第52話 最終話 



 冬は空気が乾いて、富士山は一層くっきりと美しい姿を現わしている。


 そんな冬の澄み切った空に美しい富士山も星空も、観ることができる「六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー」からの眺めの壮大で美しい事。



 2016年8月下旬の事故以来自宅療養が続いていたが、達也は無事に11月下旬に仕事復帰を果たした。


 階段から足を滑らせ擦過傷 、挫傷、右足骨折の大怪我を負った。あの時は院長の事故とあって、群衆が一斉に集まり一時は大パニックになった。


 それを「命の危機です!」など軽はずみにも程が有る。確かに頭部も軽く打ったが、人聞きの悪い言葉を発する木村。


 幾ら死んで欲しいからと言って、大袈裟に騒ぎ立てて、事故を装って故意に殺すつもりだったのかも知れないが?専門知識のある看護師も多く集まって来ている。群衆の目が有る。


 それでもこの事故を皮切りに、恐ろしい殺害計画を練っている人物がいる。

 それはズバリ陽介!


 それは弥生の何気ない一言から端を発する事になる。



 どいう事かと言うと?


 まず躁状態にみられる異常な金遣いの荒さ、気持ちがハイになるとギャンブルにのめり込み多額の借用書が弥生宅に届けられていたのだが、更には命より大切な樹里亜の首を絞めて殺そうとした事によって完全に弥生は切れた。


「一刻も早く何とかしないと、陽介さんだって負債を背負わさせられ大変な事になるのよ。このままだったら義父母から受け継いだ豪邸だって、いつ手放さなくてはならないか?」


 更には木村や貴理子からの度重なる達也に対する苦情。また、それだけでは済まない。陽介を殺人に向かわせた決定打となる事件が起こった。


 それは遥斗も現在後期研習の24歳。


 山城病院にチョクチョク顔を出していたのだが、癇癪持ちの双極性障害の為に虫の居所が悪かったのか?遥斗の態度が生意気だと言って酷い暴言と暴力を振るった。


 打ちどころが悪かったのか、それとも手加減せずに暴力を振るったのだろうか、顔には今でも生々しい赤アザがクッキリ残っている。


 陽介にすれば、たった一人の可愛い自分の命より大切な息子に、暴力を振るうなど到底許せない。


 遥斗のアザを見て”カ————ッ!”と頭に血がのぼって、今までに積もり積もった不満が一気に爆発して、等々堪忍袋の緒が切れて殺害してしまった。


 そして……12月に起きた火事も実は陽介の仕業だったのだ。


 隠ぺい工作。


 いつまでもクロ―ン人間樹里亜を、あのまま放っておく訳にも行かない。


 それにあの乞食や行方不明者達も只の負の遺産でしかない。


 生かしておいても維持費だけでも莫大だし、いつ秘密がバレるやもしれない。


 休憩場所の灰皿の従業員の吸殻に夜中にこっそり火を付けた。


 備蓄してあった灯油も有ったので余計に火の勢いが強くなった。




 じゃ~!11月に仕事復帰した達也は一体誰なのか?

 突発的な会議が有ったため已む負えずに顔を出す事になった達也。



 陽介は急な会議が勃発して頭を抱えている。この病院では患者さんからの誤診に対する訴えや、苦情の対処方法の為に、突発的に会議が開かれる事もある。既に達也を殺害してしまった陽介はとんでもない方法を思い付いた。


 それはあの別荘で見た行方不明者の中に体格といい、目元といい、達也にそっくりな稲垣と言う男が居た事を思い出した。


 実はこの男を見た時から既に、殺害時期を考えていた。


 そして達也の身代りにアルバイト代として、ほんの小一時間程で破格の10万円を握らせた。




 マスクをして現れた偽者の達也に雰囲気は多少疑われたが、あまりにもそっくりなのでそれ以上疑う人物は、誰一人としていなかった。


 まぁ?マスクをしていれば、ハッキリ言ってバレない。あの時はチラッと現れて具合が悪いからと言って、直ぐに帰っていた。




 じゃ~!樹里亜のお友達美紀が、達也殺害を知っているのはどうしてなのか?


 弥生のお友達百合子は達也の母咲子と家が近い事も有り、よく相談をしたり相談されたりしていた。


「達也が容態が悪いから郊外の別宅で療養したいと言っているのよ~!誰か良い家政婦さん紹介してくれない?」と百合子に頼んでいた。


 百合子が達也の別宅秘密基地に家政婦を送り込んでから暫くして、家政婦からの言葉に啞然とする百合子。


「百合子さんとんでもない事が起こっています。達也さんが陽介さんに殺害されるかもしれません。こっそり隠れて何やら話しているのを聞いてしまったのです。放っとけません。こんな事絶対誰にも話せませんが?紹介してくれた百合子さんにだけは話しておかないと大変な事に……」


「ありがとうネ!守秘義務が有るから口外しちゃダメなのに、よく私に話してくれたわね」


 本来ならば口外しないのが筋だが、今尚陽介の事が忘れられない百合子。


(陽介は離婚しているが、あの弥生は今尚美人で魅力的な自分を誇示し続けて、男を魅了して止まない女。やっと樹里亜殺害でスッキリしたと思っていたのに、あっさり息を吹き返してしまった樹里亜。私は樹里亜の事件以来、あまりにも酷い事をし過ぎた自責の念で陽介とも距離を置くようになっていた。だがそれでも……あんな悪い事をして置きながら……今尚忘れられない。それで叔母咲子から陽介の事を聞き出していたのだ)


そして……家政婦の衝撃的な内容に、くすぶっていた炎にまた火が付いた。


(もし……達也が殺害されていたら陽介と弥生は直ぐにでも結婚してしまう。そんな事をしたら完全に私の夢は絶たれてしまう。達也がいたから陽介をいつかは私の者に出来ると思う事が出来たのに、達也が死んだらその夢が完全に絶たれてしまう)


 どうしても陽介と弥生が一緒になる事を、阻止したかった百合子は樹里亜と仲良しの、よく知っている顔見知りの美紀に話した。


 そんな事を話したら陽介が警察に突き出される事も十分考えられるし、また犯罪者の親戚になるのでは?



 今の百合子にはそんな感情は無い。あの2人をどんな事をしても引き裂きたい!只それだけ。今尚陽介が忘れられないのだ。



 それでも……どういう事か……噂も広がらずに無事難を逃れた山城家の家族たち。


 一体どうして???




 2021年ゴールデンウイ-クの五月晴れの下。


 陽介と弥生は夫婦となり幸せな結婚生活を送っている。


 あんな事件が本当にあったのかと思う程、穏やかな春の陽ざしの中で笑顔がこぼれている。


 不幸の連鎖の中で掴み取った幸せだが、その代償はあまりにも大きく陽介と弥生は懺悔の日々を送っている。




 そしてひっそりと佇む、あの別宅の跡地内に憩いの公園を作った。


 その公園の脇には兄達也と樹里亜【少女A】の小さな銅像が仲睦まじくほほ笑んでいる。



 人々が集う満開の花々に囲まれた美しい公園。

 賑やかな事が好きだった達也の為に陽介が建造した。


 春にはチュウリップが、夏にはヒマワリが、秋にはコスモスが、冬にはキンセンカが満開の花を付けている。


 何人もの従業員やクロ―ン樹里亜達を殺してしまった事への懺悔と、寂しがり屋だった達也の為に年中満開の花を咲かせて弔っている。



 公園の名前は【TandY公園】達也と陽介の公園。


 幼き日のあんなに仲良しだった頃の兄を忍び、陽介が命名したのだ。



 樹と樹里亜は父達也の動向を時間が空くと探っていたのだが、結局何も分からず父はあの別宅で全ての物的証拠諸共、闇に葬られてこの事件は幕を閉じた。



 本当は3ヶ月前に既に陽介の手で闇に葬られていたのだが、事件性が無いとみなされ解決した。




 それにしても何より可哀想なのは、樹里亜のクロ―ン達。


 まともに陽の光を浴びる事も出来ずに達也にオモチャにされた挙句、短命な生涯を閉じて、やむを得ず焼却炉で焼却された者や、あの火事で焼け死んだクロ―ン樹里亜達。若い身空で散って行ったクロ―ン樹里亜達は死にゆく時何を思ったのか?


 あまりにも悲惨な生涯のため可哀想で言葉が出ない。



 聞き取り調査も丹念に行なわれたのだが、一切の不審な証言を得る事が出来なかった。


 百合子はあれだけ陽介と弥生の中を引き裂きたかったのに、何故全てを話さなかったのか?それは実は息子淳太郎の3大メガバンク就職が既に内定していたからなのだ。その為口が裂けてもそんな話は口外できない。


【犯罪者が親類にいる場合は、内定取り消しの恐れも十分にある】


 そして美紀にも「ごめんなさいね。達也さん火事で死んだのに変な事言っちゃって間違いだったわね……」とやんわり釘を刺していたのだった。その為一切の証拠は消え去った。


 大人達の愛憎劇の渦に巻き込まれた樹里亜だが、この事件では失うものも大きかったが、そのお陰で掛け替えのない樹という最高の伴侶を見つける事が出来た。


 今樹と樹里亜は幸せの真っただ中にいる。

 そして…樹と樹里亜はもう直ぐ結婚します💖🧡💘


 若い二人に幸あれ*。⋆✰⋈◡*⋆💛。✧。✧♡



 おわり

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