エピローグ『でも、誰かは欲しいのかもしれない!』
あの奇妙な異世界転生から数ヶ月。
結局、あの冒険は何だったんだろうと考える事がある。
あっというまの出来事で、それでもスリリングで、なんだか少し心苦しくて、だけれど絶対に忘れられない、夢のような転生の思い出。
カサが言っていた限りじゃ、あの世界は『異世界No.』なんとかと言っていたし、この世界もまた、誰かにとっての異世界なんだろうと思う。
彼自身もこの世界に介入していた。という事はもしかすると、あんな体験が出来る可能性は、誰にでも存在するという事なのだろうか。
私がそれを知っているという事は、マズい事なんじゃ? とも思ったけれど、結局の所死んでから分かる事なのだから、そんな事を言っても始まらない。
この、ありふれた日常が、やっぱり私には一番幸せだ。
だからこそ、これからの日々を一日ずつ大事に生きていきたい。
だけれどやっぱり、時々思う事があるのだ。
あんな日々が欲しいと思う人もいるんだろうなって。
私にはいらないと思う日々も、楽しむ人がいるのかもしれない。
それこそ、この世界に生まれなかった存在、魔法のある世界から、魔法のある世界に転生した存在。
そんな人達には、あれほどのチート能力こそ必要なくても、私みたいに、その人なりにその人生を生きていくのだと思えば、カサのやっている事も、悪い事じゃないように思えた。ほんの少しの付き合いだったけれど、カサがその神様という繰り返すビジネスライクな世界平和への旅が、少しでも幸せな物になることを、少しだけ願ったりした。
カサと、次の転生者に私は願うのだ。
私のようにちょっぱやな旅じゃなく、ゆっくりと地を踏みしめるような楽しい旅になりますように。
私のようにやりすぎな魔法を与えずに、一つずつ積み上げていく努力の日々がありますように。
私のようにありえないくらいの奇跡は封印して、苦楽を共に過ごせますように。
――私のように、悪とされる存在の心を、救う事が出来ますように。
魔王の事を考えた時に、もしかしたら、今頃カサは、案外彼の肩に止まっているかもしれないなと、小さく笑った。
そうして、世界を救った後に、私と同じように転生者とカサが、笑って別れられますように。
車道に出て死ぬような事がありませんように、これは私の話だ。
そんな事を思いながら、私はいつの間にか癖になっていた。酸っぱすぎるあのアイスを、やっぱり酸っぱいなぁと思いながら、ガリリとかじる。
私には出来なかったけれど、あの子が、カサの心が強く変わって、離れがたくなるくらいの、素敵な相棒が、見つかりますように。
転生なんていらない! けものさん @kern_ono
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