第77話 怪しい儀式

 雪がちらつく中、ユーサンは一人雪山を歩いていた。


 この辺りでゴブリンたちが怪しげな儀式を行なっているという。儀式と聞くと、三年前の魔法学園オリンピアでの卒業認定試験を思い出す。


 シック・スパックが魔王を呼び出し、そこにいた魔法使い全員で戦ったこと。そして最後はマチョダとモカが一撃で魔王を倒してしまったのだ。ユーサンが印象に残っていたのはやはりモカの魔法だった。魔王の繰り出す四属性(火・水・土・風)の魔法に対して、彼女もまた四属性の魔法で対抗したのだ。しかも魔王よりも魔法の威力は明らかに上。いつの間にそんなことができるようになったのか――自分の大好きな女の子が遥か遠くの存在になったようで、少し悔しさもあった。国家魔術師になったのも、研究を重ねて彼女に近づきたい、彼女を超えたいという思いがあったからだ。


 そしてマチョダ――。

 魔王を倒した後、ユーサンをはじめとする魔法使いは全員、救護室に運ばれて魔力の回復に努めていた。その間に、モカが逆召喚魔法――そんなものは初めて聞いたとクランチ校長たちも言っていた――を使い、マチョダを元の世界へ戻したのだという。


 モカ以外の全員が、マチョダとの別れができずに悲しんでいた。モカは「マチョダさん……『みんなに会うと帰りたくないって思っちゃうから』って」と涙ながらに語ってくれた。

 それ以来、当然だがマチョダには会っていない。「ユーサン、帰ってきたら一緒に(告白の)練習しようか!」王都の宿屋でそう話したのを昨日のことのように覚えているのに。

 ユーサンは遠くの空を見上げた。


 雪がちらつく中、雲の切れ間から日の光が差していた。



 ☆★☆



 ゴブリンたちは雪山の開けた場所に集まり、情報通り、怪しげな儀式を行なっていた。動物の骨で作った装飾が並べられたり、雪の上に赤い塗料で幾何学模様が描かれたり、とにかく「何かを行おう」としているのがわかった。


 しかも、それを他のゴブリンよりも数倍も大きいおさが指揮しているのだ。そう、ゴブリンキングである。


「これは……骨が折れる仕事だな」


 ゴブリンキング……ユーサンも実のところ遭遇するのは初めてだった。普通の魔法使いなら遭った時点で死を覚悟するとも言われているが……見たところ魔力はそこまで高くなく、負ける気配は感じなかった。魔王(の吐き出した小さい悪魔)と一戦交えた経験のあるユーサンだから当然と言えば当然だ。


 ユーサンは少し離れたところに身を潜め、ゴブリンたちの動きを観察していた。そのとき、彼はおかしなことに気がついた。――あれ、このゴブリンたち、全員……。


 ゴブリンと言えば、額からツノが生えているのが特徴的なのだ。なのに、それがない。もしかして「何か」のためにツノを捧げたとでもいうのだろうか?


 ゴブリンたちは手を繋ぎ、ゴブリンキングを中心に大きな輪を作った。そして一斉に呪文を唱えた。


「ナンチャラ〜カンチャラ〜ホンダラ〜マッチョダ〜」


「しまった!」

 ――あいつら、魔法を使いやがった!


 ユーサンが物陰から飛び出そうとしたときは遅かった。彼らの頭上に大きな魔法陣が現れた。そしてそこから恐ろしい力を持った何かが呼び出されようとしていたのだった。


「くそっ! ゴブリンが召喚魔法を使うだなんて……初耳だ!」


 ユーサンは冒険者ギルドに戻って援軍を呼ぶか、一人でここで食い止めるべきか悩んだ。ゴブリンキング程度の力なら、一人でもなんとかなりそうだ。しかし三年前の魔王クラスのものが召喚されてしまったら。くそっ、どうする、どうする――!


 ゴゴゴゴゴ……。


 ユーサンが判断に迷っている間にも、魔法陣から何かが出てこようとしている。その圧に押されて、ユーサンは身動きが取れなくなってしまった。


<ちょっとマッチョ!>

 次回、完結です。長らくのご愛読、本当にありがとうございました。

 22日(日曜日)朝5時、更新予定でございます。

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