第6話

「フェリクス」

 しわがれた声が名前を呼んだ。フェリクスは目を開け、眩さに何度か瞬きをする。

「……親爺」

「おれたちは生きているのか」

 呆然と問いかける父親に、フェリクスは思わず笑みを浮かべた。

「ああ」

「魔女は……おれたちを呼ばなかったんだな」

 どこか残念そうに呟いて、父親は凪いだ海を見つめる。周囲を見回すと、そこは見覚えのある、村のすぐ近くの渚だった。見慣れた、青く穏やかな海と空だ。少し離れたところには、半分壊れてはいるけれど、直せば充分使えそうなフェリクスたちの小舟も流れ着いている。

「……終わったんだよ、親爺」

 立ち上がって身体の調子を確かめるフェリクスに、父親はもの問いたげな視線を向けた。

「おれたちは王族の子孫じゃなかったみたいだ」

「魔女に会ったのか、フェリクス」

 声ににじむ紛れもない羨望を感じ取って、フェリクスは苦笑する。

「会ったよ。そして、たぶんぜんぶ終わった」

「そうか」

 頷く父から海へ視線を向け、並んだまま打ち寄せるさざなみを眺めた。凪いだ海は青く、まるで宝石のようだ。嵐の気配はもうどこにもない。フェリクスは小舟を引き上げるために、浅瀬に足を踏み入れる。あたたかな水が、フェリクスのかかとを包み込む。

 足にふれるきらめく波のささやきに紛れて、少女の歌声とやわらかな竪琴の音色が、微かに聞こえた気がした。

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海の歌声 深海いわし @sardine_pluie

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