第5話 王城での再会

「や、山ちゃん!?」

「ヤ、ヤマ……チャン……だと?」


 魔王の討伐志願をしたことで俺たちは国王に呼ばれ、王城にやってきたのだが……金色の王冠を被り赤いマントを羽織った、いかにも国王といった雰囲気の男の人を前にして、俺はそんなことを口走ってしまう。

 なぜなら、その国王らしき人物は、俺のクラス……5年1組の担任の、山ちゃんこと山城やましろ先生にそっくりだったからだ。

 そしてその言われた相手……山ちゃんもとい国王も驚いて目を丸くしている。


「ちょ、ちょっと! 王様に向かって何て呼び方すんのよ!」

 隣にいるアヤノが慌てて俺の口を塞ぐ。

「失礼しました、国王陛下。この人緊張して混乱してるみたいで……」

「む、まあ……よい。私はゴノイチ王国の国王、ヤマシロだ」

「ご、5-1……?」

 俺は国の名前を聞いてさらに目を丸くしてしまう。なんだよこれ、この国って、5年1組そのまんまなのか?


「お前たち、魔王討伐に志願したそうだな。この資金を活用し、励むがよいぞ」

 国王の家来けらいが袋に入ったお金を持ってきて、俺に手渡す。

「あ、ありがとうございます……」

「これでまずは装備を整えよ。あと、お主は新米勇者、まだまだ経験が必要だろう。そこで、一つアドバイスをしてやろう。各冒険者には『試練』というものがどこかに存在し、それを経て冒険者の能力が大きく開花するらしい。それを見つけ、乗り越えてから魔王に挑むといいぞ」

「試練……それってどういうものなんですか?」

「うむ、私は詳しい話はわからんが」

「…………」


 俺は山ちゃん……もとい国王をしげしげと見る。山城先生のことは嫌いな訳ではなかったけど、肝心なところでどこか頼りなく感じられる部分もあった。


 そして、欠点として一部の生徒を特に可愛がるところがあったことを思い出す。その中でも最も贔屓されたのが――――

「お父様?」

 俺はその声を聞いてハッとする。

「おお、我が姫! ちょうどよいところに来てくれた!」

 国王を一瞬でデレデレな表情に変えてしまうその相手は、前の世界の学校でも先生の一番のお気に入りの生徒で……忘れもしない、前の世界で俺が、ずっと密かに憧れ続けていた子だった。

「せ……いや、姫川さん!?」


 その子……姫川星羅ひめかわせいらは、クラスのアイドル的存在で男子の憧れの的だった。そんな星羅ちゃんが、この世界では桃色のドレスを着て頭にはティアラを乗せていて……いつも以上に眩しいばかりに輝いていた。

(せ、星羅ちゃん、お、お姫様の格好なんてして……ただでさえ可愛いのに、今日はいつも以上に……っ)


「姫……かわ……? 確かに私はお姫様でかわいいけれど。私はセーラ姫よ? ところで勇者さま、あなたのお名前は?」

(……間違いない。このお姫様は、星羅ちゃんなんだ!)

 俺はそう思って興奮しつつも、慌てて名を名乗る。

「あ、あのっ、勇者のユーマ……です」

「勇者ユーマね」

 星羅ちゃん……もといセーラ姫は何やらじろじろと品定めするように俺を見ている。一方の俺は、ユーマと下の名前で呼ばれたことが初めてで、すっかり舞い上がってしまっていた。


「魔王は、この国だけでなく姫のことも狙っておるみたいでな。姫の心に平穏が訪れるよう、一刻も早く討伐してもらいたい。魔王を倒してくれた者には、セーラの結婚相手になることを認めようと思っている」

「え……っ!?」

 俺は国王の言葉を聞いて、驚いたようにセーラ姫を見る。

「そうね、魔王を倒せるくらいのお方なら、私の結婚相手にふさわしいと思って。あなたにもチャンスがあるのよ、頑張ってね?」

 セーラは眩しいばかりの笑顔でそう言うと、俺の元にゆっくりと近づき、耳元で囁く。

「これはお守り……あなたにあ・げ・る」


 俺の頬に柔らかいものが触れる。どうやらセーラ姫から頬にキスのプレゼントをされた……ということを理解した俺は、顔を真っ赤にすると同時に、心の中で絶叫する。

(こ、この世界……来てよかったーーーーっ!)



 しかしそこで、すっかり夢心地の俺を突然現実に戻す言葉が、耳に入ってくる。


「……国王陛下、勇者タケルの一行も到着したようなのですが」

「おおそうか。うむ、魔王討伐志願者どうし、お互いに顔を見ておくのも良かろう。通すがよい」


 国王の家来けらいの口から告げられたその名前に、俺はハッとして後ろを振り返る。


 そこには、剣を腰につけ、颯爽さっそうと赤いマントをひるがえし、こちらに向かって歩いてきた……勇者の格好をしているものの、誰よりも昔から見知った顔の、俺の幼馴染……上條尊かみじょうたけるの姿があった。

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