第6話 新米団長

「互いに時間をつくるより、一緒に生活した方が手っ取り早いでしょ?」


「そう…ですね」


 でも、せっかく朋子ちゃんと仲良くなったのに残念。

 

「わたしだけ、今のままではダメですか?」


 そう言ったわたしに、柳田先輩があきれて見せた。


「そんな事いうの、南条ぐらいだぞ」 


 ここは学生みんなの憧れの建物らしい。


「一階がダイニングと談話室。全自動洗濯機が二つに、シャワーはカギもかかる。二階が各部屋になっていて、南側の一番広い部屋が、代々団長部屋だいだいだんちょうべやになってるんだ」


「はぁ」


 わたしのマヌケな返事に、柳田先輩は肩をすくめる。


「…わたし、いちよう女の子ですけど?」


「おれ達も女の子の団長は初めてだよ。おれたちは、ここでの生活にいるからなんでも聞いてね」


 何か含みを感じる言い方に、不信を感じない訳ではないけど、何を言ってもムリなんだろう。


 ガラス張りの窓からは、朝の光が燦々さんさんと入っていて気持ちがいい。


(わたし、場違いだよなぁ)


「あれ?」


 なんとなく、現実逃避で洋館の庭先に目を向けた時、小さな耳が動いた。丸みがある黒と白い胴体。


 やっぱり仔猫がいるんだ。


「先輩。あのコ、あんな所にいて大丈夫ですか?」


 そう言ったのは、仔猫のすぐそばに大きなカラスが舞い降りたからだった。

 カラスはトテトテと、クローバーの上を歩いて仔猫に近寄る。


 仔猫はじっと動かない。クローバーに埋もれて、カラスから見えないんじゃないかと思った。


 でも、ふぁさ…とカラスが羽を広げて小さくジャンプした先に、白黒の柔らかそうな毛が見えて…、わたしは窓から飛び出していた。


 驚いたカラスが、ばっと飛び立つ。

 わたしはあわてて目の前にいた小さな生き物を両手ですくった。


 仔猫じゃないみたい。どちらかと言うと、丸い胴体は…モルモット? 


 真っ黒な丸い目に、小さな耳。ネズミっぽくない鼻先だけど、とても小さい。


 そのコを抱っこして洋館に戻ると、先輩二人はおばけを見たみたいにびっくりしていた。


 さすがに窓から飛び出したのは、はしたなかった?


 真っ赤になって下を向いたわたしは、抱っこしてた小さなコと目があう。するとピョン…と身軽に飛んで、着ていた胸ポケットに潜ってしまった。


「わ! わ!」


 びっくりしたけど、ぴょこ…と顔を出した姿はかわいい。


(なんか…人懐っこいな)


 ちょうどその時、勢いよく談話室の扉が開いた。


「おはようございまーす。あー、新団長どのがいらっしゃる〜」 


 入って来たのは、お嬢様とボディガードみたいな二人。


「さやか、こいつは小原おはら げん。女の子みたいな顔してるけど、これでも陸上部のエースなんだ」


「えー! これでもってっ」


 不満気な小原先輩とは、例の騒ぎ…から、ずっと陸上部に誘われてるから知ってる。


「…で、こっちが水泳部のエース、沖田一志おきたかずし。二人ともさやかのいっこ上ね」


 沖田先輩は…、クラスメイトの沖田くんのお兄さんかな。


 雰囲気が似てるし、一つ上のお兄さんがいるって朋子ちゃんが言っていたのを思い出した。


 クールなイケメンだけど、ちょっと苦手かも…。


「二人とも、彼女が南条さやかさん。今期の団長どのだ」


「応援団へようこそ…って、えっ、モクロをてなずけたの?」 


「え、モクロ?」 


 小原先輩がわたしの胸ポケットを指さした。

 

「そのコだよ。誰にもなつかないのに、さすがだね。モクロはここのヌシなんだよ」


(ヌシ? 洋館で長く飼われてるってこと?)


 首を傾げたわたしに、先輩達は困った顔でうなずきあってる。


「あっ、ぼくの事は呼び捨てでね。誠心誠意せいしんせいい、団長どのにお仕えするから」


「えっ!」


 小原先輩がわたしの手をとって、口をつけようとするから、後ろにいた沖田先輩に飛びつくみたいになっちゃった。


「うわっ。ごめんなさい!」


 だって、だって、こんなの王子様がお姫様にするみたい…。


「ふん。べつに」


 沖田先輩は、日に焼けた顔をすぐにそむける。 

 素っ気ない感じが、兄弟そっくり。


「それより、今日早速きょうさっそく 応援依頼が入ってる」


「えっ。今日?」


「どれ。ああ、バスケ部の練習試合だね。さやかの初応援にはちょうどいいじゃない?」


「ぼくも今日なら行けるよ」


「じゃあ、決まり。授業終わったら集合で」


「了解! じゃ、団長あとでね」


「えっ! えっ! ちょっと、ウソでしょう?!」


 わたし、何も説明されてませんよ!


 勝手に話が進んでいっちゃって、ついていけないわたしに「さやかはおれたちの真似していればよいよ」って。


 そんな、ポイ捨てみたいにしないでよぅ!


 

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