あのまばたきの意味
西しまこ
第1話
わたしは今日も祖母のお見舞いに来ていた。
祖母は急な病で倒れて、ずっと寝たきりの状態だった。
祖母のことが大好きだった。
忙しい母に代わって、わたしを育ててくれたのは祖母だった。
幼稚園の送り迎えも祖母がしてくれたし、授業参観に来てくれたのも祖母だ。
あるとき、家庭科の宿題のエプロンを作ってくれたことがある。エプロンが作れなくて困っていたら、手先の器用な祖母が作ってくれたのだ。母は「自分でやりなさい」「自分でやらないとためにならない」と言ったけれど。祖母は「ないしょだよ」って代わりに縫ってくれたのだ。
おばあちゃん。
わたし、あのエプロン、まだとってあるよ。使うにはもう小さいけれど、大切なあたたかい想い出だから。
おばあちゃん。
いつもわたしの話を聞いてくれたね。
初めて好きなひとが出来たときも、初めて彼氏が出来たときも――別れたときも、話を聞いてくれたのはおばあちゃんだった。
おばあちゃん。
わたしね、まだ話したいことがいっぱいあるんだよ。
ねえ、おばあちゃん。
わたし、結婚した方がいいか悩んでいるの。
優しい人なんだけど、好きなんだけど、前に一歩進めなくて。
おばあちゃんも寝たきりだし。どうしよう?
おばあちゃん、話したいよ。
「おばあちゃん……」
そうつぶやいて、ふと祖母を見たら、祖母が目を開いていた。
「おばあちゃん! いま、看護師さん呼ぶから!」
すると、祖母はまばたきをした。
二度。ぱちぱちと。
あ。
思い出した。
おばあちゃん、授業参観のとき、振り向くといつも目で合図を送ってくれた。二回、まばたきして。それは「頑張って!」という意味。
おばあちゃん、わたしの気持ちが分かったの?
わたしは祖母の手を握り締めながら、ナースコールを押した。
了
一話完結です。
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あのまばたきの意味 西しまこ @nishi-shima
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