最終話 最高の人生

 

「ふざけないで!! 聖女だってただの人間よ!! それを勝手に期待して、生まれないなら役立たず扱いにして、散々利用だけして終わったら必要ないですって!? 聖女は道具じゃないのよ!! あなたになんの権利があるっていうのよ!!」


 泣き叫び訴えた。涙が止まらなかった。悔しい。苦しい。憎い。辛い。そんな黒い感情が心を占める。そしてそんな自分に嫌になる……。


「ルーサ。もういい。お前が苦しむ必要などない」


 ルギニアスが私を抱き締めた。そしてそっと頭を撫でてくれる。そのことに安心し、ルギニアスの鼓動が私を落ち着けさせてくれる。温かい。黒い感情が解けていくよう……。


「あぁぁあ!!」


 ルギニアスにぎゅうっと抱き付いた。泣いて……泣いて……。しばらく私の涙は止まらなかった。


「爵位を返してもらおう」


 ジルアス王はそんな私の姿を見て、低く冷たい声でアシェルーダ王を睨む。


「ルーサは我が国の賓客でねぇ、息子の大事な友だ。その大事な友をこんなに酷く傷付けられたら我々も黙っていられないからなぁ。しかもお前たちは頑なに結界を隠していた。なぜなのかと思っていたら、かなり弱まっていたのだな。それを我々に隠し続けるとはな……国家間の信用問題に関わるぞ?」


 ジルアス王の言葉にアシェルーダ王は真っ青な顔となった。


「わ、私は……私はこの世界のためを思って……」


「はっ、世界のためか。大きく出たな。聖女に任せっきりでお前自身はなにもしていないというのに」


 オルフィウス王が侮蔑を籠めた表情でアシェルーダ王を見る。


「我がラフィージアにとってもルーサは大事な人間だ」


 チラリとこちらを見たオルフィウス王はニヤリと笑った。


「そこの男と私は親族でな、ルーサはその伴侶となる相手だ。だから私にとっても大事な親族となる。ということはだ、ルーサはラフィージアの王族と同列になるという訳だ」

「!?」


 え!? な、なに言ってるの!? ル、ルギニアスと伴侶とか言った!? な、なんの話!?


 一気に顔が火照るのが分かり、そろりとルギニアスの顔を見上げる。バチッと目が合うと、一気にルギニアスの顔も真っ赤に染まり、お互い目が泳いだ……。


 お父様は声にならない悲鳴を上げているし、皆は苦笑しているし……うぅ、恥ずかしい……。先程までの辛い気持ちがオルフィウス王の爆弾発言で一気に吹っ飛んでしまった……。


「「さあ、これでもまだ必要ないと言うのか?」」


 ニヤッと笑った二人の国王はアシェルーダ王に圧倒的な威圧感を与えながら声を揃えた……。






 アシェルーダ王とのあのやり取りの後、私とリラーナはダラスさんの家へと戻り、ダラスさんは無事に帰って来た私たちを笑顔で迎えてくれた。そして両親を見て驚き、そして事情を聞かされると私の頭を撫で「よく頑張ったな」と言ってくれ、また泣いてしまった。フフ。


 それから……アシェルーダ王は失脚。その後、まだ若いが堅実な王子が跡を継いだ。どうやら王子は聖女に関してはまだ一切知らされていなかったらしく、代々の聖女が国によってどんな扱いを受けて来ていたかを知ったとき、お母様とローグ家に対し、正式に謝罪をしてくれた。


 ランガスタ公爵は違法薬物の密売が発覚し、取り調べられ田舎の男爵位へと降爵処分となった。生温い処分だ、とオルフィウス王やジルアス王は怒っていたが、それでもあの公爵は爵位が下位貴族へと下げられたというだけで、相当なショックを受けているとの噂だった。


 ディノとイーザンは護衛の仕事に戻り、オキは裏稼業に戻った。ディノとイーザンはよく顔を見せに来てくれ、オキは忘れた頃にたまに顔を出してくれる。ヴァドはガルヴィオで妃を迎え王位を継ぎ、オルフィウス王はいまだ国王として健在だ。




 そして、数年後……


「今日イーザンは?」

「ディノと一緒に来るって」


 リラーナとイーザンは現在恋人同士だ。いつの間に! と思っていたけど、私たちが旅をしているときから良い雰囲気にはなっていたらしい。私って鈍感だったのね……なんだか悔しい……。


「オキは?」

「オキはまあ……知らない間にひょっこり顔を出しているんじゃない?」

「アハハ、確かに」


 リラーナと二人で笑った。


 そして私は……


「ルーサ、準備はいい?」

「うん!」


「じゃあいくわよ!」

「ルーサとリラーナの魔石と魔導具の店、開店!!」




 私たちはローグ伯爵領を取り戻し、両親と共に屋敷へと戻った。


 その後数年かけて当時働いてくれていた使用人たちを探し出し、声を掛けていった。もうすでに生活の基盤が出来ている者たちばかりだったため、声を掛け戻って来てくれたのは半数くらいだった。

 それでも私たちはこうして私たちの元へと戻って来てくれた使用人と再会出来たことを喜んだ。もちろんエナもそのうちのひとり。戻れない使用人たちも、私や両親が無事であったことを心から喜んでくれていた。


 そしてリラーナと店を持つ約束を果たすため、数年かけて準備を整えたのだ。

 私とリラーナはローグ伯爵領ロダスタで魔石と魔導具の店を出した。




 ダラスさんや王都の人たちも開店のお祝いに来てくれた。アランにライとリースも、そして、メルも。オルフィウス王やジルアス王はわざわざ祝いの書簡を送ってくれた。それを持って来てくれたのはヴァドだった。国王自ら書簡を持ってお祝いに駆け付けてくれるって……良いのかしら、とか思ったけれど、ヴァドは豪快に笑っていた。フフ、ヴァドらしい。



 そしてルギニアスは…………今も私の傍にいる。


「ルギニアス!」

「あぁ、ようやくだな。おめでとう」

「うん、ありがとう」


 私たちは領地へ戻ってしばらくして結婚した。


 私たちはお互い想い合っていることは分かっていたが、特になんの進展もなかった。ただ傍にいるだけで幸せだったから。

 しかし、ずっと傍にいるルギニアスにイラッとしたお父様が責任を取れ、と……アハハ……そのときのルギニアスのなんとも言えない顔が今でも思い出すと笑ってしまう。フフ。


 後から聞いた話では「タイミングを見計らっていたのに……」とブツブツ……。それを聞いたとき拗ねたような顔のルギニアスが可愛くて、嬉しくて、最高に幸せだった。私にとっては最高の想い出。ルギニアスは不満らしいけれど。フフ。


「「おかあしゃん」」


 ルギニアスの腕には小さな宝物が抱かれている。ふたりの大事な宝物。


「フフ、ルニ、ルナ、今日はたくさんの人が来てくれていて嬉しいね。お母さんとお父さんの大切な人たちばかりよ」

「おかあしゃんもおとうしゃんもにこにこー」

「フフ、だってとっても幸せですもの」


 ぷくぷくほっぺをつんつんと指で押す。きゃっきゃっと楽しそうに笑うルニとルナ。私たちの宝物。私とルギニアスの大事な息子と娘。黒髪に赤い瞳の男の子ルニ。銀髪に菫色の瞳の女の子ルナ。双子の子。

 ルニは赤い瞳。これは魔力が強い証拠。ルギニアスと同じ。でも私たちにとったら二人とも大事な愛する我が子。


 ルギニアスに家族を作ってあげられた。私たちはもうお互い独りじゃない。大事な友人がたくさんいる。家族もいる。そして愛する我が子たち。


 アリシャ……お母さんもこの子たちを見守ってくれている気がする……。



「ルギニアス、愛してる」


 ルニとルナを抱っこしているルギニアスの首に思い切り抱き付いた。むぎゅっとなったルニとルナは「おかあしゃんくるちい」と、二人してぷくぷくのお手手で私の身体を叩いている。


「あぁ、ルーサ、俺も愛している」


 ルギニアスは片手でルニとルナを抱え直したかと思うと、もう片方の手で私を抱き締め返し、そして、そっと唇を重ねた……。






 完




*********

後書きです♪


これにて「魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~」完結です!


50万字、約9か月半の連載という作者最長記録達成の作品となりました(^^;)

長い作品にお付き合いいただきありがとうございました!

楽しんでいただけたなら嬉しいです!


今回、魔石精製に関してはかなり大変な思いをしました(苦笑)

作者自身混乱w

なんとか頑張って書き上げました!

次回作は全くの未定です。

ラストに出てきた、ルニとルナのお話でも書けたら面白いかなーと思ったりもしていますが、完全未定なのでどうなるやらです(^^;)


近況ノートにサポーター限定ではありますが、「魔石精製師のちょっとした小噺」という本編では語られなかったちょっとしたお話を載せております。


現在ストップしてしまっている作品もありますので、今後はそちらを頑張ろうと思います!

それでは改めて、お付き合いくださった皆様、ありがとうございました!

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【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~ 樹結理(きゆり) @ki-yu-ri

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