目を背けてはいけない、どこかであったかもしれない話

キャッチコピーのとおり重苦しい空気が漂っていますが、だからこそ読まねばと思ってしまいます。

理不尽な暴力により混血児の母にならざるを得なかった娘、その娘の胎内から産まれた子供……被害者であるはずの2人が、その血に敵の人間のものが混ざっているがゆえに、周囲の人々のやり場のない憎悪と鬱憤晴らしの標的にされています。
かつて敵に苦しめられたからという理由で、トラウマを呼び起こす容姿の主人公に憎しみをぶつける周囲の人々。産まれてきた主人公にも、その母にも何の罪もないのに、ただ自分たちの負の感情の捌け口にしている。そんなことをしても何の意味もないのに。虐げられたからこそ虐げる。そこに快感を得ているように見えます。

主人公はそんな人々に罪悪感を感じながら、父親である敵に憎悪を募らせ、殺意を抱き……。

憎しみの連鎖、人間の醜い残虐な本性を見事な筆遣いで描写されています。読み終えた後、不思議な余韻にひたりました。

参考文献も掲載されていらっしゃいましたので、それも手に取りたいと思います。