第7話 よくわからない沖田くん
朝から色々あって…考え事をしながら教室に行っちゃったわたしは、学ランを着たまま教室に入っていた。
「さやかちゃん似合うー!」
朋子ちゃんに言われてはじめて気が付き、あまりの恥ずかしさに真っ赤になる。
「そ、そうかな?」
こんなところでおっちょこちょいがバレてしまい、照れながら急いで学ランを脱いだ。
「おまえ、今日のバスケ部の応援出るのかよ?」
うっ、沖田くんだ…。応援団の情報は、広まるのがほんと早い!
「うん。でも、わたしは先輩がやるの真似すれば良いって」
「は? かっこわりぃ。団長が突っ立ってるつもりかよっ」
「そう…なっちゃうかな?」
「へー、あきれるな」
「でも、何すればいいかわからないし…」
「おどろき! 天才でもできない事あるんだぁ」
沖田くんが、バカにしているのがわかる。
「…わたし、天才じゃないよ」
下を向いちゃだめ。そんなの必要ない!
それでも、おさえきれない不安とか、怒りとか、よくわからないものが、内側からダダダー…て、
努力してきた! 頑張ってきた! でも、できない事いっぱい、いっぱいあった! わたしが天才なら、お母さんは死んでない!!
「沖田くん、わたしがキライなんだね! だったら話かけなくていいよ!」
気がついたら、大きな声で怒鳴っていた。
頭に血が登って、ツンって鼻が痛くなって…、わたしを囲んだ女の子達の顔がゆがむ。
「沖田くん、女の子泣かすなんて最低!」
「さやかちゃんにあやまってよ!」
「キツネ目のくせに!」
(えっ?!)
「そうそう! キツネ目!」
「顔、怖いよね!」
「お兄さんはカッコイイのに!」
(わ、わたしのせいで、なんかエスカレートしてる?!)
「ごめん、みんなっ。朋子ちゃんも、ありがとう! もう、大丈夫だから」
あわててハンカチを出そうとしたら…机の上の学ランが、モゾモゾ動いているのに気がついた。
(あっ、モクロ! すっかり忘れてた!)
ひょこり…と、黒い顔が覗く。あわててふわふわの白い胴体を捕まえようとしたけど…遅かった。
ピョーンと飛んだかと思うと、モクロは沖田くんのほっぺたに赤いすじをつけて逃げだした。
「っ。いってー!!」
床におりたモクロをあわてて追いかけるけど、とにかく小さいから捕まらない。いつの間にか、みんなでわーわー言いながら追いかけていた。
捕まえようとして床にダイブ、頭をぶつけて机やイスは、もう、めちゃくちゃ。
「あ――!!」
そうしてるうちに、みんなの手を擦り抜けたモクロは、窓から花壇へと消えてしまった。
「どうしよう!」
「いてーな。なんだよ、あいつ」
「あ、ごめん! あのコ、洋館で飼ってるコらしくて…」
手の甲でこすった目尻が、ヒリヒリして痛い。だけど、モクロの登場でみんなの怒りもどっかいっちゃったみたい。
「先輩に言わなきゃ。怒られるかなぁ」
「…おれがアニキに言っとく」
「え? いいの」
「その…ごめん」
ボソ…っと
だけど、沖田くんは動かない。
「…これっ」
「な、なに?」
「貸すから…」
「へ?」
「
わたしにだけ聞こえる小さな声で。
沖田くんが突き出したスマホには、先輩達の動画が映っていた。
(もしかして…、心配してくれたの?)
沖田くんは…ちょっといい人?
わたし
その日の授業ほとんどを、を動画を見てすごしたわたしは洋館に急いだ。
先輩達は、すでに学ランを着ておでこに長いハチマキをつけている。
「わあ! カッコイイですね!」
「そう? おれ達にとってはいつも通りだよ。先に体育館に行ってるから、さやかも着替えてからおいで」
確かに着替を手伝ってもらうわけにはいかないから、急いで着替えたけど…。
…どうしよう。
ズボンのすそが長い。 折り曲げるにしても、ウエストがぶかぶかだった。
時間がない…。
ふと、足もとに柔らかな温もりを感じて下を見ると、モクロがじっとわたしを見上げていた。
「戻っていたんだね。良かった」
両手ですくい上げると、今度は大人しい。
「わたし、このまま逃げちゃだめかな」
一年生の、しかも女が、かっこわるい…て、きっと笑い者になっちゃう。
自分でも
モクロは昼間の騒ぎが嘘のように、じっとわたしを見ていた。
黒だと思っていた目は、光りに反射して吸い込まれそうなほどキレイ。
「よし!!」
わたしは、モクロをおろすとそのまま洋館を飛び出した。
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