わたしがあなたにあげたいの

石衣くもん

🎁

「アクセサリーはあんまりつけないかな」


 誕生日プレゼントの希望を聞いた時、ネックレスはどうかと提案したら、彼女はそう言った。

 確かに、いつも何のアクセサリーも身に付けていないし、興味もなさそうだった。

 そんな理由から、プレゼントの本命だった


「ペアリングにしない?」


を確認する、勇気が出なかったのだった。


 誕生日プレゼントも決められないまま、二人でフリーマーケットに行って見て回っていたら、ハンドメイドのアクセサリーが売られていた。ふと、彼女が足を止めた。

 彼女はネックレスを見ていた。


「きれい」


 それは、万華鏡みたいにカラフルでキラキラした粒が、小さめの透き通った球体の中に入っているペンダントトップが一つ、細いシルバーのチェーンについているものだった。


「買う?」

「うーん……やめとく」

「そっか」


 少し迷った様子だったが、結局彼女はそのネックレスを買わずに戻した。

 一通り見て回ったが、彼女が気になったのはあのネックレスだけだった。チャンスがあればこっそり買ってあげようと目論んでいたが、機会に恵まれないまま終了しそうだ。


「そろそろ帰ろうか」

「あ、私、お手洗いだけ行っておこうかな」


 お手洗いの方面を見ると、そこそこ並んでいて、時間がかかりそうだ。

 ここへきて、千載一遇のチャンスだ。アクセサリーを売っていた店へ小走りで向かった。


「これください!」

「ありがとうございます! あ! さっきこのネックレス、彼女さん見てくれてましたよね! プレゼントですか?」

「はい!」

「ありがとうございます! お包みしますね!」


 元気よく接客してくれるお姉さんには悪いが、勢いで買いにきたものの、やはり彼女が気に入ったけど買わないと選択したものを贈るのは違うんじゃないかと思い始めていた。

 ラッピングしてもらっている間に、やっぱり買うのやめようかなという気持ちになってきた。


「あの、やっぱり」

「何か買ってるの?」


 後ろから声をかけられ、びっくりした。


「早かったね?」

「すっごい並んでたから諦めたの」


 ふーん、と気のない返事をしながら、どうすれば誤魔化せるか一生懸命考えていた。


「あっ、彼女さん! いい彼氏さんですね! どうぞ!」


 止める間もなく、売り子のお姉さんは、ラッピングされたネックレスを彼女に渡した。


「いやっ、あの、違うんだ。いや違わないんだけど、ほら、さっき熱心に見てたし。そんなに気に入ったなら、ネックレスとしてつけなくてもチェーン変えてカバンにつけてもいいんじゃないかなとか思ったり思わなかったり」


 まるで浮気が見つかったみたいなバツの悪さのまま、早口で彼女に弁解する。彼女はきょとんとしたまま「ありがとう」とネックレスを受け取った。


 次の日から、彼女はそのネックレスをつけてくれるようになった。最初は、気を遣わせていると落ち込んだが、アクセサリーはつけないと言っていた彼女が毎日それをつけているのを見て


「よっぽど気に入ってたんだな」


 買って良かったなと考えを改めた。彼女にも


「それ、そんなに気に入ってくれたなら嬉しいよ」


と言ったら、彼女は笑いながら


「もちろん気に入ってるけど、私が喜ぶと思って買ってくれたことが嬉しくて」


なんて言うので、勇気を出して次はペアリングの打診をしようと思ったのだった。

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