最終話 ただいマッチョ【完結】

 ユーサンが震える中、魔法陣から現れたのは一人の――マッチョだった。


「マチョダ!?」


 少し離れたところから見ているユーサンは自分の目を疑った。何回か目をゴシゴシとこすってみるが、あれはマチョダに間違いない。3年ぶりに見る彼の姿は当時と全く変わっておらず……いや、顔は若干老けたのかも知れないが、それよりも筋肉が以前よりも発達しているような感じに見えた。


「しかし……ゴブリンはなぜマチョダを召喚したんだ……?」

 ユーサンは、ゴブリンたちとマチョダの会話に耳を傾けた。


「あ……あれ? ここは……?」

「ヤット マチョダ 召喚 ウマクイッタ!」


 ゴブリンたちが飛び跳ねて喜ぶ。魔法陣の中心にいたゴブリンキングも普段は見せないような笑顔で喜んでいた。

 マチョダは初め困惑した表情で周囲を見回して、それから目の前にいるゴブリンたちをじっくりと見つめた。そうして、ようやく自分がまた異世界に召喚されてしまったことを理解したのだった。


「おいおい……俺を召喚したのはお前たちか……元気にしてたか?」

「ゴブリンタチ 元気! 三年前 マチョダ 急ニ イナクナッタ。 ゴブリンタチ 悲シイ」


 小さいゴブリンがそう言うと、みんな一斉にウウウ……と悲しむふりをするミニオンズみたいな感じをご想像いただければ。一斉に同じ行動をするのがちょっとかわいいかもしれないぞ、とユーサンは思った。


「ソコノ 物陰ニ 隠レテイル 人間モ 悲シンデイタ」

 ――何!? 勘付かれていただと?


 ユーサンが反応したときはもう遅かった。マチョダに見入っていたからだろうか、いつの間にかたくさんのゴブリンに囲まれてしまっていたのだ。ユーサンは観念して、ゴブリンたちに導かれるがまま、マチョダとゴブリンキングの元へと歩みを進めた。


「ユーサン? ユーサンじゃないか! どうしてこんなところに?」


 マチョダがユーサンの姿を見て喜んだ。「お、おう」と少しバツが悪そうにしながらも、ユーサンはマチョダと握手を交わす。


「ゴブリンたちが怪しい儀式をしているとの情報を受けてな、調査に来たところだったんだ」

「ゴブリン 怪シイ儀式 シテナイ! マチョダ 呼ビダカッタ ダケ!」

「ああ、わかってる。だが……マチョダとゴブリンは一体どういう関係なんだ? どこに接点があったんだ?」

「えっと……」


 モカが冒険者ギルドに入るときだったから、5年前……かな? マチョダが記憶を探っていると、ゴブリンキングが代わりに答えた。


「ゴブリン マチョダ 好キ! 戦ッテ 負ケタケド マチョダ 命奪ワナカッタ!」

「そうそう、そうだったな。プーランクの森で! 思い出したよ!」

 マチョダはガハハハ! と笑いながら、ゴブリンキングの肩をたたく。


 ――つまり、ゴブリンたちは以前マチョダと戦って破れたが、命を取られなかった。それでマチョダを慕うようになったというわけか。そして数年経ち、マチョダに会いたくなって召喚魔法を使ったと。


「でも折角召喚してくれてなんだが……明日ボディビルの大会なんだよ……元の世界に帰らないといけないんだけど……」

「帰ル? ダメ! マチョダ ゴブリンタチト イッショニ イル!」


 帰る発言をしたマチョダをゴブリンたちが囲む。マチョダの背の半分にも満たないゴブリンたちが「ダメ!」と言いながらぴょんぴょん飛び跳ねる。マチョダは困った顔をしてユーサンに助けを求める。


「ったく、しょうがないな」


 ユーサンは右手でマチョダの左手首をぐっと握りしめた。そしてしっしっ! とゴブリンたちを反対側の手で払うと、すかさず転移魔法を唱えた。

 ユーサンとマチョダの姿が一瞬光り輝き、そして消えた。


「……マチョダ 消エタ。ドコ行ッタ マチョダ? マタ 帰ッタ?」


 ゴブリンたちは何がなんだかわからず、しばらく騒いでいた。



 ☆★☆



「ここは……?」

「ヴァルクの村だ。マチョダが元の世界に戻るには、逆召喚魔法をかけてもらわなければいけないんだろう? そんなわけわからん魔法、モカにしか使うことはできん。だからここへ連れてきたんだ」


 ユーサンとマチョダはヴァルクの村の入り口に設置してあるポータルまで移動してきた。マチョダがこの世界にいた三年前は、ヴァルク野村はただの廃墟だった。それが、今や多くの冒険者が訪れる村へと復興しているのを見て、どこか感慨深いものがあった。


「しまったなぁ、なんかゴブリンにも悪いことをしてしまったが……ユーサン、ありがとうな」

「フン、これくらい大したことじゃない。ゴブリンたちにはマチョダの銅像でも作って渡しておけばいいだろう。それで満足するはずだ」

「銅像?」

 ゴブリンたちが自分の銅像に崇拝する姿を想像して、思わずマチョダは笑ってしまった。まさかあそこまで慕われていたなんて思ってもみなかったのだ。


「しかし、野村も変わったな。三年前とはえらい違いだ」

「古代の迷宮が発見され、冒険者ギルドも新しく設置されてから、急速に発展したんだ。そしてモカが初代のギルドマスターに選ばれた」


「モカ……三年ぶりになるな……元気にしているかな?」

「実際に会って確かめてみればいい……俺もゴブリンの件を報告しないといけないからな、一緒に行ってやろう」


 マチョダとユーサンは二人並んで、ヴァルク野村へと足を踏み入れた。


 ☆★☆


 同じ頃、こちらは冒険者ギルド。

 ひと仕事終えたギルドマスター、モカ・フローティンはスリムゥたち仲良し三人組とティータイム中だった。話題はもちろん、雪山の調査に出かけて行ったユーサンのことである。


「ユーサン、無事に帰ってくるよね? やっぱり私が行けばよかったかなぁ?」

 モカの心配をよそに、スリムゥが「大丈夫、大丈夫」と軽く返事をする。

「あんなバカでも実力は折り紙付きだからね。魔王レベルが相手じゃないとそうそう負けることはないよ」とレンダも言う。

「ゴブリンたちがマチョダさんを呼び出してたりしてねぇ。それでユーサンがマチョダさんを連れて帰ってくるの」

「ははは! それ面白い!」スリムゥとレンダがテーブルをバンバンと叩きながら笑った。


 ――マチョダさん……元気にしているかな。私、今では立派にギルドマスターをやってますよって伝えたいな……。


 爆笑している三人をよそに、モカは一人、マチョダのことを思い出してしんみりしてしまった。もう一度会いたいなと思っても、マチョダは別の世界の人間。決して会えるはずもないとわかっているのだが。それでも――。



 ギイイィ。



 冒険者ギルドの扉が開いた。

 ユーサンの姿を確認したスリムゥが声を上げる。

「あっ、ユーサンが帰ってきた! 早かったな……って、え……え? マジ?」

「モカ、やばいって!」

「……えぇ……嘘ぉ?」


 モカも入り口の方を見る。次の瞬間、目に大粒の涙を溜めて、モカは入り口まで走り出していた。



 <完>

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ハズレ召喚とは呼ばせない! 〜天才魔法使いに召喚されたマッチョおじさん、気が付けば異世界で無双してました〜 まめいえ @mameie_clock

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