ワタシの抜け殻

YouGo!

美しい抜け殻

 ある夏の日のこと。私の通う小学校で、美しいセミの抜け殻が発見された。それは宝石のように煌めき、光を当てると七色に輝いた。しかし、誰かがそれを先生に知らせてしまったため、抜け殻は回収されてしまった。「ずるい」「俺も触りたい」「欲しかったのに」と、口々に騒ぐ男子もいたが、子どもの興味をいたずらに引くような物は、回収するのが無難だ。私はそう思っていたし、周りの女子たちも同じように思っていた。それに、あんな綺麗な抜け殻があるわけがない。きっとガラスか宝石でできた作り物で、誰かの落とし物だろう。

 しかし、誰かが言った。

「抜け殻があんなに綺麗なら、あれから出てきたセミはどれだけ綺麗なんだろう?」


 それからと言うもの、クラスのみんなはセミ探しに夢中になっていた。

「あっちの山で知らないセミの鳴き声を聞いたらしいよ」

「向こうの森ではキラキラしたセミを見たって」

「今度はちょっと遠くまで探しに行こうよ」

そう言って騒ぐクラスメイトを、私はどこか冷ややかな目で眺めていた。あの抜け殻は偽物で、そこから羽化したセミなんていない。そう思いながらも、私は学校からの帰り道、通り沿いにある木をチラチラと見ていた。


 やがて、金色のセミを見つけた、透明なセミを見つけたなどと言い出す人まで現れた。それに釣られて、みんなは楽しそうに言い合いを始める。どうしてみんな、そんなことで盛り上がれるのだろう。あの抜け殻は偽物、本物じゃない。それをどうして分からないのだろう。

 いや、もしかしたら、そんなことはあの男子たちも分かっているのかもしれない。知った上で、セミ探しを楽しんでいるのかもしれない。だとしたら、それができない私は、何なのだろうか。そう思いながら、私はまたチラチラと木を見ながら帰った。


「あっ」


 思わず声が漏れた。見上げた木の枝先に、夕日を浴びてキラキラと光る何かを見つけたのだ。あれは何だ。もしかしたら、みんなが探しているあのセミかもしれない。私は思わず手を伸ばす。


「あっ……」


 枝に止まっていたそれは、私が手を伸ばすと同時に飛び立ってしまった。夕日に向かって飛んでいったそれは、本当にセミだったのか、それとも他の何かだったのか、確かめることはできなかった。


 抜け殻を見つけてから七日後。みんなはもう、セミのことを話さなくなっていた。もう諦めたのか、単純に飽きたのか、それは分からない。ただ、あれだけ盛んだったセミ探しは、もうクラスの誰一人としてやっていない。みんな、あんなに美しかった抜け殻を忘れたかのように、元の日常に戻っていく。

 私はというと、まだ道沿いの木に、あの時のセミを探している。クラスの男子たちのように具体的な行動をしなかった私は、心に行き場のない微かな熱を抱えたまま。ただ抜け殻のように、この夏に取り残された。

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