地獄の出張(準備編)
同日AM10:00
ショッピングモールが開くのは午前10時や11時からが多い。というかそれ以外を見たことがない。
彼らが今回来たショッピングモールは10時オープンだ。
会社からこのショッピングモールまでは車で20分ほどでつく。二人が会社を出たのが9時くらいだ。だから9時半にはもうショッピングモールに着いていた。
そう、彼らは10時まで待った。
トイレでウ◯コしながら。
その間、彼らは爆竹が弾けるような音をオナラでたてながら先程部長から貰った英文で書かれたコンテスト用紙の詳細な内容を読破した。
●日本語訳したコンテスト全内容は次の通り
【表】
①開催日:8月14日
②開催場所:ユートピア
③優勝、準優勝と参加賞はそれぞれ一億円、世界一周チケット10人分、そしてもやし一袋。
④競技内容:こちらが提供する世界一不味い料理の部門別ランキングトップをそれぞれコース料理として提供します。そうして参加者にはそれらを全部食べて頂き、一度でも吐いてしまったらその場で脱落です。コース料理を最後まで食べ終えるか、最後の一人になったら優勝です。
⑤制限時間:1日
⑥必須な持ち物:特になし
⑦参加費:なし
➇募集人数:上限無し。当日誰でも参加が可能。
【裏】
⑨禁止事項
その❶:コンテスト時に食器以外の持ち物の持ち込みは出来ない。例えば水泳の時に使う鼻栓など、用いることができない。
その❷:一度参加したら、吐くか食べ終わるまではギブアップ出来ない。
その❸:食べ物を粗末にすること
その❹:カップルでの参加
⑩最後に主催者の私からのメッセージ。
「バレンタインに女子からチョコもらってるやつ大体ヤ◯チン。 畜生めぇ」
◆
トイレを終え、すぐに様々な店舗のシャッターが開く音がした、開店時間だ。どうやら30分程ウ◯コをしていたらしい。さっきのは下痢だったに違いない。それにしてもアイツはまだ糞してんのか。
そう考えながらテンはモールの出入り口付近に設置されているマップへと足を運び、お目当ての店を探す。
ここのショッピングモールは都市部に近い所にありとてもでかい。逆にうちの会社は田んぼに近いところにあってさらに大きさは学校の教室2個分くらいで会社としては普通に小さい。
会社付近にはコンビニが2軒くらいある程度で特になにか物珍しい建物はない。そして会社から一番近いショッピングモールが今いるここだ。大きな買い物をするときはよくここを使っている。
今回はいつもと違う店に行くためわざわざマップ表を確認しているのだ。
「あった、左棟の4階のエスカレーターあがったとこか。」
マップの確認を終え、一呼吸をすると、後ろから声が聞こえてきた。あいつの声だ。
「すんません先輩! ちょっとうんこが硬質化してて全然出せなかったっす!」
「進撃かよ…」
「え、先輩進撃知ってんすか?! 面白いっすよね!先輩ジジイやのに!知ってんすねー!」
「おま一言多いて〜。 まぁジジィジジィって言われ慣れてるからそれはいいとして、お前が糞してる間マップ見て場所わかったから行くぞ!」
「あっ、はい!了解っす!」
二人は左棟に行き、エスカレーターを昇り、さらに昇り、またさらに……。そうしてすぐに目的地の4階に着いた。その間、テンはパイと適当な世間話をしていた。
「あぁここやここ!」
4階に着いた瞬間、テンは視線を前に向けて言う。 パイはその視線の先を見ると眼の前にはお店をがあり、さらにその奥を見ると中を見ると靴やカバン、財布などに加えて他にたくさんの雑貨が置かれていた。
店は開いたばかりで、さらに小店舗ということもあり店員以外、誰一人がいない様子だった。そのこともあり店内の様子は分かりやすく外からでも中の細かい所まで見ることができた。
「もう見えるだろ?何を買いに来たか…」
テンはそう少し穏やかな表情でパイに質問を投げかける。そしてそう言われたパイはもう一度店内を見るとある物が目に止まり、ハッとした。
「も、もしかしてなんすけど、 キャリーバッグ…ですか?」
「そうだ! 今日はお前のやつを買いにきた。 お前の欲しいやつ買ってやる!」
「か、買ってくれるのは嬉しいっすけど え?先輩、俺先輩にキャリーバッグ持ってないって言ったことないっすよね? どうして知っている感じなんすか?!」
疑問に目をパチパチとさせながら、首を傾げるパイ、口はほんと少しだけ開いてまさに『?』という記号の擬人化だった。
それに対しテンは全く変わらない表情で言葉を返す。
「あー、それね。 前に会社でお前が『いつか出張するためにキャリーバッグ買わないと行けないけどどれがいいかわかんないんよなー』って同期に相談してるのをたまたま聞こえたんだよ、 お前の初出張を最高の思い出にしてやるつったろ? この準備段階も出張に含まれるだよ。」
帰るまでが遠足ってよく言う。
ネットで調べるとその意味は楽しい遠足の後で、緊張状態が解けて、注意力が散って帰り道で事故に遭うということで、つまり注意力を散らす、油断するなということだ。
その意味が本当なら準備段階でもそれは遠足に含まれるのではないか、油断しないようにしっかり事前に準備する。
そうテンは考えていた。だからこれはテンの後輩にかっこいいところ見せたいからとかではない、ただそれが当たり前だからと考えての言動だ。
テンはそう言い、そして何食わぬ顔で店内に入った。パイは少し呆けて、そして「かっけぇっす」と言ってテンに続き店内に入るのであった。
◆
「ご来店ありがとうございました。」
店の店員は朝から明瞭な声を発していた。二人は店員に軽く会釈し、店を出た。
「先輩まじいんすか?わざわざこんな高い物を買ってもらって…」
「いんだよ、その代わり大事にしねーとぶっ飛ばすからな!」
「はい! まじで感謝っす!ほんとあざます!」
テンが買ってあげたキャリーバッグは黒色のフレームタイプだ。パイは元々白がいいと思っていたが、白色だと汚れたときとか汚れが目立つ、そのため最も汚れが目立たない黒にした。
彼は買ってもらったキャリーバッグを見守るりながら、ニヤニヤと子供が欲しいプレゼントを貰ったときのように幸せに笑う。それを横目に見たテンは「若いっていいな」と呟いたのであった。
買い物を終え、そろそろ帰って家で支度しようと考えながら二人はショッピングモールをの出口に向かう。
「なんかいい匂いするな」
「確かにそうっすね!」
出口付近に近付いたとき、近くから香ばしい濃厚なソースの匂い漂ってきた。
焼きそばの匂いだ。
買い物を終えていつの間にかもうお昼頃だ。
「まぁ、まだ飛行機まで時間あるし飯でも食ってくか!」
「いいすねー! 旅行前に気合入れるためにも先輩大盛りおなしゃす!」
「あ、俺が奢る前提ね、はいはい、食え食え!」
そうテンはパイに微笑みかけた。
――――――――――――――――――――
序章は終わり、次回ついに本編スタート
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