しっかりパンフレットは読むべき


 AM: 9:00 天気:快晴


「Ladies and gentlemen!コンテストのパンフレットはしっかりお読みしましたか?! 世界一不味い料理コンテストへようこそ!皆様本日コンテストへご参加頂きありがとうございます! 私の名は『プリティー・一本糞』です。」


 コンテスト当日、約4万人程の観客の中、司会者は壇上でマイクを持ったまま耳に響いてくるくらい大きな声で喋っていた。ちなみにテンとパイは参加者の為、観客とは別に司会者付近にある参加者席に座っていた。

 コンテスト司会者はブスだった。

 たとえB専の人でも嫌がるような醜い顔をしていた。人間は第一印象が結構大事だ、いくら性格が良くても見た目がヤバかったら印象はあまり良くない。

 

「先輩、俺バレンタインチョコ貰ってるやつまじヤ○チンって言ってたアイツの気持ちが少しわかった気がするんすよねー」

「まぁ顔は大事だからなー、他社と交流するときも第一印象はまじで大事だからなー」

「あ~確かに…、そういえば先輩はバレンタインチョコ今までで最高何個貰ったことあるっすか?」


 なんの躊躇いもなくパイは聞いてきた。

 こいつはダメだ。直球過ぎる。


「先輩顔も普通に良いし、優しいし頼りがいあるし結構もらってるっすよね! 最高10個くらいは少なくともあるんじゃないすか?」


 パイの言っている通り、テンは自分でも少しは思うが顔は別に悪くない、中の上くらいは流石にあると思っている。

 ただ、彼は生まれてこの方ほとんどチョコ貰ったことがない。いや、細かく言うと母親以外からはゼロだ。

 これが彼のコードネームだ。

 あくまで自称だがね。きっと彼は最近コ○ンにハマっているのだろう。


 まぁどうしてチョコが貰えないかというと、それはこの会社にいるやつのせいだ。バレンタインにチョコではなく仕事をくれる部長が全ての元凶。バレンタインに彼女がくれる仕事は何故か毎年サウジアラビアに飛ばされるのだ。

 サウジアラビアはバレンタイン禁止国だ。つまり何が言いたいかというとテンにはバレンタインというものが存在しないのだ。

 なら学生時代は?と聞かれたらあまり触れないでやってくれ、彼は中二病こじらせて周りから避けられていたからと言えばわかるだろう。


「ま…まぁ、俺はチョコアレルギーなんでね…チョコはお断りしてるんだよ…」

「えー、チョコアレルギーとかあるんすね! 先輩かわいそーっす!」


 無邪気な顔でパイは煽ってきた。

 恐らく悪気はないと思うが彼の将来別の先輩と仕事する時困りそうで少し心配だ。現に温厚な俺でも少しムカついた。


「まぁバレンタインにチョコ貰って盛り上がってるやつなんてお前らキリスト教かよ」

「え、なんで急にキリスト教っすか?!」

「バレンタインの発祥はキリスト教の聖職者からが発祥なんだよ」

「へぇ〜、どーでもいいっす!」

「お前思ったことすぐ口に出すな!」


 テンは目を細めて表情は満面の笑みだが内心少しムカつきながら言った。

 

「そうなんすか?!それって正直者ってことっすよね!まじ嬉しっす!」

「褒めてねーよ」


 そんな雑談をしているとまた大きな声が壇上から聞こえてきた。声の方向に俺たち含めその場の全員の視線は司会者『プリティー・一本糞』に集まる。


「さぁさぁ、今回も素晴らしい挑戦者がなんと32人もの人が参加してくれました! 一体どういう神経しているのでしょうね!」


 一本糞の表情はニッコニコでした。


 (んじゃこんなコンテスト開くな!……と言いたいところだがまぁ参加者はみんな自分の意志で来ているからなー!みんな参加したくて来てるから確かにそう言われても仕方ないか…。 ん?俺たち命令されてきたって?誰に?)


「まぁそんな事よりこれを観てください!」


 司会者はそう言うと彼の頭上のスクリーンを指す。スクリーンはとてもでかく、多分観客の前半分の人々は視力が余程悪くなければ見れるくらいだ。そして見えなくてもスクリーンは司会者がいる真反対の一番うしろにもあるので、後ろ半分の人たちにも見えるようにしている。


 スクリーンにはトーナメント表が載っており、表にはAとBグループそれぞれ16人ずつに分かれていて、テンとパイは共にAグループに属していた。それぞれのグループで優勝を決め、最後にAとBのグループで決勝戦を行うっていう話だ。


「俺はAの13でパイはAの7だや。同じA同じグループか…、順当に勝ち進んで行くとAグループ決勝で当たるな!」

「んじゃ俺最高でも決勝戦までじゃないすか先輩! 沢山の経験を積んできた先輩に勝てるわけ無いですよ!」

「ハハッ、まぁまぁ何が起きるか分からないからな…。 大体俺らが決勝戦で対決するまでに強そうなやつは沢山いるからな…」


 テンとパイがトーナメント表に夢中になっていると、一人の狂暴な目をした男がこちらにぶつかる。


「いたっ…」


ぶつかってきた男の腕にはA18と書かれてた腕章が付いており、これは参加者全員に付いているものでもちろんテンとパイにもついている。

 腕章をつけていることで彼が今回のコンテストの出場者ということはテンとパイはすぐに理解できた。


 テンとパイはその男にぶつかられて、少し後ろに足を引いた。その男は軽くこちらを見るだけですぐさま何事もなかったかのようにあるき出した。

 本来、普通ぶつかられて、一謝りの一つもせずにして去られたら誰だって「おい!何をする」などと一言は言うだろう。しかし、テンは何も言わずただ黙って立ち尽くしていた。

 テンの様子を見たパイは、黙ったままで何もしないのを疑問に思い、ぶつかってきた人に一言申そうとしたが寸前のとこでそれはやめた。

 やめた理由はテンのことを知っていくうちにこの人がそうすることに意味があるとここ数日の関わりで分かってきたからだ。そしてぶつかってきた人に吐き出そうとする言葉を呑み込んで、「フッ」と得意げな笑みを浮かべた。

 

「ん?」


 何だその顔と、パイの得意げな顔を死んだ魚の目で見つめるテン。


「え、違うんすか?!」

「何が???」

「ぶつかられて黙ったまま見過ごした理由はつまり直接対決のときに試合で相手をボコボコにする。 言うなればスポーツマンならコート上で相手に復讐しろというわけですよね!!」


 ニヤッと笑うパイにテンは少し困惑した。


「ま、まぁ…正解っちゃ正解やけど、半分だけ正解だな!」

「え、もう半分ってなんすか?」

「教えなぁ〜い!いつか分かる」

「いつかっていつなんですか?」


 パイに聞かれ、テンは少し黙り込んで考えた。そして自然と口から言葉がこぼれた。


「分からんけど…人それぞれだしな〜。 多分その人と関わる時間をどれだけ大事にしているかで変わったりするんじゃない」


それを聞いたパイは……何を言っているのか理解できない顔で首を傾げ、まるで煽っているかのようにテンの目を見た。

 それ見てテンはパイをシバきたくなった。



 AM: 11:00頃 天気:晴れ


「コンテストまで7時間…、あつすぎるだろ」


 テンとパイは一緒にどこかのマンションの斜陽が当たらないベンチに座り、額から流れる汗をウサギの耳の付いた形の手持ちの電動扇風機を顔全体に当てて使っていた。

 傍から見たらとてもシュールな絵面だった。


 コンテストのスタートは18時からで、最初の開会式が終わってからすぐ、彼らは休憩所を探したがどこにもなくこのマンションの物陰にいる状況だ。

 

「おい休憩室とかないの聞いてないてぇ!」

「そうすよね、どうします先輩? このままあと7時間ここにいます?」

「あ…ちょっとまって…」


 テンはそう言うと携帯を取り出し、カタカタと何かを調べだした。そして目的のページを見つけてすぐにパイに見せる。


「これっ」


 パイに見せたのは地図マップに乗っている謎のお店だった。そこに書かれていたのは『不思議専門店』という謎のお店だった。


「このお店がなんですか?」


疑問に思いながら聞いてきたパイ、それに対してテンは自分のカバンからパワハラ上司からもらったパンフレットの一箇所を指で指してパイにみせる。

 その場所はパンフレットの端のほうにとても小さい字で『不思議専門店で購入されたものはコンテスト中使用することができる』とかかれていて、じっくり見なければ見つけられないような字だった。


 そんな場所に小さく書かれていることに驚きと同時にパイはどうしてテンはそれを見つけれたのかと疑問に思った。

 テンはそんなパイの表情に気づき、彼に言った。


「お前、司会者最初なんて言ったか覚えてる?」

「それは自己紹介で一本糞って名前です〜!って言ってたんじゃないすか?」

「それは多分一本糞という言葉のインパクトで本当に伝えたい事を隠しているだけだと思うぞ…」

「ん?どうゆうことすか?」

「最初あの一本糞…、『しっかりパンフレット読みましたか?』って俺らに言ったの覚えてる?」


 テンのその一言にパイはハッとなり、そういうことねと頭を上下に振動させる感じで、司会者のずる賢さに感心した。





 



 



















 


















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世界で一番不味い料理 FP(フライング・ピーナッツ) @N9768HP

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