第5話 不本意だけど団長です

 三年生が一年のクラスに来る事なんてめったにないから、廊下まで人集りができていた。


「はいっ」


 わたしは沖田くんをその場にのこして、あわてて先輩の元にかけよった。


「きゃあ! 柳田先輩やなぎだせんぱいもいる――ぅ」


 廊下から、女の子の黄色い声が飛び交ってる。


「さやかちゃんだね。おれの事わかるかな?」


(さっき授業であってます) 


 とは言わないでうなずくと、先輩は嬉しそうにニコニコ笑顔で話してくれた。


「さっきの授業、決着がついていないでしょ?  だから放課後 体育館で、再戦はどうかな?」


 ザワ…っと、みんながどよめいた。

 痛いくらいの視線。

 

 わたしが断るなんて、許されない雰囲気。


「…なあ、星谷。おまえ、このほそっこいのに、本当に負けたの?」


 ピン…とはった緊迫感をほどいてくれたのは、大きな身体の柳田先輩。


「負けてないっ」


 からかわれた星谷先輩が、ギロって柳田先輩を睨むからハラハラしちゃう。


「あの、わたしはかまいません!」


「ほんと? 良かったー」


 本当に嬉しそうな星谷先輩は、やっぱり勝負する事が好きなんだとわかる。


 わたしもあのドキドキ感は嫌いじゃない。緊張はするんだけど、不思議とスタート地点につくと落ち着いちゃうんだよね。


 だから、先輩達が教室に戻る姿を見送りながら、放課後の勝負にワクワクしていたんだ。


 そして…、たくさん見学者が集まる中、結果は…わたしの圧勝だったの。


 星谷先輩、なんか…ごめんなさい。


 わたしは星谷先輩を負かした転校生ってことで、注目をあびてしまったみたい。


 そして…応援団の生徒投票 最終日だったこの日、結果は…もうわかるよね。




 団長に任命されてしまった朝、先輩達にやたら豪華な二階建ての洋館に連れてこられている。


 なんだろう…って前から思っていたけど、ここは応援団の部室なんだって。


 星谷先輩が学ランを貸してくれたから、体操服の上から着てみている。


 とりあえず、上着だけ。


「いいね。女の子の学ラン。さやかにピッタリ!」


「ピッタリ?」 


(どうみても、大きい気がしますけど?)


 ぶかぶかの上着は、開け放した窓からの風ですそがひるがえるほど長い。


 ズボンは…さすがに先輩の前ではずかしいから後で着てみる事にした。


 聖レグルス学園の制服は、ブレザースタイルだから、学ランっていうだけで、なんだか新鮮しんせんな感じ。


「星谷先輩、一年生から応援団に選ばれていたんですか?」


「そうだよ」


 なんでもない事みたいに言うけど、応援団って生徒の票できまるんだよ。

 それって、すごい事なんじゃない?


「ん?」


 わたしが思わず先輩の整った顔をみつめちゃったせいか、星谷先輩がニッコリと笑った。


 うん。みんなが先輩に投票するの、わかる。

 だって本当に綺麗な顔していて、背も高くてモデルみたいなんだもん。


「…星谷先輩って、モテますよね?」


「そんな事ないよ」


(う。その顔は自覚がある顔だよなぁ)


「おれの事、気になる?」 


「違います!」


「カワイイ顔で見つめると、期待させちゃうよ?」


「…無理に褒めなくて良いです」


 できるだけ素っ気なく言ったわたしに、柳田先輩が「南条は、スタイルはいいよな」だって。


 それって、顔はたいしたことないって意味だよね。

 美人じゃないってわかってるけど、キズつきますよ!


 まあ、女の子の中では背は高い方なんだよ。


 「せめて髪はのばして!」て、お父さんが言うから、男の子に間違えられた事はないけど。


「じゃあ、さやか。さっそくだけど、今日中に寮の荷物をまとめておいてね。おれ達で運ぶから」


「え? 荷物って?」


 急に寮の話になって驚いた。


「あれ? 聞いてない? この学園の応援団は、短期で結束力をつけなきゃいけないから、期間中はここで生活するんだよ」


「こっ、ここで…一緒に? 聞いてませんよぅ!!」


 わたしの団長一日目。

 超絶イケメン先輩と同じ屋根の下へ、お引っ越が決ったようです。

 

 

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