってみないか?」と、声があがった。


 みんなスポーツ好きだから、やっぱり一番は誰なのか知りたいみたい。


 時間もないから三年生から三人。一年生から二人。バーの高さを上げて飛ぶことになった。


 もちろん星谷先輩も選ばれている。そして…わたしも。


 さっきよりも高い位置にあるバーを、わたしはしっかり距離を測って助走をつけた。

 

 ――――跳躍ちょうやく


 土が舞い上がる…。もっと、もっと高くって…風がわたしの肌をはじくみたい。


 マットに埋もれて上を見ると、バーは揺れる事なく静止していた。


「やったー!!」


 思わずガッツポーズしちゃった。朋子ちゃんや、みんながハイタッチで迎えてくれる。


 わたしの後に飛んだ男子はバーが落ちた。


 その後の三年生二人も、バーが背中にあたって落ちていく。


「くそっ!!」


 三年生の怒鳴りに、ビクっとしたとき星谷先輩が跳躍した。


 肩がバーを超える。


(飛べる!!)


 その瞬間、お尻がバーをかすめた。バーが小さく跳ねて揺れる…。


(あ……)


 みんなが祈るみたいに、一本の棒に集中した。


 揺れていたバーは、静かにそのまま静止した。


「よっしゃ―――!!」


 わっと湧き上がる三年生。


 いつしか、一年対三年みたいな雰囲気になっていた。

 

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