第6話 勇者タケル
「
俺は小声で呟く。勇者タケルはその声に気づいたようで、俺の方を見る。
「あれ、君……どこかで会ったかな?」
「いや……」
俺は口をつぐむ。
(この勇者タケルでさえも、俺に関する記憶はないのか……)
「まあ、あなたが噂の勇者、タケル様なのね!」
実は終業式の日……
自分があの星羅ちゃんと付き合えるとは思っていなかったけど、それでも憧れの彼女が
そして……そうやって今までずっと、俺の欲しいものを何もかも手に入れ続ける
その後は……教室に通知表を取りに行ったらこの世界に突然飛ばされたりしてそのことについて考える暇もなかったけど、今、タケルの姿を見てふと俺は考える。
(そういえば
「勇者タケルよ、こちらは新米の勇者、ユーマの一行だ。ユーマよ、後ろにいるのは勇者タケル……名高い勇者だから知っているだろうが」
国王が俺をタケルに紹介する。タケルはにっこりと笑って俺に握手を求める。
「勇者ユーマ、よろしく」
「……ああ、よろしく……」
俺は複雑な心境を隠しながら、タケルの握手に応じる。
タケルはそのまま俺の手をしばらく握った後、突然口を開く。
「ねえ君たち……僕らの仲間にならないか?」
「……はあっ!?」
俺はタケルの言葉に驚いて、大きな声をあげてしまう。
「同じ目的なのに別々に行動するのもおかしいだろ、正直、協力すればいいかなと思って」
にっこりとそう言ってのけるタケルに、元の世界ではタケルの友人だった
「えーでもそいつも勇者なんだろ? タケルとかぶっちまうぞ? そいつが
俺はそれを聞いて
「別に、勇者が二人のパーティーがあってもいいんじゃないか?」
タケルはさらっとそう言ってのける。その言葉もその時と同じだったけど……あいわらずのタケルに俺は
「……悪いけど、俺は俺のやり方があるから。おまえの仲間にはならない」
俺は
「……そっか。それは残念だ」
タケルはどこか寂しそうに笑う。その表情が少し気になりつつも、俺はタケルに背を向け、アヤノとミカミに言う。
「……そろそろ行こうぜ」
「ええ。では陛下、姫さま、失礼します」
アヤノはそう言って丁寧にお辞儀をし、俺たちは退出する。
城から出ると、眩しいくらいの青空が広がっていた。先程のセーラ姫やタケルとの再会からずっと心の中で燃えていた俺は、その晴れ渡る空に向けて、密かに誓う。
(よし。こっちの世界では、タケルより早く魔王を倒して、俺が真の勇者になって……俺の手でセーラ姫を手に入れてやるぜ!)
そうして俺は、今までの自分……そして今までの人生とは違う結末を求めて、クラスメイトたちの集まるこの不思議な異世界で、旅立つことになったのだった。
旅立ちの章 完
異世界学級5-1 ~旅立ちの章~ ほのなえ @honokanaeko
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