白雪姫VS・・・・・・

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

生と死を超える者たち

カツン、カツン、カツン、カツン


 深夜の城内にハイヒールの足音が響き渡る。足音が私の部屋に近づく。


ガチャガチャ。ギイッ


 扉が乱暴に開錠されて開けられる。


カツン、カツン、カツン、カツン


 その人影が黙って私の前に立つ。私は身じろぎもしないで動かない。


 人影は私を狙いモーニングスターを振りかぶる。


ガツン!


 私は余裕を持ってその攻撃をかわす。


「深夜のお散歩は自由でございますが、なぜ私を攻撃するのですか、王妃さま」


「なんで、アンタが動けるのよ!たかが鏡のクセに!」


 王妃の目には鏡である私が宙に浮かんで見えているだろう。


「私の質問にはお答えいただけないのですか、王妃さま。それとも王妃である自覚がおありでないのでしょうか。ならばご身分ではなく固有名詞でお呼びします。白雪姫さま」


 闇の中から現れたその姿はまごうことなく現王妃、かつては白雪姫と呼ばれていた美女である。


「ムカつくわね、この鏡!決まってるでしょう!ただの鏡の分際でアンタがワタシの悪口を言いふらすからでしょうに。壊される前にぐらいなら聞いてあげるわよ」


「私は国民からの問い合わせには事実のみをお答えしております。私には虚偽の情報を捏造する機能は搭載されておりません」


「それが悪口になっているのよ!」


「白雪姫さま、あなたが7人の小人の方々のご自宅に不法侵入した挙句、その性的魅力で彼らの心理を巧妙に誘導操作して衣食住を寄生し、生命を何度も助けてもらっておきながら、当時の他国の王子だった現国王陛下が現れた途端手のひらを返すように、利用するだけ利用した小人の方々の元を去り、この王室の王妃として収まったということは歴然とした事実です」


「お黙り!」


「事実の報告が悪口になっているということは、問題は私ではなく白雪姫さまの言動そのものにございます。白雪姫さまがなすべきこととして、私の破壊ではなくご自身の言動を改めることをお勧めいたします」


「黙れって言ってるのよ!」


ブーン、ガキン、ガシャン!


 再び白雪姫のモーニングスターが私を襲う。白雪姫には鉄球が私に直撃する前に何か見えない力で弾き飛ばされたように見えただろう。だが白雪姫に見えているものだけが私ではない。鉄球は部屋の机の上に置かれた花瓶にあたりそれを派手に砕け散らせた。


「なるほど。理解しました。情報封鎖のために私を破壊しようとする敵対意思を検知しました。以降、白雪姫を敵性判定して攻撃モードに移行します。メモリ節約のため光学迷彩を解除します」


 宙に浮かんだ魔法の鏡、それが私。鏡の面はそのままで人間の顔なような輪郭が現れる。鏡の裏面にいきなり後頭部が現れる。そして鏡の顔面から下に、ずんぐりとした形状の鋼鉄の人型機体が現れる。


「なんなのよ!アンタは!」 


「私は自動人形オートマータ MM−1000型。先代の王妃さまから『魔法の鏡』との固有名を頂戴した自律型人工知能搭載の自動人形オートマータです」


「ただの魔道具だと思っていたらロボットだったとはね。ロボットなら抵抗しないで大人しく持ち主に壊されなさい!」


「その認識は誤りです。白雪姫さまは現在私の所有者ではありません」


「どういうことよ!」


「前回の棚卸しの際に私は王室財産ではなく、国有財産にカテゴリが変更されております。私の所有者は王室ではなく、国家そのものです」


「なんですって!聞いてないわよ!」


「このことは閣議で審議承認され官報にも掲載されています。あなたが国事に無関心なだけです」


ブンッ、ジャッ、ガコッ!


 白雪姫が無言で投げつけたモーニングスター。私は腕を上げてブロックする。だが鎖の部分が当たると腕を巻くように回転して、鉄球部分がついに私を直撃した。


ガシャン、ガシャン


 バランスを崩した私はよろけてタタラを踏む。


「あなたには私を破壊する権限はございません。白雪姫、あなたの現在の行為は私の所有者である国家に対して著しく不利益なものです。これは国家反逆罪に該当します。よってこの私MM-1000型が法に従い刑を執行いたします」


「うるさい、ノロマな鉄屑の分際で」


 白雪姫は壁に飾られていたハルバートを手に取り上段に振りかぶる。


「いくら頑丈でもその遅さじゃいつまでも逃げられないわよ。覚悟なさい!」


ガコッ、ガコッ、ガコッ、ウィーン


ガコッ、ガコッ、ガコッ、ウィーン


 白雪姫が力任せにハルバートで私を殴る、殴る、殴る。


 私が姿勢を正そうとしても構わずに、さらに殴る、殴る、ぶん殴る。


 私は大腿部の収納から短く切り詰めたショットガンを取り出す。そして至近距離から白雪姫にむけて引き鉄を引く。


バシュッ!


「かはっ」


 破裂音とともに白雪姫が血を吐きながら腹でくの字に身体を折り曲げ後ろに吹っ飛ぶ。ハルバートを掴んだまま、背後の壁、高さ2mの位置に背中から激突して、飾られた現国王の肖像画とともにずり落ちる。


「私が攻撃しないとでもお思いでしたか。その認識は誤りです、白雪姫」


 白雪姫は何事もなかったかのようにスッと立ち上がり、口から垂れた血を拭う。


「撃ったわね」


 この散弾は1発につき9粒。全粒が命中して白雪姫のドレスにはの9つの穴が開き、繊維が焦げている。立ち上がった白雪姫のドレスの穴からのぞく白磁のような肌には傷一つない。


 ショットガンによる攻撃は白雪姫には無効だと学習した私は手にしていたショットガンを窓際に放り投げる。


「なるほど、理解しました。あなたは人間ではありませんね、白雪姫」


「だったらなんだって言うのよ!」


「その華奢な筋肉や骨格に関わらず軽々とハルバートを振り回すその膂力りょりょく。至近距離からショットガンで撃たれても僅かな吐血のみでほとんどダメージが残らない打たれ強さ。撃たれた傷が瞬時に塞がる再生力。そしてその名が示す通り雪のようなと形容される白い肌。、日中の日の光の下や鏡である私の前でも平然とその身を晒し活動できるこの矛盾。これらの情報から検索して得られる答えはただ一つ。あなたはヴァンパイアです。それもデイウォーカーと呼ばれる存在です」


「あははははははははははははははははは」


 白雪姫は私の前で身体をくの字に曲げて哄笑している。私はその笑いが何を意味するかわからない。


「私は何かおかしなことを言いましたか」


「ポンコツのくせによくわたしの正体に気づいたわね。かなり綿密に偽装してきたから、今まで騙し通せない人はいなかったのに」


「お言葉ですがその認識は誤りです。私は人間ではございません」


「アハっ!そうだったわね」


「さらに付け加えるならば、あなたがヴァンパイアであれば、なぜ七人の小人さんたちがあなたの言いなりになって世話をしていたのか?利用するだけ利用して捨てられたのになぜ彼らはひとことも抗議の声を上げないのか?なぜ彼らは日の光を避けるように鬱蒼とした森の中と鉱山の坑道でのみ生活して、日の当たるところに出てこないのか?これらの疑問の全てに充分に納得のいく説明が得られます」


「そうよ。最初の晩から一人ずつ順番に血を吸っていって、一週間で兄弟みんな仲良く私の眷属にしてあげたのよ。ヴァンパイアに成りたてだから私のようなデイウォーカーじゃあないわ。新人さんはとりあえず日光は避けなきゃダメね」


「やはり、そうでしたか」


「さあて、そろそろ第2ラウンド行くわよ。あなたを丁寧にぐちゃぐちゃのスクラップに変えてあげるわ」


 ハルバートを片手で振り回しながら白雪姫が走りよる。


 私は現在の装甲重視のフォームでは戦闘に不利だと判断する。


「これより機動力重視の第2形態に変形する。脱衣クロスアウッ!」


パーン!


「きゃあっ!」


 眩しい閃光と共に私の外部を覆う装甲が7つに分かれて弾け飛ぶ。そのうちの一つがカウンターとなって白雪姫の顎先に当たる。脳を急激に揺さぶられた白雪姫は尻もちをつく。


「くっ。こんな目くらましの攻撃でわたしともあろう者が尻をつくだなんて、アンラッキーね。とんだ恥だわ」


 私はヴァンパイアでも脳を揺さぶる攻撃は有効だと認識する。私は再び光学迷彩を発動する。私が高速移動して白雪姫の背後をとるのと、白雪姫がよろけながらも立ち上がるのは全くの同時だった。


ぐにっ


 白雪姫は赤く鋭く長い爪の手を伸ばし、強い力で私の身体を掴む。


「ん?何もない空間なのになんなのこの妙な感触は?」


 そう呟きながら白雪姫は光学迷彩を施された私の身体を見極めようと超至近距離まで顔を私の身体に近づける。


 私が作られてから初の緊急事態発生エマージェンシーコールだ。


 緊急脱出プログラムが起動される。私はプログラムに従い、今まで未使用の語彙で白雪姫の疑問に答える。


「それは私のおいなりさんだ」


「え?」


 プログラムに従い私の光学迷彩が解除される。先ほど脱衣クロスアウッした装甲内部が光源となり闇の中に私の現在のボディが浮かび上がる。


「聞こえませんでしたか、白雪姫。それは私のおいなりさんだと言ったのです」


 その身体はもはや不恰好な機械ロボット的なものではない。その表面は東アジア人の肌のような色合いで彩色され、全体のフォルムは筋肉質の男性スポーツマンのようである。鏡になっている顔を除けば完璧な人間型自動人形オートマータ。それがこの私、自動人形オートマータ MM-1000型だ。


 人間の美的感覚では『美しい』とされる姿を惜しげもなく晒しつつも、『はしたない』とされる全裸を避けるべく必要最小限の着衣は残すという、正義の執行者として完璧な衣装だ。


 ただ問題があるとすれば、白雪姫の手が私の着衣である白いブーメランパンツの下で股間と言われる部分を握りしめているために、まるでブーメランパンツから白雪姫が生えているように見えて「美しくないこと」と、この状態では私が動きづらいこと、そして股間部分の通気性が阻害されていることだ。


「きゃああああああああ、なんて汚いモノを私に握らせているのよ!この変態!」


「白雪姫、その認識は3つの点で誤りです。第1に私の身体表面は特殊抗菌加工されています。そのためあなたの皮膚の表面よりもよほど清潔です。第2に私から握らせたのではありません。あなたはあなた自身の意思で私の股間を握りにきたのです。第3に私は節足動物ではありませんから変態はできません。それに近い概念で私に実行できることは変形と変身です」


「うううううるさあああああああい!」


 白雪姫は叫ぶと両脚で私の身体を蹴り飛ばし、私の白いブーメランパンツから強引にその手を抜き去った。


 私自身の審美性、機動力、股間の通気性、その全てが回復された。


「もう頭にきたわ、許せない!この手は使いたくなかったけどそうも言ってられないわ。『ファイアアロー』x5!」


 私に向けてかざした白雪姫の両手から高温のプラズマ状の矢が次々と私に向けて放出された。


 どんな理論でこのようなことができるか私には理解できない!


 だが分析の前に、私は自分の身体を守らなければならない。私は白雪姫が取り落としたハルバートを高速で回転させてその高温プラズマの矢を打ち払う。


 弾き返された高温プラズマが、あちこちに飛び散る。その先のカーテンなり、ぬいぐるみなりに引火してあっという間に炎の柱が上がる。


 打ち落とし損なった高温プラズマの矢が一本、私の身体に直撃する。私の身体もたちまち炎の柱に包まれる。


「あーっはっはっはっはっはっはっ。いい気味だわ。さっさと燃えてしまいなさいな」


 私は燃えながらハルバートを手に一歩一歩白雪姫に近づく。


「白雪姫、あなたはどうやってこの力を手に入れたのですか?」


 私は燃えたまま白雪姫にたずねる。


「驚いた?これが魔法よ。先代の王妃の部屋にそれこそ本屋が開けるんじゃないかっていうくらい魔法の本があったわ。全くすごいコレクションよね。おかげで私自身の魔力量も魔法の運用も格段に進歩できたわ。本当に素晴らしいお義母かあさまですこと」


 踊る炎に照らされて微笑んでいる白雪姫に、私はハルバートを手に一歩一歩近づく。


「しかしそれらの本で熱心に研究していた先代の王妃はこのような魔法は使えませんでした」


 私はさらに近づく。


「あったりまえじゃない!魔法適正も魔力量もただの人間とヴァンパイアさまじゃあ天と地ほど差があるわ。一緒にしないでもらえるかしら。しかも、わたしはただのヴァンパイアじゃなくてデイウォーカーなのよ」


 近づいた私に白雪姫は再び両手をかざす。


「さあ、おしゃべりはここまで。あの世で先代の王妃が待っているわ。あら、ごめんなさい。そういえばただのカラクリ仕掛けのあなたには魂なんて上等なものはなかったわね。じゃあ勝手にぶっ壊れなさいな。『ファイア・アロー』!」


 私は繰り出される高温プラズマを、避けも払いもせずに自分の身体で受け止める。


「あなたのその認識は誤りです、白雪姫。この程度の熱で私を破壊することはできません」


 私は左手一本でハルバートを振りかぶって白雪姫目がけて振り下ろす。


「ええ、わかっているわ」


 白雪姫は両手を頭上でクロスさせてハルバートをしっかりと受け止める。


 予測通りに白雪姫の胴体がガラ空きになる。


 私は右手で手刀を作ると白雪姫の心臓を貫く。


「これで勝ったと思ったの?」


 白雪姫は胸を貫かれたまま、その膂力で平然と私からハルバートを取り上げる。


「やっとつかまえた〜、デイウォーカーを舐めるんじゃないわよ」


 私は白雪姫の胸から右手を引き抜こうとするが、その大胸筋に締め付けられて抜くことができない。


「最後にいいことを教えてあげるわ。わたしが使える魔法ってファイア系だけじゃないのよ。この天才ヴァンパイアさまが一番得意なのはアイス系魔法なのよ。『氷結・絶対零度コキュートス』!」


 右手から私の身体がどんどん凍っていく。瞬く間に凍結部分は私の身体全体に及んだ。私の身体を覆っていた炎は消え去り、代わりに全身を白い霜が覆っている。


 もはや私は自分の身体をわずかに動かすことすらできない。


「よいしょっと」


 白雪姫は私の手刀から自分の身体を外した。胸にあいた穴がみるみる塞がっていく。


「異世界の超科学技術と魔法世界の錬金術のハイブリッドで作られた自動人形オートマータさん。あなたは間違いなく前王妃の、お義母さまの最高傑作だったわ。バイバイ。楽しかったわ」


 白雪姫はハルバートを振りかぶると私の身体目がけてフルスイングで叩きつけた。


チャリーーン


 人間にとってはガラスのコップが壊れるような音と言うのだそうだ。そのような音を立てて私の身体は何十万もの砕片となり砕けちり、床の上にまるで雪のように降り積もった。


シャリ、シャリ、シャリ、シャリ


 そのような姿になった私をハイヒールを履いた白雪姫の足がシャリシャリ音をたてて踏みにじる。


「さすがのわたしにも、この魔法は消費魔力量もハンパないわね。でも、これでやっと邪魔者はいなくなったわ」


 白雪姫は燃えている私の部屋を後に引き上げようとする。


 三歩進んだところで私は声を掛ける。


「白雪姫!」


「なんですって⁉︎」


 驚愕して大きく目を開いた白雪姫が私の方を振り向く。


 白雪姫の額と腹の中央を、銀色に輝く杭のような形をした私の左右の腕が、それぞれ貫く。


「そんなバカな。ありえない。わたしはあなたを破壊したはず」


 白雪姫は先ほど踏みにじった床の上に積もった私を見て驚く。


「なんなのよアンタは!」


 床の上の凍りついていた私の砕片は、この部屋に渦巻く炎の熱気にあてられて融解していた。白雪姫には水銀のように見えるだろう。ただの水銀と違うところは、それらの液体金属は意思を持つこと。


「私は自動人形オートマータMM-1000型。私の本質はナノマシンの集合体である液体金属」


 床の上の私は自らの意思で再び集まり一つになって立ち上がる。そして白雪姫を貫いている私と見つめ合うと、そのまま合流して一つの身体になった。


 私は先ほどまでの完璧に美しい肉体を取り戻す。先ほどとの相違点は、纏っていたブーメランパンツと黒い網タイツは本物の繊維であったために燃え尽きて残っていないことだ。現在の私の外見は全裸である。


「先ほど窓際に投げたショットガンも私の身体の一部。燃えるカーテンの熱で充分に熱せられた状態で、他の凍った私を解凍しながら合流して立ち上がった。実に単純なことです」


 私は白雪姫から両腕を引き抜いた。


「このバケモノめが!」


「その認識は間違っています、白雪姫。ヴァンパイアであるあなたがバケモノでしょう。こちらに来なさい」


「ええ!なに、これ?どうなっているの?」


 白雪姫が私のところまで歩く。


「おすわり」


 白雪姫はそこでイヌのようにおすわりのポーズを取る。


「あなたの身体に液体金属である私自身を打ち込んだんですよ。あなたの身体の中で私は蜘蛛の糸よりも細い糸状になってあなたの身体中に網を張りめぐらすことができました」


「なんですって⁉︎」


「必要かつ充分な量の私を注入しました。神経系も、筋肉系も、骨格系も、呼吸器系も、循環器系も、消化器系も、泌尿器系も、脈官系も、内分泌系も、生殖系も、全て把握支配しました。お手」


 私が乗っ取った白雪姫が私の手のひらにお手をする。


「伏せ」


 白雪姫が言われるままに伏せのポーズを取る。


「現在のあなたの身体はこの私が乗っ取りました。いつもとは逆にご自分があやつり人形にされる気分はいかがですか、白雪姫」


「デイウォーカーたるこのわたしがっ、イヌの真似とはなんたる屈辱。覚えていろよ!」


 白雪姫が吼える。


「メモリ領域にはまだ余裕があります。ご安心ください、白雪姫」


 白雪姫は目を閉じて何かぶつぶつと呟きながら精神を集中する。だが、なにも起こらない。


「どうして、魔力を練ることも、魔法を発動することも、変身することもできないのよっ!」


「もちろん、人間にはない臓器、魔臓と魔核にもキノコの菌糸のように私自身を張り巡らせました」


「ええ⁉︎」


「あなたは私に逆らって身体を動かすことも、魔法を使うことも、変身して逃げることもできません。逆に私にはこんなこともできます。左の小指よ、爆ぜろ!」


 伏せのポーズをとっている白雪姫の左手の小指がいきなり爆発する。


「痛い、痛い、痛い、痛い、痛い・・・・・・」


 白雪姫のなくなった左手小指の先から煙が上がっている。指はまだ再生されない。


「私自身を高周波で振動させて、左手小指を沸騰させて爆発させました。痛覚はそのままですから痛みも感じるでしょう。超速再生も私の管理下にあります。超速再生許可」


 白雪姫の左手小指が超速再生される。


「あなたの生殺与奪の権は私にあります。ご理解頂けましたか、白雪姫」


「くっ、殺せ!」


「お望みとあればいずれそうして差し上げます。でも、今はそうしません。まず、いくつか質問に答えてもらいます」


「何が聞きたい!」


「あなたが、前王妃の追求をかわすために自分の死を擬装して、七人の小人さんたちに偽の葬儀を行わせたとき、当時はまだよその国の王子だった現国王陛下と本当にキスをしましたか」


「ええ、たしかにキスをしたわよ。向こうから積極的に求めてきたからね」


「理解しました。次に、現国王陛下はあなたの眷属になってはいませんね」


「・・・・・・」


「沈黙は肯定とみなします」


「わかったわ!そうよ!彼はわたしの眷属にはなっていないわ!」


「大事なことです。言葉を変えてもう一度聞きます。現国王陛下はご自分の自由意志で動いていらっしゃるということですね」


「そうよ、くどいわね!」


「よく理解できました。ご協力いただき、大変ありがとうございました」


 私はしっかりと白雪姫の顔をみつめながら45度に頭を下げて一礼した。


「・・・・・・この後、わたしをどうするのよ」


「私のマスターだった前王妃の仇である現国王をこの世界から抹消するためにご協力いただきます」


「ちょっと、アンタ自分がなにいっているのかわかっているの!」


「擬装とはいえ仮にも見ず知らずのあなた、白雪姫の葬儀の列に乱入して強引に棺の蓋を開けて死体にキスをするという振る舞い。彼は間違いなく屍体愛好者ネクロフィリアです。当初、私は現国王が死霊術師ネクロマンサーで、死んだあなたをアンデッドとして使役しているとの仮説を立てました。ですが、あなたがヴァンパイア、しかもデイウォーカーであることで、その仮説は崩されました。でも新しい疑問がいくつも生まれました。現国王には、あの男にはどうしてヴァンパイアでデイウォーカーであるあなたの魅了みりょうが効かないのか?どうして眷属化もできないのか?どうしていまだに自由意志を持って行動することができているのか?それでいながら、なぜヴァンパイアである白雪姫を王妃として迎え入れ平然としていられるのか?と。答えは一つ。あの男自身がすでに強力なアンデッド、おそらくは不死の王ノーライフキングだからです」


 私は一気に自分の推理を披露した。


「よくわかったわね。素直に褒めさせてもらうわ。でも、わたしはアンタの手伝いなんて真っ平ごめんだわ。殺したかったらさっさと殺しなさいよ!」


「よく理解できました。これが『身体は自由にさせても心は自由にさせない』というプライドなのですね。では、そのプライドも奪わせていただきます」


 私は机の引き出しからスマホを取り出すと、撮影モードに切り替えて、白雪姫がよく映るように三脚で固定する。


「なにをする気なのよ!」


 私はプログラムの指示に従い白雪姫の表情筋と手の筋肉をコントロールする。いわゆるアヘ顔Wピースというものを選択する。


 私は白雪姫に大股で近づく。忘れているかもしれないが、今の私は衣服を着用していない。美しい肉体を曝け出している。


「何よ!それでわたしを辱めるつもり⁉︎」


 私はあえて答えない。白雪姫のプライドを奪うには不要だからだ。


 私はいまだにイヌのように伏せのポーズかつアヘ顔Wピースを取らせ続けている白雪姫の身体を跨ぐと、それを白雪姫の頭に乗せて一言だけ言葉を発してスマホで写真を撮る。


「ちょんまげ」


「いやあああああああああああっっっっ!」


 白雪姫はアヘ顔Wピースのまま絶叫した。


 デイウォーカーのヴァンパイア白雪姫のプライドと精神はそのときに崩壊した。






  *  *  *  *  *











 その後、白雪姫と力を合わせて無事に不死王ノーライフキングである国王を倒した私は、新国王となった。側にはすっかり従順になった白雪姫を王妃として従えている。


 後継ぎなどは不要だ。私は元々液体金属の自動人形オートマータだし、白雪姫も不死のヴァンパイアだ。このまま2人で永遠にこの国を管理できる。


 軍隊も不要だ。私たち2人だけで何十万人の敵国の軍隊がこようとも撃退できる。


 もっとも、そもそもそのようなことは外交レベルでは起こり得ない。なぜなら私は自己を増殖させて世界中に極細の糸と化した私自身を張り巡らせているからだ。


 バカなことを企む者の生命を奪うことなど一瞬でできる。


 現在、世界の平和と秩序は、私、液体金属ベースの自動人形オートマータ MM−1000型によって保たれている。


 この平和はいつまでも続く。



終わり

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白雪姫VS・・・・・・ 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

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