第2話 聖レグルス学園の応援団

南条団長なんじょうだんちょうがいらしたぞ! 全員せいれーつ!」


 わたしが学校の正門をくぐると、待っていた柳田先輩やなぎだせんぱいの声で、その場にいた生徒全員がぱっと横一列に並んだ。


「「おはよーございます!!」」


「……あっ、うん。おはよぅ」


 朝が苦手なわたしでも、さすがに眠気が吹っ飛んじゃう。


 わたし、南条さやか。

 私立しりつせいレグルス学園がくえん転校てんこうしてきた中学一年生の女の子。


 もうすぐ十三歳になるから、今から誕生日プレゼントを考えてる。

 新しいスマホカバーにしようかな。

 友達の朋子ともこちゃんがキラキラのスマホ持っていて、すっごくかわいいんだよ。


 ここ私立聖レグルス学園中等部は、名だたる高校からスポーツ推薦すいせんがあるちょっと有名な学園なの。


 小学校から、すでに抜き出た才能を発揮はっきしている子供たちが集まる、言わばトップアスリートのたまご。


 なんでそんな学園に、わたしが通っているかというと…。


 海外転勤が決ったお父さんに、ついていくのがイヤで、日本に残っちゃったんだよね。


 お母さんは、一年前に亡くなってる。


 だから、運動大好きなわたしのために、寮生活りょうせいかつができるこの学園に転入させてもらったんだ。


 お父さんはわたしの事を、オテンバって言うけど、せめて活発 って言って欲しい。


 そんなわたしが『南条団長』なんて呼ばれているのは…。


「こら、柳田。さやかが困る事をするな」


(わぁ、でたー!)


「おはよう。さやか」 


「あっ。ハイ。おはようございます。星谷ほしや先輩」


 この、少し長めの明るい髪を耳にかけたすご〜く美形な星谷先輩は、レグルス学園の生徒会で行われるナンバーワンプリンスに二年連続選ばれてる王子様。


 物腰が柔らかくて文武両道。剣道部の主将をつとめてる。


「さやか、おはようございます…じゃなくて、おはよーって言って?」


「うっ。すいません」


 聖レグルス学園には、歴史ある応援団

が存在するの。


 応援団は誰でも入れる部活ではないらしく、第一に他の部活で結果を出している事。


 第二に、三ヶ月に一度の生徒投票で選ばれた上位五人だけ!


 その中でも、一番票を集めた子が応援団長になるんだって。


 三ヶ月に一度の理由は、常に緊張感を持たせるためだとか。

 

「元気がないな! そんなんで、団長はつとまらんぞ!」


 大柄な柳田先輩が、わたしの背中をバシッと叩いた。

 柳田先輩は、空手部主将だから手加減されていてもかなり痛い。


「そんな事言ったって…。じゃあ、先輩変わって下さいっ。わたし副団長として全力でサポートしますっ」


「ばか。生徒の票で決ったものを変えれるか! それにおれと変わるなら、ただの団員だ。副団長は星谷だからな」


「わたし、ただの団員でぜんぜんいいです!」


「おまえ…。生徒全員の期待を裏切るとはいい度胸だなぁ」


「期待って言ったって…。そういうの、よくわかりません」


 しょぼくれたわたしをみかねて、星谷先輩が柳田先輩の前にでた。


「やめろ。柳田。我らの団長どのをいじめるな」


「いじめてない。そんな甘くないってだけで!」


「とにかくっ、今日から三ヶ月間、聖レグルス学園中等部の応援団長は、南条さやかだ。団長に選ばれた者に命を預けるのが、我が学園のしきたり! 団長にもの申す時は、おれを通せ」


(いのち…て、大げさじゃない?)


 とは思うけど、星谷先輩は至って真剣。

 スローモーションみたいにゆっくり背中に背負う竹刀袋に手をかけ、声を落とす。


「おれのけんうでは知ってるな?」


 睨みつけられた柳田先輩も、ジリ…と、片足を引いてこぶしを構えた。


(わっ、こんなところでケンカしないでよぅ)


「て、え――!!」


 チラリと周りを見た柳田先輩が、わたしに九十度の角度で頭を下げるから、びっくりして変な声が出た。


「失礼した。団長どの」


(うう…)


 みんなの視線しせんが痛いんです!


 その時、校舎の手前、群生したクローバーの中に、黒と白の…小さな、本当に小さな生き物が動いた気がしたけど…仔猫こねこかな。



 

 

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