第3話 最強の盾

 レッドオーガが咆哮を上げて棍棒を振り回してくる。


「わあああ!」


 私は〈俊敏〉を発動させてめちゃくちゃに逃げ回った。レッドオーガはモフランに目もくれず、ひたすら私を攻撃してくる。

 なんてことだ!

 ケセララは自分から攻撃しないのだから私が倒さなければならない。

 でも私は徒手空拳。これでオーガに勝てますか?

 ――無理!


 だから私は逃げまくる。

 機転を利かせろ。戦法の発想力には長けていると言われた私だ。力がなくてもレッドオーガを制圧する方法を探るんだ。

 こいつはドラゴンほど、どうにもならないモンスターじゃない。工夫できれば私でも――!


 走りながらハッとした。

 私は鉱山の岩壁に向かった。オーガが突っ込んでくる。私は三つ目の能力――〈氷塊〉を使って小さな氷のかたまりを手のひらに生み出す。


「はっ!」


 ゴツン! 顔面にヒット!


「グオオオオオオオオオオオオッ!」


 よし、キレた! レッドオーガは見境なしに棍棒を振り回して突撃してくる。


 私はギリギリまで引きつけて、

 ――今ッ!

 とっさに横へ跳んだ。

〈俊敏〉によってジャンプ力の飛距離を上げている。一瞬で棍棒の攻撃範囲外だ。


 オーガの棍棒は岩壁を直撃した。岩盤が砕けて大きな破片が大量に落ちてくる。オーガは岩の雨を食らってひるんでいる。


 私はその背後を全力で駆け抜けた。


「モフラン、行くよ!」

「モフッ」


 相手がひるんでいる隙にできるだけ距離を取る!

 でも、どうやって逃げようか?

 私は崖を飛び降りてきたのだ。モフランにそこまでの跳躍力は出せないだろう。ここもやっぱり、私しか帰れない。

 すると、オーガが歩いてきた方向から回り道をするしかない。あるいは、坑道の中に逃げ込むか。


 ううっ、考えがまとまらない!


「ガアアアアアアアアア!」


 レッドオーガが吼えて態勢を立て直した。私たちに気づき、走ってくる。

 今度は反撃に使えるものがない。

 どうすれば――!?


「モッフ」


 モフランが私の前に出た。


「待っ、モフランじゃ受け切れないよ!」

「モフ!」


 何やら力強い声だった。


 私が戸惑っているうちにレッドオーガが突っ込んできて、棍棒を縦に振り下ろした。


 ぼよん、と音がしてオーガが吹っ飛ばされていた。


「え……?」

「モフン」


 ……ドヤってます?


 でも、モフランはまるでダメージを受けた気配がない。レッドオーガはAランクのモンスター。最高であるSランクの一個下。そんな奴が全力で棍棒を叩きつけてきたのに、無傷?


 これが、金色の目をしたケセララ。

 存在がレアなだけじゃなくて、防御能力も超一級ってこと?


「す、すごいよモフラン! あれを防ぐなんて!」

「フモ」


 レッドオーガが立ち上がった。棍棒を握り直し、またしても突撃の構えだ。

 私の焦りは消え去っていた。


「モフラン、もう一回見せて!」

「モフ!」

「ガアアアアアアアアア!」


 レッドオーガが突進から強烈な打撃を放ってくる。


 ぼーん。


 ――同じ結果だった。


 モフランに棍棒を跳ね返され、レッドオーガは大きく態勢を崩す。

 その時、私はビビッときた。


「モフラン、もう一発耐えられる!?」

「モッフ!」

「よし!」


 雰囲気で意思疎通できるのがテイマーとモンスターだ。私たちはやれる!


 レッドオーガが三度目の突進を仕掛けてくる。こいつらは血に飢えている。どうやっても私を食べたいのだろう。あげないけどね!


「ガアアアアアアッ!」

「モフッ」


 ぼん、とまたも棍棒が跳ね返された。レッドオーガは大きくよろけ、仰向けにひっくり返った。


「モフラン、飛ばして――!」

「フモッ!」


 私は助走をつけてジャンプし、モフランに飛び乗った。モフランは体を縮め、ため込んだ力を一気に解放する。

 私は、〈俊敏〉では絶対に無理な高さまで飛び上がっていた。

 真下にレッドオーガの顔が見える。

 空中で体をひねって、頭から落ちていく。

 両手を下に伸ばして、魔力を集中した。


「これは耐えられないでしょッ!」


〈氷塊〉を発動させ、オーガの顔より大きな氷のかたまりを作り出す。私の数少ない取り柄はこの膨大な魔力だ。この大きさの氷を作り出してもまだまだ余裕!


〈氷塊〉の魔法は、氷のかたまりでさえあれば様々な形を作ることができる。この氷の先端は――ランスのように尖っている。


「おりゃああああああああ!!!」


 両手で氷塊を押し込みながら急降下していく。

 そして――レッドオーガの顔を完璧につぶした。


 ……えぐいやり方なのはわかってます。


 でも、思いついたんだからしょうがないじゃない。私たちはピンチだったのだから。


 レッドオーガを直撃した手応えがしっかり伝わってきた。

 私は氷塊の上で腕立て伏せをするように肘を曲げ、また跳ねた。空中で一回転してレッドオーガの横に着地する。


 しばらくオーガの様子をうかがっていたけれど、起き上がる様子はない。


「ケセララと組んでレッドオーガに勝った……?」


 こっちは最低ランク冒険者と最低ランクのモンスター。

 向こうは上から二番目に強いランクの大型モンスター。


「わ、私たちすごくない!? レッドオーガに勝っちゃったよ!?」

「モフ、モフ!」


 よくわからないけど、モフランも喜んでいる感じが伝わってきた。


「うー、これが討伐対象だったら報酬たんまりだったのになあ。惜しかった」

「モフ……?」

「あっ、なんでもないよ? ほんとほんと」

「モフン……」

「あははは」


 なぜ私はモンスターに弁解みたいなことをしているのか。

 ともかく、モフランの力はわかった。

 他のケセララでは絶対にありえない防御力を持っている。私の移動をサポートしてくれることもできる。


 ……やっていけるかも。


 急に、そんな自信が湧いてきた。

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