10話 もふもふと生きていく

「とんでもないことが起きたな……」


 坑道の出口へ歩きながらリオネさんがつぶやいた。


「アイラはFランク冒険者だ。それがSランクドラゴンを倒した。これは前代未聞の事態だ」

「そうだねえ。わたしらはとどめを刺しただけで、倒したのはほぼキミの力と言っていい」

「やっぱり、怒られますかね……?」


 私が訊くと、ササヤさんが大笑いした。


「なんで怒られるのさ。キミは大変な功績を挙げたっていうのに」

「でも、ギルドに救援要請が来るほどの相手だったのに、Fランクの分際で追いかけてきちゃったんですよ」

「気にしなくていいよ」

「ササヤの言う通りだ。ギルドは結果さえ示せば何も言わない。個人的に文句を言う奴はいるかもしれんが、アイラの戦果は私とササヤでしっかり証明するよ。きっとランクも上がるだろう」

「リオネさん、ササヤさん……」

「そもそもねえ」


 ササヤさんは呆れたように言う。


「ほら、最後まで救援は来なかっただろう? だからキミがいなかったらわたしたちは殺されていたんだよ。キミの功績はSランクドラゴンの討伐だけじゃない。Sランク冒険者二人を救出したとも言えるわけだ」

「そ、それはモフランがいたからで……」

「それがテイマーの腕というものだろう? むしろ誇りたまえ」

「はい……」


 ふふっ、とリオネさんが笑った。


「どうも褒められるのに慣れていないようだな。今日みたいなことができれば、これからこうやって賞賛されることも増える。楽しみにしておくといい」

「は、はい!」

「もちろん、お前もな」

「モフ?」


 リオネさんはモフランを見て微笑んだ。


 廃坑の出口が見えた。

 外に出ると、もうすっかり夜になっていた。


「あっ、出てきたぞ!」

「無事だった! よかった!」


 斜面の下が騒がしい。

 降りていくと、いくつかのパーティーがいた。

 マルフたちの姿もある。彼らは、倒れている軽装鎧の男性を見守っていた。


「姉貴!」

「マルフ、すまない。心配をかけた」

「よかった、無事で」

「……ああ」


 リオネさんは、うつむいている弟をしっかり抱きしめる。


「無謀な突撃は耐えたんだな。えらいぞ」

「……自分の実力はわかってる。でも、いつか追いついてやるからな」

「そうだな、楽しみにしている」


 無謀な突撃をしてしまった私は気まずい気持ちで違う方を見ていた。


「おや、この男性は一緒に来たホーマーさんだ。弟くんたちが助けてくれたのかい?」

「ええ」


 ササヤさんの問いかけにロックが答えた。


「坑道を覗いたら倒れてて、まだ息があったので脱出させました」

「ありがとう。被害は最小限で済んだようだ」


 ギルドの調査班が坑道へ入っていき、私たちは街へ引き返すことになった。

 光魔法を使える人が前に立って歩き、夜道を照らす。


「ねえ、マルフ」

「なんだ」

「足引っ張るだけだって言ってたのに、結局来たんだね」

「お前が行ったから、俺らも行くしかねえって話になったんだよ」

「……私、隠れて出発したつもりなんだけど」


 マルフが呆れた顔をした。


「宿へ帰るって言ったあと、お前の動きが急にカクカクになったから引っかかってたんだ。まさかって思ったらほんとに宿へ戻ってないし、止めなきゃヤバいと思って追いかけてきたんだ」

「そんなに、動きに出てた?」

「ああ、わかりやすかった」

「あはは……」

「ったく、無茶なんてレベルじゃねえぞ」

「でもさ」


 私は、跳ねながらついてくるモフランを触った。


「この子と一緒ならやれると思ったんだ」

「モフッ」

「でもSランクだぞ。もっと慎重になれよ」

「あの時は無我夢中だったの」


 マルフはため息をつく。


「まあ、姉貴を助けてくれてありがとな」

「……うん!」


「失礼」


 ササヤさんがやってきた。羽織の袖口を合わせて両手を隠している。


「今回は本当にありがとう。明日は休養がてら、どこかでのんびりお茶でもしないかい?」

「いいんですか!?」

「そこで友達になれるか測り合おう」

「えっ、試験方式なんですか?」

「あっはっは、冗談だよ。というか、こんな話ができる時点で、わたしたちはもう友達だと思っているけどね?」

「……わあ」

「すごく嬉しそうだね。まあ、仲良くやっていこう」

「はいっ!」


 少し離れたところからリオネさんも見ている。


「テイムモンスターでここまで世界が変わるのだな。私も追い抜かれないようにまだまだ成長しなければ」


 何やら覚悟を決めている様子だった。


「アイラちゃん」


 ササヤさんが名前で呼んでくれた。


「モークドラゴンを倒したこと、本当に自慢していいからね。あれはラッキーなんかじゃない。ちゃんと計算された立ち回りだった。キミの実力があったからこその戦果だ。わたしも、運がよかったなんて言う奴がいたら黙らせておくよ」


 ちょっと怖いけど、嬉しい。


「ホントに、俺たちの相手もしてくれよ?」


 マルフは不安そうだ。私は笑顔を見せる。


「大丈夫! 一緒にクエストも行こう!」

「……ああ」

「おや、わたしにも同じことを言っていたじゃないか。さてはキミ、たらしだね?」

「な、なんでそうなるんですか!?」


 周りが笑顔で包まれた。

 そのかたわらでモフランがぴょこぴょこ跳ねている。

 この子との出会いが、私の人生を変えた。

 ずっと底辺だったけど、ここからは上がっていくだけ。

 やってやるぞ!


     ☆


「モフ、モフ」

「ん、おはよう」


 私は起き上がって毛布を畳む。

 シャツを着て半ズボンを穿くと、モフランと一緒に宿の食堂へ行く。

 朝ごはんを食べてギルドへ向かう。


「おう、おはようアイラ!」

「おはよー!」


 正面広場にはマルフたち四人組がいる。その向こうでは、今日もパーティーの顔ぶれが違うリオネさんたちの一団が。


「今日はわたしと行く約束だからね、アイラちゃん」


 ひょこっと、ササヤさんが横から出てくる。


「もちろん、よろしくお願いします!」


 ……あいつ、生き生きしてきたな。

 ……マジで人生逆転しやがった。

 ……誰にでも可能性はあるってことだ。


 聞こえてくる声も、最近はおとなしい。

 私はモフランと一緒に楽しく冒険者生活を送っている。


 それは今日も同じ。

 友達もできたし、順調に成果を伸ばしているところだ。


「アイラちゃん、わたしは中でボードを見ているからね」

「はい!」


 私は深呼吸をして、モフランと目を合わせる。


「今日もよろしくね、モフラン!」

「モフ!」


 さあ、行こう。

 ここからが人生本番だ!





〈おしまい〉

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ポンコツテイマーの覚醒 ~テイム上限1匹の底辺冒険者だけど、最強のもふもふ盾を仲間にして逆転します~ 雨地草太郎 @amachi

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