「沼らせ女」・KAC2023参加作 あとがき集

清瀬 六朗

第1話 「沼らせ女」・KAC2023参加作 あとがき集

 2023年2月から3月にかけて開かれたカクヨム文芸部公式自主企画「沼らせ男・沼らせ女」への参加作と、3月に開催されたKAC2023への参加作それぞれへの「あとがき」です。

 今回は、自主企画に3作を投稿し(いずれも「沼らせ女」の物語でした)、KAC2023は7回すべてに参加しました。それで、小説を書くのに忙しく、それぞれにあとがきを書いている余裕もありませんでした。

 その参加作品をまとめてコレクションにしました。そこで、ここにそれぞれの作品の「あとがき」に当たる文章をまとめてみました。


 なお、コレクションには「作者のおすすめ順」という順番が設定されていますが、作者の「おすすめ」度はどれも同じなので、どの作からでもお読みくだされば、と思います。

 続篇関係にあるものがあるので、それを隣り合わせに配置しているとこのような順序になったというだけのことです。

 続篇関係にある作も、「正篇」を読んでいないと「続篇」がわからない、という書きかたはしていない……はずです。


 よろしくお願いします。



 ■ぼくの大家さん

https://kakuyomu.jp/works/16817330653196882127


 「沼らせ男/沼らせ女」の自主企画に最初に参加した作品です。

 「沼らせ男/沼らせ女」の企画趣旨に正面から答える小説は私には書けそうもなかったので、いずれも「はずした」ものを書いています。

 その第一作は「庭を泥沼にしてしまうという意味での沼らせ女」のお話です。

 ドジっ子と、そのドジっ子のドジに腹を立てもせずにつきあう男というのを描いてみました。

 あとは、初夏になっても、ざっくり編みの、それもパステルカラーのセーターを着ているとか、お化粧の配色がなんとなく標準的でないとか、そういう女のひとを書いてみたかった、ということもありました。

 なお自主企画は上限5000字が目安だったので、『ぼくの大家さん』を書くときに作って使わなかった設定もありました。その一部は続篇『このままでいいわけ』に使っています。



 ■このままでいいわけ

https://kakuyomu.jp/works/16817330654533171618


 KAC2023の7回目のお題が「いいわけ」でした。

 「言い訳」の話を書こうとして、「待てよ?」と。

 お題は「言い訳」ではなくて、ひらがなで「いいわけ」。

 ということは、「言い訳」の話でなくていい?

 というか、むしろそれを期待されている?

 ……ということで、ともかくもひらがなで書けば「いいわけ」になるお話を連ねてみました。

 『ぼくの大家さん』の続きです。『ぼくの大家さん』では「ゆきさん」と呼んでいた女性をここでは「倖」と呼んでいるので、関係が進展したんだろうなぁ、と。

 「ぼく」(信喜のぶきくん)だけの思いこみの可能性もありますが。

 倖さんが仕事では有能とか、給料払ってもらえなかったのと引き換えに自分の家の工事を引き受けさせようとするとか、そういうキャラクターだということは最初の設定にはなかったものでした。

 書いているうちに、そういうキャラなんだろうな、ということが浮かび上がってきた、という感じです。

 倖さん、たしかにドジっ子なんですが、意外と抜け目ないと思います。

 だいじょうぶか? 信喜君!



 ■おばかさん

https://kakuyomu.jp/works/16817330653957081067


 「沼らせ女」の第二作です。

 もともと私はガールズラブ・百合系のお話を書いてきたひとなので、「沼らせ」のうち一作はガールズラブで行こうと決めていました。それを実行したのがこの作です。

 瑞城ずいじょう女子高校シリーズ(コレクション「瑞城女子中学校・高校シリーズ」)のために作った設定を使っています。

 主人公の古原こはら瑠音るねとその親友の岩瀬いわせ成美なるみは初登場ですが、相手役の向坂さきさか恒子つねこは『はるか昔のエジプト精神』に登場しています。

 『遥か昔のエジプト精神』の主人公の晶菜あきな末廣すえひろ晶菜)は、恒子に惹かれながらもわりと距離が取れている感じでしたが、ぜんぜん距離が取れないとどうなるか、ということで、描いてみました。

 なお、『遥か昔のエジプト精神』の前年の話なので、それぞれ学年が一つ下です(恒子が2年、晶菜の同学年が1年)。また、恒子は生徒会にいて、まだマーチングバンド部「瑞城フライングバーズ」の部長にはなっていません。


 ◇コレクション「瑞城女子中学校・高校物語」

https://kakuyomu.jp/users/r_kiyose/collections/16817139558019615113

 ◇遥か昔のエジプト精神

https://kakuyomu.jp/works/16817139556810135815



 ■続おばかさん ぐちゃぐちゃ編

https://kakuyomu.jp/works/16817330654152078628


 KAC2023の3回目のお題が「ぐちゃぐちゃ」。

 「ぐちゃぐちゃ」って何?

 ……というわけで、もう、どうしようと思ったのですが。

 「ぐちゃぐちゃ」だったらこの話の続きを書いてしまおう、ということで、『おばかさん』の続きを書きました。

 『おばかさん』でも、自主企画の目安字数(1000~5000字)との関係で、せっかく作ったのに使っていなかった設定がありました。それも含めて、今度は字数を気にせずに書いてみようとしたところ……。

 こういうお話になりました。

 恒子つねこさんのほうの謎は相変わらず解けないのですが、瑠音るねのほうの境遇はいくらか描けたと思います。

 また、『はるか昔のエジプト精神』に登場した宮下みやした朱理あかりさんが、生徒会時代にどんな生徒だったかも描かれます。

 でも、なかなか設定どおりにはいかないもので。

 瑠音に関しては、ほぼ最初の設定どおりのキャラクターとして描けたと自分では思っています。しかし、成美なるみや朱理、柚子ゆうこについては、最初に設定していたとおりにはならず、設定を変えなきゃな、というところがいくつか出て来ました。

 そうなるのが、小説を書いていて困るところでもあり、おもしろいところでもある、と思っています。

 あと、「なぜ?」と問われると困るのですが。

 この物語を書いていて、主人公を「瑠音」という名まえにしてよかった、と感じました(最初の設定では違う名まえだったのです)。「るね」という音も、「瑠音」という字面も、この少女をよく表している、と、私は思っています。

 で。

 瑠音なんですが。

 このままだとあまりに扱いがひどいので、後日の物語も近いうちに描きたいと思っています。

 でもそれで瑠音がいっそう沼に沈んでしまったらどうしよう……。

 なお、こちらには『遥か昔のエジプト精神』の主人公の晶菜あきなも名まえだけ登場しています。


 ◇遥か昔のエジプト精神

https://kakuyomu.jp/works/16817139556810135815



 ■アンラッキーな菜々

https://kakuyomu.jp/works/16817330654425501187


 「おばかさん」シリーズと同じ瑞城ずいじょう女子高校のお話です。

 『瑞城女子高校四月物語』の後、『はるか昔のエジプト精神』と同時期のお話ですので、舞台となっているのは『おばかさん』の翌年です(『おばかさん』のときには菜々ななはまだ中学生です)。

 菜々は『瑞城女子高校四月物語』に名まえが出てきました。

 『瑞城女子高校四月物語』で激醤油辛いラーメンを食べたり「みかん尽くし」のパフェを食べたりしている毛受めんじょ愛沙あいさの友だちらしいです。愛沙のせいで、生徒指導の事務を担当している金沢かなざわ景子けいこさんにはさっそく名まえを知られてしまいました。

 きっと、「7科目赤点」と「期末で7位」も、金沢さんに覚えられてしまっただろうなぁ。

 また、名まえは出てきませんが、上記「沼らせ女」の向坂さきさか恒子つねこはここではマーチングバンド部(「瑞城フライングバーズ」)の部長になっています。

 で。

 一年生の菜々が遅れて入部した、とか、その菜々が練習に熱中しすぎて赤点連発、とかいう設定は、じつは以前からあったのですが。

 KAC2023の6回目で「アンラッキー7」というお題が提示されたところで、「なな」なら、だから菜々のスーパー赤点物語を書いてしまおう、と思ったわけです。

 もともとの設定では、「赤点を連発」は決まっていたのですが、何科目とは決まっていませんでした。

 また、期末では「上位一〇位までに入る」ということまでは決まっていたのですが、何位というのも決まっていませんでした。

 そこで、ここはもう「なな」にしてしまおう、と。

 瑞城高校マーチングバンド物語はこのあとも続きますので、菜々も愛桜まおも毛受愛沙もまた何かの物語に出て来ることと思います。

 末永くよろしくお願いします。


 ◇瑞城女子高校四月物語

https://kakuyomu.jp/works/16816927862088507961

 ◇遥か昔のエジプト精神

https://kakuyomu.jp/works/16817139556810135815



 ■謎のヌエマ姫

https://kakuyomu.jp/works/16817330654061834606


 『しあわせな誕生日』と『日本史研究室の午後』では主人公が森戸もりと杏樹あんじゅでしたが、ここは同じ研究室の学生のいずみ仁子じんこから見た杏樹の物語です。

 杏樹には仁子は「印象が薄い」と思われているようですが。

 仁子を主人公にしてみると、そんなこともないですね。

 で。

 これが「沼らせ女」第三作なんですけど。

 もはや「ヌマ」ではあっても「沼」ですらない(汗)。

 この物語は、あるところまでは実体験を反映しています。

 はるか昔、大学の授業で中江なかえ兆民ちょうみんの『民約みんやく訳解やっかい』の発表を担当したとき、「このヌエマ姫ってだれ?」と思ったのがきっかけでした。中江兆民は民主的なんだから文章が易しいはず、というのも、そのときの私の思いこみです。

 もうかなり経っているので私の覚えまちがいもあるかも知れないと思い、今回、兆民の文章に当たってから、と思っていたのですが、その余裕がありませんでした。もし覚えまちがいだったらごめんなさい。

 それにしても、「関東の古墳」がテーマのはずの泉仁子!

 古典漢語はまあ昔の日本語を読み解くのに必要なのだろうし、中国語は第二外国語、ラテン語は第三外国語だから知ってるんだろうけど。

 どうして兆民の文章が難しいことまで知ってるんだ?


 ◇しあわせな誕生日

https://kakuyomu.jp/works/16817330649031883251

 ◇日本史研究室の午後

https://kakuyomu.jp/works/16816700426701538279



 ■文化屋書店の話

https://kakuyomu.jp/works/16817330653888757644


 KAC2023の1回目のお題「本屋」に参加するために書いた作です。

 昨年まではKACに参加していなかったので、この作が私の初KAC参加作品です。

 ここ十年ほどで「街の本屋さん」が次々に消えて行きました。

 ちょうど10年前のこと。

 初めて訪れた街の商店街で本屋さんを見つけ、べつに買いたい本があったわけではないけど、立ち寄って、本を何冊か買いました。

 店員さんがとても親切で、また来ようと思って振り向くと「地元のみなさんに支えられてX年、この地で営業を続けて参りましたが、Y月Z日で閉店いたします。長らくお世話になりました。ありがとうございました」と書いた張り紙が出ていました。だったらY月Z日までにこの店にもういちど来よう、と思って、気づいたらじつはその日がY月Z日でした。もういちど本屋に戻るのも気恥ずかしく、そのまま帰ったのを覚えています。

 「この本、私が生まれる前から本棚のここにあっただろう」という本が書店に置いてあった、というのも、20歳台の私の経験です。

 ネットに情報が増え、デジタルで小説が読めるようになり、本も通販で買えるようになって、小規模な本屋さんという業態が成り立ちづらくなってきたのはわかります。まして、町の商店街にそこそこの大きさの書店がある、というのも難しくなってきたのでしょう。

 でも、「街の本屋」や「駅前の本屋」がなくなるのはほんとうにいいのかな、とも思います。

 そんなわけで、「街の本屋が消える話」にはしたくないと思っていると、こういう話になりました。



 ■うさぎのぬいぐるみ

https://kakuyomu.jp/works/16817330653985206496


 KAC2023の2回目のお題「ぬいぐるみ」に参加するために書いた作品です。

 男の子と「お友だち」のまま恋仲になろうとしない女の子のお話です。これで男の子のほうに仲よくなろうとする気もちがあれば「沼らせ」に近づくのでしょうけど……どうなんでしょうね?

 彼女のほうも、ほんとはどういう気もちなのか? 彼氏とは別に、彼氏についての愚痴を安心して言えるような「男友達」を確保したかった、というのが、彼女の説明なんでしょうけど、果たしてそれは「本心」なのか?

 私にもよくわかりません。



 ■お化け郵便局の思い出

https://kakuyomu.jp/works/16817330654189567317


 KAC2023の4回目のお題「深夜の散歩で起こった出来事」に参加するために書いた作品です。「うさぎのぬいぐるみ」を書いたときに作った設定(主人公のアパートの場所など)で、使っていなかったものがあったので、その一部を使いました。

 このお話も、ある程度は私の体験に基づいています。

 引っ越してすぐ、あとで考えると「どうしてこんなところで迷ったんだろう?」というところで迷ったことがありました。

 さすがにこの物語に描かれているほどではありませんでしたが。

 あと、いまの郵便局は、表通り側がガラス張りで、そこにぽすくまのポスターが貼ってあったりして、明るい印象のことが多いですけど、昔の郵便局は概して地味な建物だったと思います。

 私が東京に出て来てよくお世話になった郵便局もそういう郵便局でした。

 その思い出もそこに加えて、この物語を書きました。

 じつは、自転車屋さん以外にも、郵便局の「並びの店舗」を設定したのですが、その設定は使わないまま残っています。また何かの機会に使えるといいのですが。



 ■脳みそと筋肉

https://kakuyomu.jp/works/16817330654321973804


 KAC2023の5回目のお題「筋肉」に参加するために書いた作品です。

 「筋肉」なら「すじ肉」だろう、しかしそれを「すじ肉」と読むとしたら、ということで、外国育ち、話しことばとしての日本語は使いこなせても漢字がわからない、という設定になりました。

 あと、「愛すべきどら息子」(愛せないかも知れないけど)の出て来るお話を書いてみたいということもありました。

 親がエリートといえばお医者さん、それも難しい医療のエキスパートだろう、ということと、最近、心臓に難病を抱えた方のお話をうかがったということもあって、こういうお話になりました。


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「沼らせ女」・KAC2023参加作 あとがき集 清瀬 六朗 @r_kiyose

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