vs バスターエンペラー(下)

 ド、グァァァァアアアアアアアン――――…………‼‼


 デスグラビトロカノンが、レーアゲイン諸共大地に大穴を空ける。

 十秒ほど続いたブラックホールの蹂躙。

 荒々しく穿たれた巨大なクレーターの中心に、ボロボロになったレーアゲインが大の字で倒れ伏していた。


 シールドは左腕ごと吹き飛び、右足首も脛から下がもげている。顔の右半分は中身が露になり、全身、ひびだらけ。

 不屈によって、HPが1だけ残った。だけど、それだけだ。

 武装による攻撃じゃなくても、拳でぶん殴られただけでレーアゲインは負けてしまう。


 もう、勝ち目はない。


『往生際が悪いでゲスなぁ。そんなクソスキル使ったところで、何が変わるっていうんでゲスかァ?』


 勝利を確信したブタオが意地悪く嗤う。

 だけど、その通りだ。

 このままどうせ負けるくらいなら、こんなスキル、発動しなければ良かったのに……


「クソではない」


 ポツリ、とアリスレイヤさんが呟いた。


「この能力が無かったら、私達は今ので終わっていた。この能力があったから、私達はまだ、立ち上がれる」


 ぐらり、とレーアゲインが上体を起こす。

 ひびだらけのブレードを杖にして、ゆっくりと、その壊れた足でまた、大地に立つ。


「この能力は、ソウタとレーアゲインが強くなりたいと努力を重ねた証だ。たくさん戦ってきた証だ。たくさん傷付き、倒されても、掴みたい物に向かって挑み続けた武勲いさおしだ」


 アリスレイヤさんを取り巻く空気が変わっていく。さっきまでの静けさが嘘のように、一度点いた炎が、メラメラとその勢いを増していくように……


「その誇り高き勲章をけなすなど……私が許さんッッ‼‼」


 ギン! とアリスレイヤさんの金眼が、ウィンドウの向こうのブタオを睨む。

 その凄まじい覇気にブタオは『ヒィッ!』と悲鳴を上げるが、自分が圧倒的優位に立っていることを思い出し、すぐに余裕を取り戻した。


『ヘ、ヘン! だったら何でゲス? たった1しか残っていないHPで、まだまだ1/3もHPが残っているボックンのマシンに、本気で勝てると思ってるでゲスか⁉』


「……勝てるさ。私と、ソウタと、レーアゲインなら」


 そう言いながら、アリスレイヤさんが――レーアゲインが構える。


「レーアゲインが教えてくれた。この者は、今まで一度も本気で戦ったことがないそうだ。並の操縦者では、こいつの本気にはついて来れないらしい。だからこの者は、ソウタが自分を使いこなす日を今まで待ち望んでいた。こいつはまだ、何も諦めてはいない。こいつは、全力で戦える日をずっと……待っていた‼」


「アリスレイヤさん……何を言って?」


「ソウタ、見ていろ。これがレーアゲインの……この魔神の、本当の力だ‼」


「吼えろ! レーアゲイン‼」そう言って、アリスレイヤさんは武装ライオンハートを発動させた。


 更に、


「コマンドスキル、『闘志』発動‼」


 ステータスが二倍になるコマンドスキル「闘志」を上掛うわがけした。

 ライオンハートの赤い光と、「闘志」の黄金のオーラが絡み合い、レーアゲインの体を包んでいく。

 黄金に彩られた炎のような光が、ひび割れた足から、腕から、胸から……全身を駆け昇るように噴き出し、最後に左眼と頭部に付いた第三の眼が、ギン! と眩い青に輝いた。


 アリスレイヤさんがどうしてこのコンボを知っていたのかは分からない。けど、今はそんなことどうでもいい。

 これによってレーアゲインの機体性能は通常の三倍。その分扱いが物凄く難しくなるけど、僕は何一つ心配しなかった。


 だって、アリスレイヤさんなら……初めての戦いでレーアゲインをここまで使いこなせる彼女なら、レーアゲインも応えてくれるに決まってる。


「いけぇ、アリスレイヤさん! レーアゲイン‼」


「おぉぉおおおッッッ‼‼」


 気合の咆哮と共に、物凄いスピードでレーアゲインが突き進む。

 

「いいかゲスブタ野郎、教えてやる! 経済力、技術、戦略……どれも重要だが、それらは戦いを優位にするための、一要素にしか過ぎない‼」


 金色こんじきの残像を引き連れ一瞬にして距離を詰めると、上段からまっすぐに振り下ろされた一太刀が、バスターエンペラーの左腕を薙ぎ払った。

 今までとは比べ物にならない勢いで、バスターエンペラーのHPが削れていく。


『ぐじょぉーーーーッ! 往生際が悪いでゲスゥ‼』


 バスターエンペラーが右腕のガトリング砲をレーアゲインに向ける。


「危ない!」


「なんの!」


 バラダダダダダダダダ――ッッ‼


 残弾回復したガトリング砲が至近距離で火を噴くも、レーアゲインは体を捻りながら真上に跳んでそれを躱し、トン、とバスターエンペラーの肩に着地した。

 恐ろしいバランス感覚だ。


「覚えておけ。真に戦いを決するのは、技術でも、武器を手に入れるための経済力でも、緻密な戦略でもない……」


 レーアゲインがブレードを肩の付け根へと突き立てる。


 ガギィィィィンッ‼


 けたたましい音を立て、ガトリング砲を付けた右腕が大地に沈んだ。


「真に戦いを決するのは、戦う者に、勝利を齎すモノは……」


 両足の鉤爪でガッチリとバスターエンペラーの頭部を掴んだレーアゲインはそのまま宙返りし、その反動を利用してバスターエンペラーの巨体をぶん投げた。


「勝つまで戦いを諦めない、その戦士つわものの魂だッッ‼‼」


 キィィィィィン――……。


 アリスレイヤさんの咆吼に呼応するかのように、レーアゲインの剣が輝き、その刀身に金色の魔術文字が奔った。


「この太刀に、一擲いってきを成して乾坤けんこんを賭さん……」


『ゲス! ゲス! ゲス! 動くでゲスゥゥーーーー‼‼』


 足をばたつかせながら落ちてくるバスターエンペラーに向かって、レーアゲインが跳躍する。

 一度バスターエンペラーの直上まで昇り――落下の勢いを乗せたブレードを、大上段から振り下ろす。


「たぁぁあああああっっ‼‼」


 斬――‼


 黄金の雷と化したレーアゲインに胴体を斬り裂かれ、バスターエンペラーのHPが0になる。

 それと同時に、胸部の赤い玉が砕け、バスターエンペラーは大爆発した。


 レ―アゲインが地面に着地する。黄金の炎が治まり、ガクンと機体が膝をついた。


 WIN


 その三文字が、画面いっぱいまで迫り、青白く輝く。

 勝利を告げるBGMが、耳から脳を貫いた。


「勝った……勝った……!」


 僕の両頬に、いつの間にか涙が伝っている。


 勝った。

 レーアゲインが。

 一度も勝つことができなかったレーアゲインが、勝ったんだ……‼


 その言葉を噛み締める度に、次から次へと、熱い涙が流れてくる。


「く、くそぅ! 覚えてろでゲス‼」


 そう吐き捨てると、ブタオは逃げるように車に乗り込み、店を後にした。

 それを見送りもせず、一息いたアリスレイヤさんはVRデバイスを外すと、その右手を僕に差し出した。


「改めて、アリスレイヤ=フォン=アルーシェだ。スレイヤと呼んでくれ」


 僕は彼女の手を握ろうとして、自分の手が汗でびっしょりになっていることに気付いた。

 それを拭い、改めて彼女の手を握る。


「桐生蒼太です。改めてよろしくお願いします、スレイヤさん!」


 ここから、僕とスレイヤさんと、レーアゲインの物語は始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔神紲界レーアゲイン 滝山童子 @TKYM-DJ

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ