第6話 堂々といこう
街へ帰ってきたらだいぶ暗くなっていた。
ギルドにクエスト達成を報告する。
調査班が森へ確認に行ったので、明日には報酬を受け取れるだろう。
……グレートムーンを倒しただと?
……誰かがこっそり協力してくれたんだろう。
……あいつが単独でBランクモンスターを倒すなんてありえない。
……しかもテイムモンスターはケセララだぞ。
……話盛ってるな。絶対にそうだ。
カウンターでユノさんと話しているあいだ、陰口がずっと耳に入ってきていた。今までは悔しさしかなかったけど、今日は違う。あいつらがどう思ったところで、私がグレートムーンを単独討伐したのは確かな事実。ビクビクする要素は何もない。堂々としていよう。
私は建物の外に出て、正面広場で待っているはずのモフランのところへ行った。
「すうー、すうー……」
「モフ~」
「癒やされるなあ。これが毛玉を吸うということか……」
「……何やってるんですか、ササヤさん」
「おや、ご主人のお出ましか」
ササヤさんは自然な流れでモフランから離れた。やばいところを見られているという自覚はないのかな。
「今日はクエストに出かけていたのかい?」
「はい。グレートムーンを倒してきました」
「ほほう、ケセララと二人で?」
「そうです」
「それは見事だ。ランクの差から考えてもなかなかできることではない」
ササヤさんは感心してくれている。きっと、精神的にとても余裕がある人なのだろう。
「ササヤさんは今日もお休みですか?」
「そうだよ。ブルーライノを知っているかい?」
「はい。氷属性の攻撃を使うサイですよね」
「三日前まで北の街であれの大規模討伐作戦があってね、ずっとそれに参加していたんだ。十日はかかったかな。だからしばらく休息というわけさ」
「そんな大きかったんですか」
「いや、多かった。何せ五十匹とかで街を襲ってくるんだからね」
「ひええ……」
ライノ族は激しく走り回るのでテイムするのはとても難しい。できたら攻撃力と移動速度で圧倒的プラスになるんだけど、私の実力では無理だ。
「わたしも普通のクエストを受けたいんだけどね。自分のペースでゆっくりとさ。でもギルドからは討伐作戦の依頼ばかり回されて、なかなか自由に動けないんだ」
「それだけ信頼されているんですよ」
「そうかな。出せる人材があんまりいないのかもしれないよ。たいていの冒険者はパーティーで行動している。ソロで自由の利きやすいわたしが選ばれるのはある意味で当然なんだ」
ササヤさんは苦笑した。なんだかさみしそう。
「あの、今度よかったら一緒にクエスト行きませんか」
「いいのかい?」
「はい。……私、足を引っ張りまくるかもしれませんけど」
「気にしなくていいよ。誘ってくれるだけでとても嬉しい。ぜひお願いする」
「やったぁ。ありがとうございます!」
ササヤさんはギルドトップクラスの実力者だ。戦いを間近で見て勉強するぞ。何より――
「あの、できたらクエスト以外のところでも仲良くできたらって思ったりするんですけど……」
「こうやって話しているじゃないか」
「そう、まさにこんな感じでのんびりおしゃべりできたらいいなって」
ササヤさんがニヤッと笑った。
「ははあ、友達がほしいんだね」
「うっ」
見破られた。
そうなのだ。私には同年代の、同性の友達がいない。歳の近い女の子はだいたいパーティーに入っていて話しかけるのが難しい。ついでに、私は底辺だから避けられている。今の私には友達と呼べる相手がいなかった。
マルフは悪友といった存在だ。私としては、やっぱり女の子の友達もほしい。
「まだ相性がわからないからなあ。しばらく話して、気が合うか試してみようじゃないか」
「い、いじわるですね……」
「ふふふ、キミはからかい甲斐がありそうだからねえ」
ササヤさんは羽織の袖で口を隠して笑ってみせる。
「やあ、ササヤ」
横から声がかかった。金髪を風になびかせているリオネさんだった。
「リオネか。久しぶりだね」
「ああ。討伐作戦は終わったのか」
「無事になんとか。キミは相変わらず危険なクエストばかり率先して片づけているのかい?」
「そんなところだ。パーティーのメンバーが安定しなくて困っているよ」
リオネさんは肩をすくめる。確かに、リオネさんのパーティーはコロコロ顔ぶれが変わっている。激しい戦いを繰り広げているから人材の消耗も激しいようだ。
「ところでササヤ、明日は暇か?」
「今のところ予定はないね」
「じゃあ、つきあってほしい。相手はSランクだ」
「やっぱり自分で相手は選べないか……」
「ん? きついか?」
「いや、いいよ。対象は?」
「モークドラゴン。西の廃坑で瘴気を振りまいている」
「あれ? 今日討伐に行ったんじゃ……」
私は思わず会話に割り込んでいた。
「残念ながら見つけられなかった。どこかに潜んでいるのは間違いないのだが……。今日集まってもらったメンバーも明日は別のクエストに行かなければならないし、手が足りない。ササヤ、キミは気配を探るのに長けているだろう。居場所を突き止めてほしい」
「なるほどね。そういうことならつきあおう」
「出発は明日早朝だ。よろしく頼む」
「承知した」
リオネさんはうなずき、ギルドへ入っていった。
「休暇が終わってしまった」
「大変ですね」
「頼ってもらえるのは嬉しいけどね。さて、毛玉ちゃんともたわむれたし、そろそろ行こうかな」
ササヤさんはモフランを撫でた。
「じゃあね。また吸わせて」
「モフ」
「撫でるだけにしてもらえません……?」
「あはは、それもそうだ。じゃあまたね」
ササヤさんは羽織の袖を合わせて両手を隠し、去っていった。絵になる人だ。
「おーい、アイラ!」
今度はマルフたちがやってきた。
「無事だったんだな!」
マルフは走ってきて、呼吸を荒くしている。
「この通り無事です。ね、モフランはすごいって言ったでしょ」
「そうだけど、お前は勢いつきすぎて周り見えなくなったりするし」
「うっ……まあ、そういう時もあるけど」
「でも、マジで結果出し始めたら、俺たちは一気に置いてかれちまうな。成功者になって急に冷たい態度取るのだけはやめてくれよ?」
マルフが不安そうに言うので、私は笑いそうになった。
「何を心配してるの。私がどん底だった時、マルフたちはいっぱい助けてくれたじゃん。その分のお返しはちゃんとするつもりでいるから。陰口叩いてた奴らには別の意味でお返ししたいけど」
「じゃあ、たまには一緒にクエスト行こうな」
「もちろん」
「へへ、よかった」
笑っているマルフの肩をロックが軽く叩いた。
「こいつ、今日ずっと『アイラは大丈夫かな』って言ってたんだ。世話焼きなんだよね」
「お、おいロック!? そういうのは黙っとけよ!」
「へえ~、そんなに気にしてくれてたんだ」
「う、うるせえ! アイラはやらかすかもしれないから心配なの!」
「ふっふっふ、お気づかいありがとうございます」
「~~ッ! も、もう俺たちは行くからな! じゃあな!」
マルフは顔を赤くして走っていった。他の三人も私に挨拶してから追いかけていった。
少しずつ、自分の立場が変わり始めている。それを実感した。
「モフランのおかげだよ」
「モフ?」
「こんな短期間で、人って変われるものなんだ。まあ、私の能力あってこその話だけど」
「モッフン」
「あうっ」
モフランがぶつかってきた。
「……もしかして、調子乗るなって言ってる?」
「モッ」
そうらしい。
「……謙虚に頑張ります」
「モフ!」
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