ポンコツテイマーの覚醒 ~テイム上限1匹の底辺冒険者だけど、最強のもふもふ盾を仲間にして逆転します~
雨地草太郎
第1話 ポンコツテイマー
ブレイズドラゴンの火炎放射が草原を舐めた。
「きゃあああっ!」
私は吹っ飛ばされて地面をごろごろ転がる。
起き上がると、赤い甲殻を持つドラゴンが私を見下していた。
ドラゴンの足元には、私の相棒――
「ラン……」
私はこれまで、とっさにいろんな戦い方を思いついて難局を乗り越えてきた。
でも、ドラゴンに小手先の戦術は通用しない。やっぱり、私一人でこいつに挑むなんて無謀だったのかな……。
ランの体が青く光った。茶色い羽を広げると、ランはドラゴンの攻撃をかいくぐって空高く消えていった。
限界までダメージを受けたから、テイムが解除されたのだ。
これで本当に一人きりになってしまった。
ドラゴンが吼えて突っ込んでくる。
「動くな!」
背後から女性の声が聞こえた。私の横を抜けていった女性騎士は、水属性の魔力を宿した剣でブレイズドラゴンをあっという間に斬り伏せてしまった。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
金髪に軽装鎧という格好の女性騎士――リオネさんは、優しい笑顔を向けてくれた。
「依頼の張り紙が消えていたので念のため様子を見に来た。どうやら正解だったようだな」
「ご、ごめんなさい……。ランとならいけると思って……」
「ああ、あのウィンドホークか」
「今までテイムできたモンスターの中で一番攻撃力が高かったんです。だから、今度こそいけるって」
「モンスターの攻撃力だけでは難しい。やはり、主人とモンスターの連携あってこそのテイマーだろう」
「ですよね……」
「とにかく、ギルドに報告するといい。アイラ――キミが倒したことにしておけ」
「そ、そんな! 私なんにもできてませんし!」
「いいんだ。キミが苦労していることは知っている。私からの努力賞だ」
「だ、駄目です。そういう優しさは逆につらくなるので!」
「そうか? でもキミが戦いやすい場所まで引きずり出してくれた功績は認められていいだろう。そうだな、報酬の三割はもらってくれ。それで納得できるか?」
「は、はい……じゃあそれで……」
私は情けなさを感じつつ、街へ引き返すことになった。
☆
「ではこちらが報酬になります」
ギルドで1万ファロンの報酬金を受け取った私は、館内の食事処でぼんやり外を見ていた。
「よう、またテイムモンスターに逃げられたらしいな」
若手パーティーの四人組が絡んできた。
「せっかくいいモンスターをテイムできても連携できないんじゃ駄目駄目だな」
「ウィンドホークの攻撃力も活かせないとかやばすぎだろ」
「お前ら、言い過ぎだって。テイマーは複数のモンスターで連携して戦うのが基本なんだから」
「そうだったな。アイラには無理な話か」
「テイム上限一匹じゃ連携も何もなかったわな」
「一匹……しょぼいねえ」
「う、うるさーい!」
私はテーブルを叩いて抗議した。
「私だって悩んでるんだから、いちいち傷をえぐるなっ!」
「うわ、キレた」
「かわいい」
「いい声」
「ギルド専属歌姫やるべきだろ」
「よ、余計なお世話だよ! 私はモンスターテイマーで食べていくって決めてるの! そのうち見返してみせるから待ってなさい!」
「意地張っちゃって」
「そんなところもかわいいけどな」
くう……。
私はいつもこんな感じ。
冒険者になって二年目の十六歳。
接近戦の才能がなかったから、モンスターを使役するテイマーとして活動することにした。
でも、問題があった。
どんなに頑張ってもテイムできるモンスターの上限が〈1〉から増えないのだ。
こいつらも言っているように、一線級のテイマーは三匹程度のモンスターに連携を取らせて強力な敵を制圧する。あるいは自身とモンスターで呼吸を合わせるか。
私はパワーに欠けているから、モンスターと敵を挟み撃ちにするといった戦法が使えない。
足の速さだけは自信があって、攪乱とかもできるんだけど、それって攻撃力の高いモンスターと組まないと意味がない。
そういう意味でさっきまで組んでいたウィンドホークのランとはうまくいっていた。
討伐クエストも久しぶりに成功して、
――私、ついに覚醒する!?
なんて期待も持っていた。
でも、ブレイズドラゴンなんて大型モンスターに挑んだせいでランがやられてしまい、契約が解除されてしまった。私はまたゼロに戻ったのだ。
「調子乗っちゃったなあ……」
二日前、すごーく久しぶりにフォグウルフの討伐に成功した。だからその勢いでドラゴンも倒そうとしたんだけど……。やっぱり、モンスターの頂点に立つドラゴンは簡単にやられてくれなかった。
「はあー……」
「ま、元気出せよ。姉貴もお前のこと応援してるからさ、またやり直してみろって」
パーティーのリーダー、マルフが励ましてくれる。彼は、私を助けてくれたリオネさんの弟だ。お姉さんと同じく金髪が目立つ。
「ポンコツでもいつかはうまくいくかもしれないしな」
「こらっ! 褒めるのかけなすのかはっきりしてよ!」
「けなされたいのか?」
「……褒めてほしい」
「諦めなくてえらい」
「……ありがとう」
うう、みじめだ。泣きたくなる。
「マルフ、そろそろ行こうぜ」
「おう。――じゃあな。これからオーク討伐なもんでね」
「が、頑張ってね」
「ありがとよ」
マルフたちが受付へ歩いていった。
……ポンコツテイマー、いつまで続けるのかね。
……そろそろ転職すべきだろう。
……そのうち死にそうだよな。いつの間にかいなくなってる感じで。
……いつまでもFランクでよく折れないものだ。
……折れたら食えなくなるからってだけだろ。
周りが食事をしながらひそひそ話をしているのが聞こえてくる。もう慣れたけど、やっぱり馬鹿にされるのは腹が立つ。絶対にみんなを見返したい。
私はスープを飲み干すと、返却口に返して食事処を出る。
ギルド館内の片隅には「調査窓口」という場所がある。
そのカウンターの前に立つ。
「アイラ・クロテールさんですか。お久しぶりです」
鑑定人のローグさんが迎えてくれた。綺麗なシャツを着て、黒髪を自然に流した爽やかな男性だ。
「あの、また見てもらってもいいですか?」
「ええ、おかけください」
私はイスに座り、カウンターに右腕を置く。シャツの袖をまくって腕を出した。
「はい、失礼しますね」
ローグさんが白い板を私の腕の下に置いた。彼は板に触れたまま魔力を込める。板が光って、その表面に文字が浮かび上がっていく。
「よろしいですよ。――どうぞ」
――――――
アイラ・クロテール
体力:20
魔法:90
筋力:2
防御:2
〈固有能力〉
俊敏――魔力を消費して移動速度・跳躍力を上昇する魔法。
氷塊――魔力を消費して氷塊を出現させる魔法。
テイム―モンスターを支配下に置く魔法。1匹まで。
――――――
「変化なしかあ……」
調査窓口では、ローグさんが魔力を使って冒険者の能力を数値化、言語化してくれるのだ。
私はクエストに出るたび、テイム上限が成長していないかと期待してここに来ているのだが、今回も変化はない。
パワーもなくて打たれ弱い。
魔力量がかなり高めで、たくさん魔法を使っても疲弊しにくいのは強みだ。でも、強力な攻撃魔法は使えない。
足が速かったり氷のかたまりを生み出せたりするけれど、それでモンスターを倒せるわけじゃない。
何もかも噛み合ってない……。
人に言われるとイラッとするけど、こうやって見せられるとポンコツというのも事実としか言いようがないよなあ。
ギルドが冒険者に設定するランクはFからSまで。私は二年頑張ったけど、ずっとFのまま。数値もまるで成長していない。
「ありがとうございました……」
「いえいえ。めげずに続けてみてください。いつか何かが変わるかもしれません」
「はい……」
私は鑑定料100ファロンを支払ってギルドを出た。
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